Gathering! 皇子が潜入した先は。【中】
「と、言うコトで不戦敗を選択する事した!」
式が終って、例の長方形の建物の中から一室がオレ達にあてがわれ、部屋に入っての第一声。
「え?」
「オレは戦わない。国の威信なんて知ーらないっと。」
無駄な対抗意識は捨てましょう。
「いいんですか?」
ミリィはさも大事だと言わんばかりに瞳を大きく見開く。
「知らん。見栄を張りたいなら、兄上が戦えばいい。」
うん、それがいい。
神器を振り回して、相手をなぎ払う兄上は些かながら大人気ないっちゃ、大人気ないが。
「まぁ、確かに各国の代表が誰が出て来るかは気になる・・・が。」
第一、宗教国家とか言うアレは、そんな争いには乗ってこないんじゃないだろうか。
「が、オリエと遊んでる方が楽しいもんなー。」
オリエを抱き上げてくるくると回る。
何か、コレ、定番になりつつある。
突然でも一切嫌がる様子がないというのもいい。
単純に面食らっているとか、呆れているという線も否めないが。
「可愛いぞ、オリエ。」
寧ろ、どう屁理屈を並べ立てて彼女を国に連れて帰るかを考えた方が、絶対に精神的に良い。
「なんて、上機嫌のまま生きていけないよなぁ・・・。」
オリエを寝台に下ろして、溜め息をつく。
確かに一時、国からも地位からも離れて気分が高揚しているとはいえ、大半が空元気だ。
それはわかってる。
脳裏では『早く情報を集めろ!』とがんがん言ってきて、それが渦巻いている。
結局ここに来て今現在で理解した事は、建前で塗り固めきれない各国の見栄と、国の政治の重要さだ。
オリエを助けたのだって、ミリィの頼みとオレの罪悪感を軽減する偽善と自己満足。
彼女が愛らしいと思うのは本心だけれど。
なんだろう・・・コレってアレか?
"躁鬱"ってヤツか?
「あ、トウマ様!この部屋、お湯を張れる部屋がありますよ!」
お?
まるで簡易の宿屋並だな。
寝台が大きいの一つに、一人用一つってのが気に入らないが。
二人部屋じゃないのか?コレ。
「あ、まさか、オリエが小さいからの仕様?」
ちらりとオリエを見ると、またキョトンとしている。
喋れないから、細かな反応が取れないのだろうか。
「んじゃ、ミリィ、オレが水を汲んで来るよ。」
「え?」
「水を汲まないとお湯をわかすどころか、入浴すら出来ないだろ?」
「あ。」
得心がいって良かった。
「わ、私が汲んで来ますよ!」
「いいよ。今は身分とか関係ないんだし、力仕事は男がやるもんだろ?」
今のうちに普段体験しないような事を満喫しなくては。
水汲みを満喫というのも笑えるな。
軽い鍛錬だと思えば、なんて事は無い。
「普段出来ないコトねぇ・・・。」
ここは試しに。
「オリエ、お風呂をオレと一緒に入るのと、ミリィと一緒に入るのとどっちがいい?」
ちょっぴり考える仕草をして、おずおずとオレを指差すオリエ。
恥ずかしいのか、顔がほんのり赤い。
ふむ。調子に乗り過ぎただろうか?
「トウマ様・・・。」
ミリィが呆れてら。
「んじゃ、ミリィ。オレと一緒にお風呂に入るのと、オリエと一緒にお風呂に入るのとどっちがいい?」
更に調子に乗ってみようじゃないですか。
「へ?変な事を聞かないで下さい!」
オリエより、尚、盛大に顔を赤らめたミリィに睨まれた。
何というか・・・変に知識がある分・・・。
「ミリィのスケベ。」
「トウマ様に言われたくないですっ!!」
「あはは。」
いやいや、どうだね、楽しいね。
皇子という地位が無かったら、こういう風に同世代の女の子と接していたのかね、オレは。
「・・・誰だ?」
ふと、扉の外に人の気配を感じた。
扉が叩く音がする中、オレはすぐさま自分の剣を一振り手に取る。
「アイシャ様の使いで参りました。」
扉越しに聞こえるくぐもった声。
「アイシャ?そんな人物は知りませんので、お引取り下さいな。」
大人しく引き下がってくれないかなぁ・・・なんて。
「え?!でも、他にトウマという方がいらっしゃらなくて・・・姫様は、"トウマという人物"を連れて来いとしか言わなくて・・・。」
あれ?何故かすすり泣くような声が・・・。
何だ?これじゃあ、オレが悪者みたいじゃないか。
「・・・君、一つ質問していいか?」
「はい・・・なんでしょう?」
二百歩程譲ってやろうじゃないか。
「君の所の屋敷、浴場広い?」
「はぃ?」