Gathering! 皇子が潜入した先は。【前】
鐘のついた尖塔を持つ建造物。
その右隣には長方形の建築群。
左隣には様々な様式の小建築群、これは多分各国の建築様式を用いた建物だと思う。
「お金のある貴族や王族はいいですねっと。」
愚痴の一つも言いたくなるが、ヴァンハイトの建物が無くてほっとしたってのが正直なトコロ。
もしあったら、兄上に如何に費用の無駄遣いかを、一から滾々と説明してやろうぐらいの気持ちにはなっただろう。
んで、その豪華な建物達の横にオマケ程度の大きさである長方形の建物が、恐らく一般の人間達の居住区だろう。
朝から脱力しながら、それらがある敷地の門をくぐり本堂へ。
そうそう、正装の服の件だが、あれから紋章の入った上着だけを着替えた。
国と近衛師団の象徴である青色の服さえ着ときゃいいだろう。
そんなヤケ気味に至り、今、本堂で入寮式(?)とやらに出ているワケだ。
各国に一定水準以上の特色ある教育と交流を建前にしているくせに、お貴族様方と並ぶ場所が別とか呆れる。
「ミリィ、オリエ、何かあったら必ず報告するんだよ?」
これは何やら思った以上に身分格差がありそうなので、一緒にいる二人に声をかけ微笑む。
二人共(半ばゴリ押しで)オレの二人の従者という事にして、門をくぐった。
オレの身分さえしっかりしていれば、特に問題がなかったようで良かったよ。
オリエに関しては、見事に最年少ではあったけれど。
「さてさて・・・。」
とりあえずは観察だ。
誰がデキる奴で、誰を警戒するか。
ついでに平民出身の方々で、貴族の思想の影響がない良い人材は、引き抜いてみようとも思っている。
お貴族様はやっかいなので、目を余り合わせないように観察だけという方向性。
「ん?」
真紅の正装服を着た女性が、手を振っているのが見えるんだが・・・。
思わず目を合わせると、にこやかに微笑む始末。
「だから、二人だけの時以外は自重しろと・・・。」
昨夜、一晩を共にした女性がそこにいたのを強制的に視線から外した。
「お集まりの皆様。ようこそ、この砂漠の学院に。」
本堂の壇上に、白い礼服の女性がいる。
金色の長い髪に薄紫の瞳。
肌は抜けるように白く見える。
遠いから、それ以上細かくはわからないが。
「あれが宗教国家の姫ってコトか・・・。」
この施設の発案者とやら。
「今回、ようやくヴァンハイト皇国にも主旨に賛同頂けました。」
ま、オレ一人だけどな。
「これで、五ヶ国の賛同を得られた事になります。」
女性がチラリと壇上の隅を見ると、四人の人間が座っている。
流石に国王はいないみたいだが、王族筋の方々だろう。
・・・だって、兄上がいるもん。
「なにやってんだか・・・。」
確かに他に来られる様な人間はいないけれどさ。
つまりは、あの服の赤いのが決闘女・・・アイシャ姫だっけ?の国の人間か。
興味は、実は限り無く低い。
他の国の人間なんて使っている武器さえ見れば、すぐに何処の国かわかるし。
判明しないのは見習い級の従者とか・・・。
「オレか。」
着ている服は"青"だけれど、今は武器を携帯していない。
武器を持ったとしても、何が何やらはっきりしない状態。
苦笑するしかないな、自分の異端っぷりに。
「・・・であるからして、諸君には大いに各国の技術を取り入れ、故国で役立てて欲しい。」
あ、何時の間にやら各国の偉い人の話に・・・。
「オリエ、飽きてないか?」
横にいるオリエの頭を撫でると、キョトンとした表情でオレを見上げて首を傾げる。
可愛イ。
最高に愛らしい。
ダメだ、完全に親バカだオレ。
「と、言う事で、各国の垣根を越えてというのをまず率先して我が国が示そうと私は思うのである。」
ヤベ、話がどんどん進んでら。
「そこで、どうであろう。模範になるかわからぬが、各国の人間が少し故国の武を見せてみるというのは!」
は?
馬鹿なんじゃないのコイツ。
そこまでして、自国が優秀で如何に強いかを主張したいのか?
呆れる。
あぁ・・・あんなに胸を張っちゃって、まぁ。
「大変な事になりましたね、トウマ様。」
「大変というか呆れたよ、ミリィ。」
ああいうのが国にいるってだけで、貴族の幻滅度が増す。
スクラトニーみたいなヤツを出したオレの国が偉そうな事は言えないけど。
「怪我しないで下さいね。」
「何が?」
「だって、トウマ様、戦うんでしょう?」
「は?」
何を唐突に言うのさ、この子は。
「ヴァンハイトからは、私達三人しか来てないはずだから・・・トウマ様が出るんですよね?」
あ゛。
「ははっ・・・はぁ・・・。」
乾いた笑いと溜め息しか、もう出て来ないや・・・。