Feel! 皇子の手が掴みたいモノ。
「ちわー。」
底抜けに明るい声を出してみた。
段々と下がってきた気分が嫌になってきたから。
「お、来たかい。」
朝早めにも関わらず、しっかりとした反応。
例の施設に行く前に調整を頼んだ武器を取りに来ていた。
「朝からまた刺激的な・・・。」
今朝もやっぱり彼女は下着姿だった。
「アンタだって、今日は見違えてるじゃないか。」
「あー、もうそれは突っ込まないで。」
今のオレは正装なのである。
あぁ、勿論、皇子としての正装ではない。
「それ以上言われると、立ち直れないから。」
「そうかい?ふぅん、双剣の白獅子ねぇ・・・。」
あぁ・・・あぅ・・・一番聞きたくない事を・・・。
一応、ヴァンハイトからの推薦という事で施設に入るので、国の何処かに属さなければならなくなった。
それを見越して、兄上が用意していたのがコレ。
"双剣を掲げし白き獅子"の姿の紋章が入った服。
"兄上の近衛第一師団所属の証"・・・勘弁しろ。
本当に。
まさか、これが本当はやりたかっただけじゃないだろうな?
ヴァンハイトの兵士の何割の人間が、この服に憧れてると思ってんだあの兄上は。
「本当にヤメて・・・今すぐにでも脱ぎたいくらいなんだから・・・。」
肩もがっくりと落ちるさ、そりゃ。
「ま、"アレ"に行く人間は基本的にワケありか、優秀かのどっちかだから驚かないケドねぇ。」
ニヤリと笑う。
「とにかくだ。出来てます?」
「勿論。」
そう言って、銀色に光る長剣を投げてくる。
「ほっ。」
鞘と柄を掴み、即座に抜き放つ。
空気を切る音がするほど円形の軌跡を描きながら、柄の端に指をかけくるりと回し納剣。
「へぇ。」
「少し、手元を重くしてくれるか?」
驚いた。
意外に軽く、硬質。
しかも何だ?この外見は?
買った時は、もっとずっとくすんだ銀色だったぞ?
「ん?磨いたら、そんな感じになったのさ。」
訝しげなオレの表情を見て、すぐさま答えをくれた。
「どうやら、銅と鉄の比率がえらく低いらしい。」
「それで軽いのか。何が使われているんだ?銀か?それにしては硬い。」
銀は細工物に使われるくらいで、本来は硬質なものではない。
「銀と鋼と白金かな。」
「ヲイヲイ。そんなモノをあんな値段でいいのか?」
どう考えても素材の時点で高価だ。
大体、鋼だけでも高価だっていうのに、そんなもので剣を造ろうとすらしないぞ、普通。
「剣との出会いなんて運命だよ、女と同じ。」
ディーンの剣もか?
「実感してるよ、そんなの。」
「ん?」
聞こえなくて良かった。
「簡素な形も多分計算上の事なんだろうな。」
ぱっと見て、鋳造に見えるから、型も硬度を上げるのに一役買ってるんだろう。
「次はこっちだね。」
双剣の柄を手に取り、鞘を残して抜く。
両手で交互に円を描き、空中で左右を持ち替える。
どちらの剣が、どちらの手により馴染むか。
それを確かめて納剣すべく柄を彼女に向ける。
「これも何か・・・不思議なカンジがするな。」
何とは言えないが。
「どちらも年代物だからね。付加がかかってるかもね。」
「何か触ってもはっきりしないんだよ。」
明確な反応があるワケでもないんだが、それが余計に気になって何とも。
・・・う~ん。
「振っているうちに気づいた事があったら教えてくれよ?調整するにも、付加が判明しても。」
「ああ、そうする。」
微調整された長剣を確かめ、相槌を打つ。
「いい仕事だ。そういえば姉さんの名前聞いてなかったな。」
こっちの店も常連になる事を決めた。
「アタシかい?ヒルダだよ。そっちの名前を聞いてなかったね。」
確かにオレも名乗らなかったけど、ミリィは店内で名前呼んでいたんだが?
「・・・・・・"アルム"だよ。」
オレはヒルダに本当の名前を告げた。
多分、彼女は口が堅いと思う。
そんな気がした。
それにこれから、オレの愛剣を調整してくれるんだからな。
「また大変だねぇ、そんな格好までしてさ。」
アレ?
ヴァンハイト皇国生まれのアルムってだけで、正体完全にバレてたり・・・する?
まさか・・・。
「わざわざ、こんな所くんだりまで来て。」
しかも少し同情された?
「来なきゃならなかったんだ。絶対に諦められないモノを掴みに。」
挑戦を受けたからにはな。
だって諦めたら、オレはオレでなくなる気がする。
「アハハ。アンタ面白いね。よっぽどなのかい?」
豪快に笑われる。
「よっぽどだから、何だってやるのさ。」
オレも笑った。
「何か困った事があったら何時でもおいで。次は紹介状いらないよ。それと・・・。」
クスリと笑って、オレの目の高さにその視線を合わせる。
「そんなに想われる仲に入れさせる気になっても、来ておくれ。」
何だよ、ソレ。
確かに今まで出会った女性のとは違った魅力があるのは認める。
「それはそれで楽しそうだ。」
この台詞をどちらが言ったのかは、秘密にしておこう。
ようやく名前が出てきたヒルダさん。
いや、なんとなく気にいっちゃって・・・(苦笑)
果たしてレギュラーになれるのか?!(ヲイ)