Connect! 皇子はその手を離さない。【後】
「なんとかなって良かったですねー、アルム様。」
オレは無言で(手加減した)拳骨を彼女の頭に落としていた。
「あうぅ~。」
「約束。」
「すびばせん、"トウマ"さん。」
偽名。
オレは今回、偽名で行動する事になった。
そこで思いついたのが、この名前。
ちょっと風変わりな感じがするが、"トーマ"という名が多い国もあるので、"トウマ"は少し訛っている程度にとられるくらいだ。
「あ、素直にトウマって名乗る必要なかった・・・。」
本当、肝心な時にヌケる。
もっと冷静でいるようにしなくては。
さっきの二人の事を言えないな。
「ん?」
見ると少女が首を傾げている。
「今、オレはね、本当の名前を名乗れないんだ。だから、トウマって呼んでね?」
すると首を横に振る少女。
「何がダメなんだろう?」
「さぁ?」
意味が掴みかねん。
「う~ん・・・そうだ、君の名前は?」
無反応。
「無いの?」
首を横に振る。
まだるっこしいな。
「じゃ、何て名前?教えてくれないかな?」
すると少し考えた後、唐突にオレの手を取ろうとする。
「ん?どした?」
腕を引っ張るなって、何をしたいんだ?
名前を聞いただけで・・・?
そういえば、彼女・・・一度も声を発していない。
「もしかして・・・喋れない・・・のか?」
コクリとようやく首を縦に振る。
金貨三枚で大喜びだった役売りのオヤジ、扱いに怒った女。
つまりは、そういう意味だったワケか。
「生まれた時から?」
あ、違うんだ。
「困りましたね、トウマさん。」
今度はちゃんと呼べたな。
「そう?」
意思疎通は確かにしにくいが。
「ねぇ、声は出さなくていいから、自分の名前を口を大きく動かしてみて。」
また少し考えて、ゆっくりと口を動かし始める。
「ソ?あ、違う。オだ!うんうん、で?イ?ミー・・・リね。んで・・・エ。」
「オリエちゃん?」
コクリ。
「やった。オリエね。んじゃ、これから服を買いに行くからね。可愛いの沢山買おう!うひょぉーいっ。」
オリエを抱き上げて、全速力で駆け出す。
持ち上げた瞬間の彼女の軽さと、肉よりも骨の感触ばかりがオレの腕に伝わるのに、歯を食いしばって耐えた。
じゃないと泣くか、叫ぶかしてしまいそうだったから。
「待ってくださいよー!」
後ろでミリィの声が聞こえて、オレはその場でくるくると回転してみる。
畜生・・・軽いぜ、軽過ぎるんだよ!
「オリエ、今日から、オレがお兄ちゃんだからな。いーや、お父様でもいいぞ♪」
わけわかんないのは、理解してるから。
してるけど、オレは他にどうしたらいいんだよ、全く。
とにかく今は服屋に駆け込む。
それしかない。
「・・・ミリィ、下着選んであげて。」
くそぅ・・・のっけから挫かれた。
だってなぁ・・・買った少女に、自分好みの下着を着せるとか・・・。
ダメ皇子から、ダメ人間とか外道人間に格上げ(?)されそうだし。
服屋に入って、ミリィが下着・肌着を選んでいるうちにオレは服を選ぶ。
正直、勢いに任せて、『この棚、ここからここまで全部。』とか言ってしまいそうになったが、そこは気力で耐える。
普段着を六着、作業着二着、運動着二着、夜会や宴会用も三着買っちゃうぜ。
あと夜着な。
ウチの侍女みたいなの着られても困るからな。
女の子だから、絹とかの買っちゃえ。
ミリィの分も普段着と夜着を・・・これ、胸入るかな。
なんだかんだで、二十着近くを買って、支払いを・・・。
「お?」
目の前に金貨が二枚。
「服代と、トウマさんのお金。」
その代わりに支払いのお金を出しているのは、さっきの決闘女だった。
「なんだ、お金持ってるんじゃん。」
自分でも嫌味だと思ったさ。
「先程は申し訳ありませんでしたわ。私、頭に血が上ってしまって。」
口調を聞いて、ちょっぴりげんなり・・・本当に血が上ったら、頭悪くなる人間だったらしい。
オレはてっきりラミア姫寄りの性格の方なのかと・・・。
「いや、いいよ。オレも恥かかせただろうしな。だから、このお金はいらないよ。」
当然だ。
元オレのお金はいいとして、服代はいらん。
そんな義理もない。
「しかし、せめて何かお詫びに。」
オリエの後姿をちらりと見ながら言われてもな。
ぐぬぬ・・・このテの人間は、誇り高くて我侭もだったり頑固だったりするから、アレなんだよな。
なかなか引いてくれないんだ。
「ふむぅ・・・じゃ、こうしよう。」
オレは服代を金貨一枚で支払い、釣りを貰う。
「んで、オレが渡したこの金貨で、君の服を見繕わせてもらって、君の服を買おう。」
二人分の服代と一人分の服代じゃ、圧倒的にお釣りの差が出るがそこを問わないってのが大人ってもんだろ?
「そちらが、それで宜しいのでしたら。」
良かった、この妥協点で折れてくれて。
オレは早速、彼女の服を見繕わせてもらう事にした。
今度は、本当に中身も幼女な新キャラ、オリエちゃんの登場です。
まぁ、無言キャラの表現というのは、死ぬ程大変ですが。
果たして、皇子は罪悪感以外のモノを彼女に抱けるのでしょうかね(苦笑)