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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅲ章:黒の皇子は世界を見る。
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Awake! 皇子は絶対立ち止まらない。【中】

誰かお友達になって下さい(トオイメ)

「どうと言われても、オレの政治的権力なんて、ほとんど皆無ですよ?」

 人事と最終決定権はあっても、皆に反対されまくったら何も出来ない。

微妙過ぎる権利だ。

他の人間だったら、自分の力が及ぶ様に、自分に近しい人間をいくらでも高い地位につけようとするんだが。

そんな本来の政治が立ち行かなくなるよな人事なんてするつもりはない。

というか、そこまでオレに近しい存在なんて、この州にはいない。

カーライルだってオレに友好的だが、オレ寄りではない。

彼もオレも"民寄り"という共通項で、均衡を取っているだけだ。

「たいした事も出来ないですよ?」

「随分と、過小評価じゃの。そこはエルリオットには似なかったか。いや、似なくて正解じゃ。」

 オレのひぃじぃ様は、一体どんな人だったのでしょうかねぇ・・・。

「では、そういう権限があったとするならば、どうする?」

 そんな仮定の話されてもなぁ。

「んー、どうとも。」

「どうとも?」

 まだ説明しろということか?

意外と面倒だな。

「何もしない。引き籠りたいなら、引き籠ってればいい。それで滅びようが、オレの知った事じゃないし、勝手にしてろ。」

「アルム様?」

 革の大きな袋を下げたホリンが、驚きの声を上げる。

だって、そうだろ?

わざわざ、しかも強制的に引き摺り出してどうする?

「ただ、人間社会に出ようとか、働きたい住みたいというのなら止めない。人手はいるし、天領の田畑や公共事業と働き口はある。」

 逆に言えば、出てきたいというのも止めはしない。

「この州に限ってなら、優秀な人間は官吏として雇ってもいい。ただ優遇は一切しない。」

 こういう時に使える人事権ではあるがな。

まぁ、カーライルと相談して、試験制度なりを用意して施行しなければならないが、可能だろう。

但し、政治の中枢を担う地位にはつく事は出来ないと思う。

人種差別の強いこの国では、ダメ皇子の力を奮ってもこれが限界。

オレ的には、逆に習慣や価値観が違うエルフがいる方が、役立つ瞬間が絶対あると思うんだが。

「あぁ、勿論、住むなら納税して欲しいな。」

 うん、大事。

とは言え、現在のリッヒニドスは低税率期間推進中ですが。

「何というか、厳しいの?」

「本当にそう思ってます?」

「愛情と甘やかすのは、全くの別物だからの?」

 と、何故か視線は、ホリンやミランダ達を見るのは一体・・・。

「ついでに、ウチの不出来な孫を雇ってくれんかの?」

「孫?ホリンは既に侍女の仕事をしてますけれど?」

「・・・そういう人を小馬鹿にした誤魔化し方まで奴に似ると、何やら一発小突きたくなるわい。」

 あははは・・・。

目が本気ですよ?

「ラミアとサァラの事じゃ。お主の侍女でも何でも・・・ほれ、花嫁修業でもな。」

 その話、まだ続いていたのか?

「断りましたよね?」

 面倒この上無い、そんな話。

「お主が断っても、孫娘がその気なら止められんじゃろ?」

「はい?」

 何か、今、それはそれは衝撃的な発言が・・・。

「それにダークエルフを妻に・・・正室とは言わんが、しておけば政治的にも他者より優位になれるぞ?」

 ・・・だから、ソレ、政略結婚と何が違うんだ?

相手の気持ちが伴わない政略的な婚姻は嫌だ。

ただでさえ、第二皇子は冷遇されているというのに。

しかし、この悪戯ッ子にしか見えない年配のお婆様は、相手の気持ちがこちらを向いていれば、屁でもないという事らしい。

「第一、そんな理由なら、それこそ相手に失礼だ。」

「律儀な奴じゃな。仕方ない・・・わらわにしておくか?婚姻相手。」

「はぁっ?!」「お婆様!」「えぇぇぇーっ!」「何をっ?!」

 その他、様々な驚きの声が上がる。当然だ。

「わらわなら、そういうのに慣れておる。心配せんでも大丈夫じゃ、生殖機能も衰えておらんから世継ぎも産めるぞ?」

 いやいやいや。

後半の話もすっげぇ驚きではあるけれどさっ!

女体の神秘をブッチギリで通り越して、生命の神秘再びだけど!!

「な、な、な、何を血迷ったコトを!」

「だ、だ、だ、ダメです!お婆様!」

 柱の影から、二つの人影が転がり出てくる。

「ラミアにサァラ・・・帰ったんじゃ・・・。」

 何なんだ、この一族。

「まぁ、世継ぎは作らないから別として。」

 怪訝な顔されても、この腐った血を残すつもりはない。

「エルフをお嫁さんにはしたくないかな・・・。」

 オレの発言にラミアとサァラの表情が曇る。

ホリンは、オレにはそれなりの理由があるとわかってくれているし、目の前の爆弾発言の女王は、理由を言い出すまで待ってくれている。

「だって、そうだろ?結婚してもどうやったって、オレの方が先に死ぬんだよ?」

 サァラを見て、ザッシュの言葉を聞いて、そして今、目の前の女性の話を聞いて思ったんだ。

ようやっと真実味というか、実感が出てきた。

彼女達とオレの時間の流れは、余りにも違う。

「全く、余計なトコまで似おって、女の振り方も一緒か!芸が無さ過ぎるわ!エルリオットの血筋は!」

 その割りには、少し嬉しそうにかっかと笑う。

「何か・・・今迄で、一、二を争う爆弾発言だったような・・・。」

 思わずミランダを見るが、彼女も変な汗をかいている。

「罪作りな血じゃな。」

 そんなのは、とっくに理解している。

今の意味とは違うけれど。

「ちょくちょく一緒に過ごしに来るくらい構わんじゃろ?」

 あっさり流しやがって、重大な話じゃなかったのかよ・・・。

「そうでもせんと、あの頑固な孫娘共が納得すると思うか?わらわの孫じゃぞ?」

 オレの耳元で囁く女性のその例えは、もはや脅迫に近いのではないかとも思う。

「そういう問題なんですか?」

「まぁ、当面はな。」

 どんな悪企みだよ、ソレ。

「「お婆様!」」

 オレ達の急接近に叫ぶ二人の声が聞こえるのも何その、涼しい顔で離れる。

「ホリン、荷物を。」

「あ、はい。」

 持ってきた革袋をホリンから受け取る。

「贈り物だ。」

 そう言うと彼女は革袋に無造作に手を突っ込み、中から出てきたのは。

「盾?」

「こっちは・・・右腕用じゃの。」

「右手用?」

 すると、もう一つ袋の中から小盾が出てくる。

つまりは、そっちが左腕用という事になる。

「お主の篭手に合うモノで、最も上等で適したモノを用意してやった。」

 渡された小盾は、お世辞にも上等だとは言えない程に見た目はボロい。

だが、重さは異様に軽くて薄いのに驚く。

しかし、感触的にはそうとうの硬度の高さが窺える。

何やら、須らく特別製な予感。

「使う時は、左右を間違える事のないようにな。」

「ん?刻印がしてあるな・・・"エメト"?」

 盾を縁取るように刻んである模様の一部に字のような刻印。

「よく読めたな。今の世では何処の国でも使われていない言語を。」

 あれ?

何で、今、オレ読めたんだろう?

見た事もない記号の羅列なのに。

「・・・・・・トウマか?」

 思わず口からこぼれ出てしまって、慌てて口を閉ざす。

「まぁ、よい。この盾にはそういうきちんとした決まりごとで効果を発するもの。間違えぬようにな。」

 あぁ・・・やっぱりいわく付きなんだな。

呪い殺されたりしないか?

ディーンの剣のような最上級の神器を使っていたせいか、ことの他こういう物に対する危機感薄いんだよな。

困ったもんだ。

「他にも良いモノが見つかったら、届けてやろう。」

 ・・・まさか、次も侍女服で現われるつもりなんだろうか?

現われ方まで不安にさせるとは、流石、ホリンのお婆様。

不安に思っているオレにもう一つの盾を押し付ける。

「こっちは"マヴェット"か。」

 それを読めるという事実には、もう驚かない。

持つ者を選ぶ剣のように、使える資格のある者には読めるとか、そういう事なのかも知れないしな。

「そうそう、お主に対する予言じゃがな。」

 あ、忘れてなかったんだ。

「"太陽が輝き例え見えずとも、月は常にそこにある。"」

 なんだそりゃ・・・確かに曖昧だわ。

「共通点は太陽と月か。死の間際で安心して逝ったとなると、その先に起きる出来事に共通項があるのか?」

 二つ名がつくような偉大な星皇様と、同じ単語ってのが今二つピンと来ない。

「問題は、太陽と月が全く同じモノを指しているか否か。」

 各々にとっての象徴される太陽と月で、全く別モノを指している可能性だってある。

「意外に冷静に頭が回るの。考え過ぎても身体に毒じゃ。とりあえず、今日から孫娘達を頼むぞ。」

「あ、はい・・・って、えぇーッ!!」

 危ねぇ、考えているうちに言われて、そのまま流しそうだった。

「何じゃ?気にいらんか?」

 祖母の手前、大人しくやり取りを聞いていた二人の姫の視線が、痛い程に刺さって・・・どうしろと・・・。

確かにザッシュとシルビアが抜けたから、武官が出来るラミアと侍女にサァラというのは、役割分担的には問題はないが。

悩む。

第一、オレは多分、そんなに長くここにはいられない。

シルビアを・・・彼女を探しに行かないと。

「・・・期間限定なら。」

 最大限の譲歩だ。

「お兄様っ!」

 サァラが抱きついてくる。

う~ん・・・咄嗟に受け止めたはいいが、どう反応したら良いのやら。

見た目は幼女、中身は大人ときたもんだ。

扱いが更に難しく・・・違う意味で同じように扱いが難しい姉もいたりするしな。

「よろしく頼む。」

 何で睨むんだよ。

「はぁ・・・あぁ。」

 酷く疲れた。

「それと、さっきの台詞じゃがな。」

 つか、まだ帰ってなかったのか。

どの台詞だろ?

「どちらが先に死ぬなどと気にしとるんじゃったらな、一緒になる為にお主と一緒に死んでやるぞ、女というモノはな。」

 ニヤリと笑う様は、非常に悪どい。

大体、オレに女心が理解出来るワケがないだろ。

それに関しては、諸手を上げて完全降伏だ。

「そういうものですか・・・。」

「うむ。それと・・・。」

 まだあるんですか・・・。

「お主は知っとるかもわからんが、ホリンは混血じゃから、老化の速度は人間とそう大差ないぞ。」

 あ。

「ふふっ、障害が一つ消えて、ホリンが一歩有利かの?まぁ、障害がある方が燃え上がる事もあるしの。」

 楽しそうに(不吉な)言葉を残して、今度こそ彼女は去っていた。

とりあえず、次はもっとマトモな用件で来て欲しい。

・・・というか、せめてマトモな格好で来て欲しい・・・・・・。

何か、お婆様すげぇ・・・自分で書いておいてなんだが。

ようやっと、リッヒニドスが旧皇族の城だったという伏線を使えた(苦笑)

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