Awake! 皇子は絶対立ち止まらない。【前】
初っ端から分けてすみません。
しばらくは体力が無いので、いくつかに分けて短くなりそうです。
剣を失った。
同じくらいに大切になろうとしている人も。
翌朝。
目が覚めた時、流石に夢だったら良かったのにとは思わなかった。
それは首に下げられた銀の指輪のせいだ。
折角、今日からぽけーっと出来ると思ったら、コレだ。
結局、休む事なく脳みそを使うハメになる。
手元にいる人材のウチ、連れて行けるのはレイアとミランダくらい。
「まぁ・・・こんな事になるとは思ってなかったしな。」
この台詞もここに来てから何回目だ?
そろそろ学習能力とか働かないものかね、オレ。
ミリィは戦闘に向かないし、ザッシュは任を解いてしまったし、バルドは当分、治安維持の為にリッヒニドスに残さなければならない。
「泣けてくるよな。」
涙なんか出る暇なんざ、勿体無いくらいだが。
着替えながら、人徳について哲学的考察をしてやろうかと思うくらいではある。
ホリンにはここでゆっくりとエルフと人間の両方の架け橋になってもらいたいし・・・。
ミランダは何をしても、戦闘に向かなかろうがオレについて来るんだろうな。
ここまでくると、消去法が憎らしい!
「アルム様、朝食はどうなさいますか?」
悶えそうになっているうちにミランダが来て、この城に来てから何時もの会話を始める。
「あ、ミラ、朝食後で構わないから、カーライルに地図を借りられるように手配してくれないか?」
「地図ですか?」
「この国の・・・あー、なるべく、国境辺りを詳しく書いてあるヤツ。」
今回もやるしかないんだがら、やるよ、オレは。
結局、シルビアが何故?という事ばかりが頭に浮かぶんだからな。
「そう言えば、ミラ、シルビアは自主志願か?」
オレに背を向けて去ろうとするミランダに声をかける。
「はい、そうですが、何か?」
「いや、いい。」
まぁ、普通に考えたらそうだよな。
狙っていたのが剣で、彼女の反応を見る限り誰かに強制的にやらされているという事までは確定だろう。
あれが芝居だったら、オレを誘き出す作戦にはなるが・・・。
そもそも、だったらもっとオレを普段から誘惑なり何なりするだろうし、第一へっぽこの第二ダメ皇子を陥落したとろで利がない。
ぶっちゃけ、黒幕が誰とか、動機とかは、この際はどうでもいい。
要は、シルビアを見つけて奪い返す。
手段は選ばない。
「アルム様!」
ん?
えと・・・今、朝食に呼ばれて、食べに来て・・・。
「あれ?」
「お疲れですか?」
ミリィが心配そうに、オレの顔を覗き込む。
目の前のなだらかな山が高いなぁ・・・。
「って、何?」
「シルビアさんが、いないようなんですけれど?」
う・・・。
いきなりマズい展開。
「あ、ちょっと用事を頼んでな。ザッシュの部下達と遠出をしている。」
「そうですか・・・ザッシュさんもシルビアさんもいないと寂しいですね。」
だな。
実感はオレにもある。
よし、撫でてやろうじゃないか!
「ふぇっ。」
「大丈夫、すぐに皆、顔を出すさ。」
そう思わないと・・・。
「アルム様?」
「今度は何?」
次に声をかけてきたのはホリンだ。
「お客様がお見えです。」
「客?」
誰だ?
兄上か?
兄上なら仕方ないな。
しばらく会えなかった分、兄上の弟バカは変な反動が発生して、オマケに利子まで付いていた。
思い出して、露骨に変な顔をしてしまったじゃないか。
「誰を想像しとるのかの?」
この言い回しは・・・。
「えぇと・・・この声はホリン達のお婆様の・・・。」
あれ?
名前聞いた記憶が無い。
「名乗っておらんだの?まぁ、よい。"姉様"とでも呼ぶが良いぞ。」
「姉様って・・・しかも、その格好は何ですか?」
彼女は、ホリンと同じ型の侍女服に身を包んでいた。
「なに、皇子はダークエルフの侍女がいると皆知っておるでな。この方が早くここに来やすいと思ってこうしたのだ。」
何てお茶目な。
外見年齢30代後半~40代前半にしか見えない彼女は、何というか"匂い立つ熟女"
正直、その侍女姿を含めて食中りを起しそうだ。
「しかし、久しく来てなかったが、懐かしいの。」
元は砦だった城の内装を懐かしそうに眺める。
「ダークエルフがこの砦に来た事があるとは・・・。」
意外だった。
「ふむ。"エルリオット"の時代にな。」
エルリオット?
何処かで聞いた名前・・・。
「アルム様の曽祖父にあらせられるお方です。」
ミランダがすかさずオレに囁く。
「"文治の星皇"・・・。」
「左様。」
3代前の皇王。
皇家の歴史の中で、"ヴァンハイトの双剣"を持てなかった皇王の一人。
というか・・・彼女、本当に一体何歳なんだ?
「今、失礼な事を考えたな?」
ぎくっ。
「ちなみにこっそり皇座の左に座らせてもらった事もあるぞ。」
「え゛。」「えっ?!」「えぇっ?!」
その場にいたオレ、ホリン、ミランダは目が点になるくらいに驚いた。
ミリィはその意味を理解してなかったようで、オレ達の反応に驚いたという様子。
これは、本当に衝撃的な事実だ。
知っているか?
皇王の左に座する者の名ってのは"皇后"って言うんだぞ?
しかも、側室じゃなくて、正室。
「茶目っ気のあるというか、人を小馬鹿にするというか、とにかく面白いヤツでの。」
うっふっふと、艶のある唇をペロリと舐めながら笑う。
「いやいや、限度があるでしょ、ブッ飛び過ぎだっての。」
ん?何だ?この皆の視線は?
何で、皆はオレを見てるんだ?
あ、しかもホリンのお婆様まで。
「なんなのさ?」
「いや、お主がそう言うのかと・・・な。」
何で?
「何というか、アルム様のひーじぃちゃんってカンジがするよね。」
どういう意味だよ、ホリン。
「ご自覚ないのですか?」
ミランダまで呆れたような眼差しで。
「確か、外見はオレと同じ髪と瞳の色なのは知っているし、双剣に選ばれないのも同じだけれど・・・。」
有り余る程の文治の才は、オレにはないしなぁ。
「わかっていない所までもが、じゃな。だからこそ、思い出してわざわざ来たんじゃ。」
楽しげに会話を続けられたっ?!
一体、みんな何だって言うんだよ。
「お主にいくつか話したい事と渡したいモノがあるのだ。」
ホリンに何やら指示をして取りに行かせてるみたいだが・・・。
「ところで、皇子は"予言"とやらを信じるかの?」
今度は何?予言だって?
「未来に何が起ころうと、乗り越えられるもは全力で乗り越えるし、無理なモノはどうやっても無理だからなぁ。」
信じるか否かと言われても困る。
予言が現実になろうが、対策を講じる時間が多いか少ないか、あるかないかの差でしかない。
大きい差だといえば大きいけれど。
「確かに。予言はそれに加え、時として曖昧で解釈の仕方に大きな幅があるの。」
そりゃあ、"明日、何かが起こる"とか予言されたら、そりゃそうだろと思うよな。って、これは極端な例だが。
「エルリオットの死の間際にした予言はな、"太陽は再び昇り、月は欠けてもまた満ちる"じゃったな。」
漠然過ぎる。
「ちなみに何に関しての予言ですか?」
「さぁな。本人は充分に満足して安心して逝っちまったよ。」
そうだよな・・・長く生きられるって事は、それだけ色んな死を看取るって事だもんな。
親しき人も、愛しき人も。
切なくて悲し過ぎる・・・。
「こら、何故お主がそんな泣きそうな顔をする。全くそういう所も無駄にエルリオットに似おって。」
え?似てる?
んなバカな。
「そんなに似てます?」
堪らず聞き返してしまった・・・。
「似とるよ、何もかも。予言すらもな。」
「え?」
オレの"予言"
「それは?」
「の、前に。お主、エルフの森に対してはどういった政治姿勢を示すつもりじゃ?」
きっと、まず聞きたかっただろう質問が、彼女の口から発せられた。




