んで、結局どうなった? ~エピローグⅢ~【皇子と・・・】
お疲れ様です。
これで全41話に渡った第Ⅱ章は完結です。
それでは、最後のお話をどうぞ。
「と、言うワケで!」
片手に杯を握り、周りを見渡す。
本当に面倒な事ばかりだったな。
新たにどんどんと知り合えた人達が、オレの視界に入ってくる。
「今日は無礼講!食べ放題、飲み放題だ!乾杯!」
高々と杯を掲げる。
皆の乾杯の声が辺りに響く。
こんな大人数での楽しい食事は初めてだ。
初めてづくしの日々でもあったな。
「兄上?」
ふと、あからさまに不機嫌な兄上が目に入った。
「どうしました?」
「・・・納得がいかない。」
「はぃ?」
珍しく暗いな。
「何故、これが私の手柄なのか。私はアルの邪魔をしてしまったのだろうか?」
何?
弟の手柄にならず、自分の手柄になったのが不満なのか?
「事実でしょう?兄上の名の入った書状と近衛師団が州府に入って、リッヒニドスが安定したんだから。」
民も大歓声で受け入れていたし。
ミランダ達には、誰が戦闘の端を切ったのかまでは言わせていない。
オレが州府に入って戦闘していたのを知っている人間は、州府の役人達とダークエルフ達だ。
しかも、全員が高い信頼関係の下で、それぞれがカーライルとラミア姫の統率がとれている。
これなら、二人に今回の事の口裏を合わせた効果は高いだろう。
「しかし、アルが正当に評価されないというのは・・・。」
「元々、評価自体が皆無だったじゃないですか、気にしませんよ。」
今更、手の平返されて評価されても信じないっての。
「ミリィ、しっかり食べてるか?」
兄上に手を振って別れ、次はミリィに声をかける。
「はい!目移りしちゃうくらいです!食べ過ぎて太っちゃいそう。」
幸せそうだな。
うん、こういうのいいな・・・。
「そっか。じゃんじゃん食べろ。ミリィは頑張ったんだからな、食べる権利がある。」
「はい!」
胸をぱるんっと震わせ、肉に齧りつく様は非常に健康的で良い。
「レイア、大丈夫か?」
顔をほんのり赤らめ、ふらついているレイアが視界に入る。
「すみません、ちょっと飲み過ぎました・・・。」
面目ないと言わんばかりに笑う。
「ん?いいじゃないか、今日くらい。オレが許す。」
偉そうに言ってみた。
まぁ、いいじゃないか、レイアはオレの騎士なんだから・・・。
「ねぇ、レイア?」
「何でしょう?」
オレはアホだな。
「これからもオレの騎士でいてくれるかな?」
「勿論です。」
オレがレイアを裏切るのが先か、レイアがオレを見限るのが先か・・・。
考えただけでも胃が痛くなりそう。
「今日はしっかり英気を養ってくれよな。」
「はい。」
次は誰に声をかけようかなぁ。
「アルム様、お疲れではないですか?」
見知った顔を探そうとしたら、先にミランダに声をかけられた。
「ん、大丈夫だよ。もう何もやる事ないからね。ゆっくり休むさ。」
"成したい事"はあるけどな。
「ミラはどう?楽しんでる?」
「楽しみたいのですが、アルム様が心配で・・・。」
探してたワケか。
「ありがとう。でも、今は楽しんで。オレは何処にも行かないから。」
彼女の肩に手を置く。
「はい。」
視界にはダークエルフ三人娘が入っている。
ホリンと多少打ち解けたみたいだな。
「・・・あれ?ミラ、シルビアは?」
ダークエルフ同じくらい外見で目立つシルビアが、何処にも見当たらない気がする。
「シルビアさんですか?私は見ていませんが・・・。」
こういう時にいない人間というのは、とても心配になって気になる。
何故だか無性に。
「探して参りましょうか?」
オレの反応にそう提案してくれるのは、非常に嬉しいのだが・・・。
「いや、いい。ミラ、ちょっとオレの杯持っててくれるかな?」
ミランダに持っていた杯を渡すと、シルビアを探しに大広間を出た。
「シルビィの行きそうな所か・・・。」
基本、厨房くらいしか思いつかないが、多分違うだろう。
一人になりたいなら、他の場所に行くし。
部屋かな?
「でも、どうしたって、人は一人で生きていくのは辛いんだよな。」
オレが多分、そうだったから。
とりあえず、部屋に行ってみる事にしたが、気配すら無かった。
順々に部屋を回る。
そういえば、前にシルビアと一緒に上の階の部屋を回った事があったな。
「シルビィ?」
そして、ようやっと彼女を見つけた。
「それが欲しいのか?」
オレの部屋で・・・。
彼女は剣を見詰めていたんだ。
"ディーンの剣"を。
「アルム様・・・。」
全く、なんて顔してんだか・・・。
ここに来てからも、ほとんど笑顔を崩さなかったシルビア。
「私は・・・。」
「いいよ、あげる。」
自分でもバカだと思うさ。
「確かにとても大切なモノだけれど・・やっぱりシルビィ達も大切なんだよ、オレ。」
泣き出しそうな表情のままのシルビア。
「シルビィは、オレにとても良くしてくれた。」
それは誰の目から見ても間違いない。
「例えそれが"本当のシルビア"でなくても、ましてや本当は"シルビアという人間が存在しないモノ"だとしても・・・。」
うん、多分、それがオレの真実だ。
オレは今、皆の事をようやくだけど、受け入れられるのカモ知れないと思ってきてるんだ。
何時か、オレがどういう存在か知られたとしても・・・。
第一、"物"か"人"だったら、きっと"人"を選ぶよな?
ディーンだって、トウマだって。
「シルビィと一緒にいた時間は、とても楽しかったよ。」
だから・・・。
「それが君の幸福に繋がるというのなら、いいよ。オレは何も聞かないし、見なかった事にする。」
ディーンの剣は、オレ以外では持てない可能性は高い。
でも、他に"持つ事の出来る存在がいない"という理由にはならないしな。
もしかしたら。
そう思っているオレの目の前で、シルビアはゆっくりと剣に手を伸ばす。
指が触れるか触れないかの距離で走る小さな光。
「くぅっ。」
小さく指に走る痛みで顔を歪めた後、彼女はその剣を握った。
「シルビィ・・・。」
思わず声に出した彼女の名前。
何時も浮かべていた笑みが消えただけで、彼女がいなくなったみたいだ・・・。
彼女の手の甲には、赤紫色の紋様が怪しく輝いている。
それで無理矢理に拒絶反応を抑えているのだろうか?
だとしたら、それはとてつもなく高度な技術だ。
つまり、それだけの力のある者が介在しているに違いないという証明。
「アルム様・・・。」
オレは彼女の声に、精一杯微笑んだ。
何時も彼女がしてくれたように。
あとは彼女がここを去って・・・それで・・・。
「あれ・・・。」
どうしよう・・・オレ・・・泣きそうだ・・・。
彼女と出会って、日数も経っていない。
"本当の彼女"が何かもわからないのに。
何だよ、ソレ。
悔しいな、もぉ・・・。
「シルビィ・・・オレはこれから特にこの城でやりたい事はないんだ。だから・・・。」
やっぱりオレは、どうしようもなくガキなんだな、トウマ、ディーン。
「オレは絶対に君を捜し出してみせるよ。」
負けず嫌いかな、それとも。
「アルム様!」
涙を流しながら、オレに飛びついてくるシルビア。
オレは彼女を力一杯、それこそ痛いくらいに抱き締めた。
「待っています!"本当の私"を見つけてくれる事を!」
彼女がそれを望んでくれているのが嬉しかった。
オレの手に銀色の指輪を握らせ、オレの唇に彼女の唇を押し付けてくる。
「国境の?!」
シルビアがそう声を発した瞬間、彼女の身体全体が透けていく。
「砂漠のがくっ・・・。」
彼女の声が消えるように小さく・・・次に姿が・・・。
「シルビィ!必ず捕まえてみせるッ!」
オレは力の限りそう叫んで、そしてシルビアの姿は消えた。
剣と共に。
まるで幻のように。
「違うな。オレは何を戯けた事を。」
そんなワケないだろう!
彼女の温もり、微笑み、涙、唇の感触。
全部覚えている。
彼女の存在の否定は、オレの手の中にある"ソレ"が許さない。
「いいだろう・・・やってやろうじゃないか・・・。」
誰の挑戦でも受けるつもりは全くないが、売られた喧嘩は勝ってヤル。
「誰かの勝手な都合で引き離されてたまるか!」
果たして、皇子は剣とシルビアを取り戻せるのか?!
というコトで、次章への含みを持たせたまま、終了です。
次章以降、続編があるのかは皆様のお声次第という方向性で・・・。
と、いうコトで、通産全60話のお付き合い、ありがとうございました。