んで、結局どうなった? ~エピローグⅡ~【州府官吏二人と、】
今後のお知らせは、活動報告に。
「生命の神秘を見たな。」
混乱に染まりながら、何とか興奮する二人の姫を宥め、後をホリンに任せてきた。
今は、何処かと言うとだ。
「風呂っていいよなぁ・・・考え出した人間の叡智を尊敬するわ。」
勿論、一人での入浴だ。
彼女達と一緒に入ったら、とれる疲れもとれない。
しかし・・・。
「アレでオレと年齢がたいして変わらないって言われてもなぁ。エルフって凄いな。」
「人間の三倍以上長生きする方もいるらしいっス。」
「ふーん。で、何の用?」
もう驚かなくなったな。
人間は慣れる生き物だ。
良くも悪くも。
気だるげに湯船の横の床に、しゃがみ込んでいるザッシュ。
「いや、最後に背中でも流しにと思って来たっス。」
殊勝なコトで。
「カーライルも一緒にか?」
ザッシュの後ろには、カーライルも立っていた。
「自分は民を代表して感謝の意を。」
風呂場でか?
意外と茶目っ気あるんだな。
ま、そうだよな。
「別に感謝される様なコトをオレはしていない。」
そもそもあんなヤツを太守に任命した国も悪い。
「それにオレは"オマエ達の一族"の思惑通りに動いただけだよ。」
んだよ?
全く反応ないのもムカつくな。
「驚きもしないってワケね・・・。」
やっぱりザッシュを殴っておけば良かったな。
「多少は驚いてますが、どの辺りでお気づきになりました?」
そんな嘘っぽく聞き返してくるなよ、恥ずかしいだろうが。
「まぁ、色々と憶測と思いつきで動いた割には、うまくコトが運び過ぎたからな。」
しいて言えば・・・。
「"林檎"の時かな。」
「林檎?」「あ。」
ザッシュは解ったか。
「オマエ達二人の林檎の食べ方が一緒で、特徴的だったもんでな、もしやと思った。」
危うく食べ方を本気で真似そうになっただろう?
シルビアの前で食べてみせたけど、やっぱり味の感じ方も何も変わらなかったぜ。
「だから、ザッシュに思いっ切り無茶な指示を出してみた。」
州府の金と物流の状態、城の見取り図。
そんなの本来なら、一兵卒が一晩とかで集められるワケないだろ、いくら優秀だといっても。
「もっとも、カーライルが味方かどうか判らなかったから、途中までザッシュもそのつもりで動かしてはいたけど。」
基本的にカーライルと会わないとこなせなさそうな大きな仕事以外は、常に誰かと一緒に組ませてたし。
「流石です。最初は皇子が来ると聞いて、好機と思いましたが・・・。」
「皇子は皇子でも、使えない方の無名の第二皇子で、がっかりしたと。」
期待外れも期待外れだよな。
オレがカーライルでもがっかりするわ。
政治にも武にも色事にも、噂すら聞かない第二皇子だもんなぁ。
「充分にご聡明なので、人の噂や情報は案外あてにならないものだと学ばさせられました。」
苦笑するカーライル。
あ、笑うとやっぱりザッシュに似ているな。
だから笑いもしないで、無表情に徹してたのか?
「何処かだよ。穴だらけの言動で周りを振り回して、お膳立てがあってアレだぞ?」
危険を冒さず、兄上からの書状が来るのを待って突きつけて、あとはカーライルに繋ぐという手段もあったワケだ。
それはカーライルが味方だという事が判明してるのが前提条件だけれど。
「いえ。スクラトニー拘束後のご采配は見事でした。あれは皇子だけのご判断ですから。」
「う~ん・・・。」
最後には半ば試すように振って来たクセに。
「あ、商人への関税も、一時的に引き下げろよ?」
「もう手配しております。」
「ほら、カーライルでも出来た事だろ?オレが優秀なワケでもなんでもない。」
部下が優秀だったら、どうとでもなる事だ。
「自分は何年もの経験と自負があります。」
再び表情を引き締めるカーライル。
「そうか。太守同然のカーライルと武官の警備隊長のザッシュ。もしスクラトニーのような事をしたら、どうなるか肝に銘じておけよ。」
どうなるのかは、もう二人には見せたからな。
文武両方をほぼ掌握出来る地位を同じ一族につけたって事は、そういう危険性もあるって事だ。
この二人に限ってそんな心配は無いだろうが、人は欲に弱い存在。
オレだって、今がそうだし。
何時、欲望の限りを尽くすコトやらねぇ。
「誠心誠意、アルム皇子の名に恥じぬよう務めさせて頂きます。」
恭しく礼をする。
そこまでご大層な名前じゃないぞ?オレの名前なんて。
「忘れるトコロだった。今回、州府の騒乱を治めたのは、兄上指揮の近衛師団だからな?」
そっちの方が、きっと都合がいいだろうと思った。
「アルム様は、それでいいんスか?」
ザッシュは納得がいかないみたいだが、オレは彼の問いにしっかりと首を縦に動かす。
オレは別に周りに認められたりする為に動いていたわけじゃない。
オレは信用に足る人間なんかでもない。
「アルム様らしいと言えば、らしいっスね。」
首を竦めて苦笑するザッシュ。
でも、カーライルとザッシュはオレが何をしたか知っている。
オレの部下達も、ダークエルフの皆も。
そして、州府のあの場にいた役人達も。
だからさ、オレはダメ皇子のままでいいんだ。
「んじゃ、背中、流してもらおうかな。」
オレは逆上せそうになっていた湯船の中から上がる。
「了解っス。」
そう言って二人は、白い歯を見せて同じように笑った。
ちなみに、ザッシュとカーライルは従兄弟同士という設定ダス。