漏出と抱擁と居心地。
「アルム様。」
「何?」
城へ向けて走る最中にホリンが話しかけてくる。
とてもすまなそうな表情しちゃって、まぁ。
「あの、私・・・。」
「気にするな。」
オレにとってなんの問題も無い。
「前にも言ったろ?ホリンはホリンだ。」
想像は出来るけれどな。
"純血じゃない王族"ってコトだろ?
嫌な立場だ。
オレの立場ですら、こうなんだしな。
「今は、さっさと帰って全部解決して・・・そうだな・・・。」
元来の目的の一つに戻ろうじゃないか。
「メシをたらふく食って、風呂に入って、ぐっすりと寝よう。」
しばらくは皆と隠居生活を楽しもう。
「あはは。じゃ、一緒にお風呂入って、一緒に寝ましょうね。」
ようやく笑ってくれたか・・・。
彼女はここに来て、本当に良く頑張ったと思う。
彼女だけじゃない。
皆を褒めてやりたい・・・だから、オレも働かないとな。
「随分と仲が良いんだな?」
後ろから追いついてきたのはラミア姫だ。
彼女の背後からは、数人のエルフが付き従っている。
「そうだなぁ、ラミア姫もホリンとまでは言わないが、サァラちゃんくらいに素直だと仲良くなれるかもね。」
「嫌味か?」
ジロリと睨んでくる。
つか、コイツは人を睨むのが見るって事なのか?
「うんにゃ、サァラちゃんはちゃあんと自分の立場を理解して、自重してくれたから。だから現状が最悪にはならなかった。」
上に立つ者としての優先順位を守って行動した結果だ。
責務と言い換えてもいい。
「アレは、私の自慢の妹だ。」
そこは素直なんだな、どうした?
「私と違って、誰からも愛される・・・。」
話がズレているような・・・。
「あのなぁ・・・。」
コイツ、本当にバカなのか?
あぁ、バカなんだな。
「そういうコトを言ってんじゃねぇ!」
何だ、エルフって極端から極端に走る種族の事だったのか?
「素直に相手を認めたり、受け入れたり、自分の立場を自覚しろって言ってんの!」
ダメ皇子だってダメ皇子になりに、必死で今やってんだよ、オレは。
そりゃあ、周囲の期待なんて皆無だけどさ、やれる人間が他にいないのなら、やるしかないだろう?
「何が・・・。」
「そうだろ?最初から相手がこうだと決めつけて拒絶してんのは、オマエだけだ。」
違いはソコなんだよ。
「誰もかれも否定したら、誰も認めないし信じない。サァラちゃんが誰からも愛されるのは、彼女が周りの存在を認めて愛してるからだ。」
じゃなきゃ、オレの城まで裸足で走って来られるかってんだ。
「オレはホリンの過去を聞かない。そんなのはどうでもいいから、だからホリンは今のホリンでいい。」
それ以外の何が意味がある?
それ以外の何が必要だ?
「アンタも同じだ。別にオレがアンタが醜いとも愛せないと思っていない。後ろにいる人達もだ。だから、オマエに付いて来ている。」
オレはチラリと後ろを走るエルフ達を見る。
一様にオレの怒鳴り声に驚いていたが、確かめると皆、しっかりと頷いていた。
大体、このダークエルフの血筋(?)は美人なんだよ。
「そ、それは・・・。」
「結局、受け入れられるか否かだ。仲良く見えているのであれば、成立しているってコト。・・・だよね?」
オレは最終的な確認をホリンに任せる。
人間のオレより、まだ同族のホリンからの方が説得力あるだろう。
「そーですね。ラミア様、アルム様の腕の中は居心地良いですよー。」
ソコハカトナク微妙ナ表現デス。
振らなきゃ良かったか?
「そうか・・・。」
ただ一言、そう呟くとラミア姫は黙り込んでしまった。
「ま、お婆様とやらが言っていた結婚を断ったのが、多少惜しいと思うくらいにはね、ラミア姫もホリンも美人だと思うよ。」
「え?」「あはっ♪」
だが悪いがオレは後宮だろうが、嫁だろうが、きちんと自分で選ぶ派だと言ったろ?
あ、ちなみに我が国は、一夫多妻制も可だ。
何でもそういう国皇がその昔にいたらしく、その際にそういう事が出来る決まりにしたらしいが。
オレは多人数を平等な愛で包むなんて、そんな器用な真似が出来ないから無理。
絶対、無理。
「しかし、スクラトニーもヤキが回ったな。下策過ぎるし、お粗末。」
思わずヤツの小悪党っぷりに苦笑する。
「そうなんですか?」
無邪気にホリンが聞き返してくる。
「オレだったら、奇襲は全ての集落を同時に。且つ、要人の捕獲を優先して、人質にする。」
以前も考えた策だ。
「下劣なっ!」
例え話だろうに。
「んで、税率は一割だけ上げて、天領以外の領地をこっそり開墾して、少しずつ税収をチョロまかす。」
大々的にやると反感や密告を喰らうしな。
「で、ダメ皇子は手駒にする。あー、その為には邪魔な副官を謀殺して・・・。」
あぁ、そうか。
「どうしました?」
「副官の人徳があるのか、スクラトニーの人徳がないのか、反抗は少ないけれど、手駒になるような人材も少なかったんだな。」
どうやら人員不足で苦しんでいるのは、オレもヤツも同じらしいな。
そして質の悪いのだけがヤツの手駒になり、質の良いのだけがオレの部下になった結果がコレか。
「ならば、急ぐとするか。」
流石にニ往複目だとコツが掴めて速度が出せてきている。
「帰還後にザッシュ達に合流。迎合する民・役人達と共にリッヒニドスの大掃除だ。」
どうか、黒幕カーライル説、兄上説でありませんように。
心の中でそう呟いて、一人苦笑した。
"アイツ"の顔を思い出しながら。