理非と救出と咆哮。【後】
ひな祭りか・・・(イミフ)
「誰か!!私はここだッ!!」
今、聞こえた。
確かにそう聞こえた。
何処だ?!
「焦るな、落ち着け。」
二度目の爆発音。
どうやらホリンは、いくつかに分けて爆裂球を投げているらしい。
これならきっと時間稼ぎになるはずだ。
だったら動きまくって、仕事をするのはオレだな。
「このアマぁ!」
聞こえた!はっきりと!
オレは後先を考えずに、声の聞こえた扉に体当たりしていた。
「うるあぁぁぁぁーッ!」
絶叫しながら扉ごと小屋の中に転がり込み、すぐさま立ち上がる。
構えながら、現状確認と把握。
全てバルドに条件反射の域にまで叩き込まれた。
何年も繰り返し。
人間男、双剣、敵2
それと・・・両手を拘束され、肌も露わになった女性が一人。
その姿は扇情的・被虐的で美しかったが・・・黒い肌の頬が赤く腫れて、唇には血が滲んでいる。
「わかってるよなぁ・・・?」
オレは自分を抑える気をなくした。
あっさり放棄だ。
殺意?
そんなもの隠す必要があるのか?
目の前にいるのは敵だ!
オレはすぐさま相手に詰め寄る。
『戦場なんて卑怯でも先に一撃ブチ込めば、勝ちってなもんで。死んだ相手は何も言えませんや。』
昔、誰かに言われた言葉だ。
だから、最初の一撃に全てを出し切れ。
そう教わった。
「ッ。」
短く息を吐き、剣を拾い上げる男の腕に自分の得物を振り下ろす。
男の剣が、床に腕ごと突き刺さるのを感じながら、次の一撃へ。
「やるからには、自分もやられる覚悟があんだよなァッ!」
切り返す刃は男にあっさり避けられるのと同時に、視界の隅と気配で動くモノを感知する。
腕がついたままの剣を咄嗟に拾い、動くモノめがけて乱暴に全力で投擲。
「ギャッ。」
短い悲鳴が上がって、仰向けに倒れるもう一人の男。
刺さった剣が墓標のようにも見えた。
「このォッ!」
視線を後に一瞬だけ向けた隙に、片腕になった男が切り込んで来るのを何とか剣で受け止める。
意外と力あんじゃねぇかよっ。
剣からギシギシと嫌な音が鳴る。
マズい。
オレは仕方なく剣を引いたが、男がすぐさま次の斬撃を繰り出す。
「クソ!」
回避する選択肢を取ったオレの肩口に激痛が走る。
「ぐっ、るあぁーッ!」
よりによって、盾と鎧の隙間を剣が掠めていきやがった。
痛みを声により忘却しながら、行動しきって体勢が伸びきった男を睨む。
回避しだ分、オレにはまだ行動の余裕が残っていた。
全力で、男の膝頭を蹴り飛ばず。
オレは今回は完全装備。
勿論、足にも金属製の具足を着けている。
そんな足でオレに全力で蹴られた男の膝は、あらぬ方向に曲がっていた。
腕が伸びきった状態で膝の骨も折られ、体勢すらも崩した男に容赦なく剣を突き立てる。
「あ・・・。」
二人の男が倒れた部屋で、息を整えながらオレはようやく冷静になっていく。
冷静になって、気づいた。
尋問する為には、殺しては何の意味も無い事に・・・。
思わず頭を抱えたくはなった。
ちなみに、敵が動かなくなるまで気を抜かずに倒しきれ。というのもバルドの教えだ。
幼かったオレになんて事を教えてんだ、バルド。
「じゃねぇや。」
オレは慌てながらも大急ぎで(意外と難しい)自分の胸と腰の鎧を外して、少女の前を置くと彼女の拘束を解いた。
勿論、なるべく彼女を見ないようにして。
「とりあえず、鎧を着てくれ。年頃の女性なんだから。」
そう言うと彼女に背を向け、死んだ男達の武器を手元に回収する。
彼女から視線を外した時に、この武器使って背中からばっさりとか冗談でも笑えないしな。
「オマエ、意外と紳士的なんだな。」
ん?
上から目線のこの声は・・・。
「あ、アンタ、ラミア姫か。」
「なっ?!」
うん、この際、誰とか関係無かったんだよね。
酷い事をしている男達と、酷い事をされている女性。
取捨選択する以前の問題だろ?男なら。
「肩は・・・大丈夫だな、剣に毒を塗られている形跡もナシっと。」
血は肩口から流れて、服の下の腕を通っていて気持ち悪いが、幸い筋肉や骨まで達してはいなかった。
勿論、ちゃんと動く。
動かすと当然、痛みが走るが。
「もういいぞ。」
「あ、うん。はい。」
オレはくるりと振り向くと彼女に双剣の片方を渡す。
「悪いけど、全員を救える戦力は無い。残りの同胞が囚われている場所はわかるか?」
戦力もだが、恐らく時間が足りない。
さっき四回目の爆発音が聞こえたばかりだ。
「オマエは礼を言う暇も与えないのか?」
「あ?知らん。作戦の優先順位を守っているだけだ。アンタの確保の次は、出来れば人質の救出ってな。」
少し興奮しているせいか、言葉使いが荒くなるのは、勘弁な。
大体、オレはホリンと、ちょっぴりだがサァラ姫の為に来ただけで・・・。
「あ、サァラ姫は無事。」
多少の怪我はあるがとは言わなかった。
一応、(信じてないが)姉妹だしな心配させ過ぎるのは、今は良くない。
「そうか。」
「さっさと質問に答えて。他の集落は無事?この集落の残りの人達は何処?」
サァラ姫に聞いた質問と同じ事を繰り返す。
「あと敵の規模と術使いの人数。」
「・・・本当に事務的だな。」
「緊急事態なの!」
緊張感足りないんじゃないのか?
お姫様って、みんなこうなのか?
誰か気力を下さい。
もう言い訳しまくりたいよー(泣)