皇子と狂乱と魔の剣。
暗い話は、あと2回程度です。ご勘弁を。
「正直、少し楽にはなったよな。」
長官には悪い事をしたが。
自室に帰り、一人になってどっかりと椅子に座る。
脚はテーブルの上に投げ出した。
行儀?
知らん。
とりあえず、このままの姿勢で脳内計算だ。
メイドはミランダを入れて、10~15人・・・いや、10人いれば充分。
料理人は1人。
オレが指定した人間が来れば、他は現地で雇おう。
近衛兵は5人いればいいや。
先の剣術指南役はアホみたいに強いし。
オレのお気に入りの1人だ。
まず双剣使いじゃないのがイイ。
この閉鎖的な伝統と格式ばっかアホみたく重んじる中で、
そういう輩がいるのが、オレ的には評価が高い。
彼は長剣使いで、技巧派。
・・・実はオレの剣の師匠だ。
双剣なんざ、型程度しか覚えてない。
使えないワケじゃないけれど。
彼とは大っぴらに稽古は受けられないから、こっそりとしていた。
それくらいこの国で双剣使いじゃないというのは、排他的な目で見られる。
まぁ、きっと今回のオレの指名も、誰にもついて来てもらえないダメ皇子が泣きついて、
引退したジジィを無理矢理連れて行って、余生を過ごさせてやろう。
くらいしか周りも思うまい。
この方向性でオレもお願いしたい。
「しかし、本当、皇族に向いてないのな、オレ。」
ちょっぴり切なくなりながらも、立ち上がって窓辺を横切る。
ふと視界に入る空はとても綺麗だった。
部屋の隅にある騎士像。
オレの趣味じゃないぞ?
大体、ベッドがある部屋の隅にそんなのあったら、夜怖いじゃないか。
「皇族の御用達剣術は型程度しか使えないわ、実は長剣使いだわ。」
ゆっくりと騎士像が下げている長剣を鞘から抜く。
ま、こんなので誤魔化せるくらいに周りがオレに興味ないんだから、いいとするか。
両刃の長剣。
黒い刀身が日の光を浴びて、鈍く光る。
「しかも、国を壊すかも知れない。狂乱の皇子とか歴史に記されそうだな。」
全てはこの剣から始まった。
この事は、ミランダにも話していない。
いや、話せない。
話すとしたら、きっと彼女と永遠に別れる事を決意した時。
剣の名前は"ディーンの剣"
本当の名前は知らない。
魔剣だ。
この剣に出会ったのは、オレが死に至ると言われていた病から、
奇跡的に回復してから数年後。
宝物庫に入った時の事だ。
何で宝物庫に入ったって?
オレは歴史は苦手だが、歴史書とか書物を読むのは好きなんだよ。
何時も通り、カビ臭い宝物庫の書棚を漁ろうと探検していた時に
皇家の双剣が飾ってあった台座から見つけた鍵で、開いた扉の先にあった。
あぁ、ちなみに宝物庫の扉という扉、鍵穴という鍵穴に突っ込みまくって確かめたのよ。
黒い剣は片刃の長剣で、刀身から一本の線が柄付近まで入っている。
刃の根元と柄の間は、丸い円のようになっていて、まるで満月みたいだった。
長剣をマジマジと見るのも初めて、しかも黒い。
ビビリまくりながらも、どうしても手に取ってみたかった。
あぁ、どうせ、アホで緊張感のないガキだったよ。
この剣を手に取った時、オレは全てを知り、そして一晩中泣いた。
泣いて、泣いて、泣きまくった後・・・
オレはこの国の全てを憎んだ。