擁護と傷心と願い。【後】
少女が運び込まれてから、結構時間が経った。
いや、正確にはそんな経ってないんだが、現状は"作戦は一刻を争う!"と叫びたくなるワケで。
その感覚からいくと、結構な時間・・・と、表現したくなる頃に少女は目覚めた。
「お目覚めかな?」
オレは少女に声をかける。
「んー、本当は名前とか色々聞きたいんだけれど、急いでるから手短に聞くよ?」
体力的な事もあるしな。
オレの言葉に少女が頷く。
「相手の規模、各集落の被害状況・・・あと、ラミア姫とか王族が無事か、捕らえられているならその所在。」
礼儀がなってないのは、充分に理解している。
でも、もっと少女を休ませてやりたいし、人手が足りないのに時間も足りないんじゃ、更に困る。
「人間とエルフが20人くらい・・・私の集落に。」
やっとの事で声が出る。
か弱いけれど、可愛い声だ。
「君の集落?」
四つのうち、どれだ?
「ラミア姉様は、私を逃す為に捕まって・・・。」
「そうか、ラミア姫、君の姉さんは・・・。」
ん?マテ。
「ね、姉さん?ラミアが?」
今、このコ、そう言ったよな?
確かに髪と瞳の金色は、ラミア姫と同じだけれど。
「アルム様、その方が第二王女のサァラ姫です。」
そりゃ、姉って時点で、三だろうがニだろうが王女だろうよ!
ここに運ばれてきた時のホリンの様子から、偉い人の子ってのは何となく察しがついていたけれど。
しかし、姉に似ずに温和そうな子だねぇ・・・人間に友好的だというのも頷ける。
姉妹なんて言われないとオレ達人間にはわからないカモ。
「ミラ、厨房から取ってきたモノを全員に分配して。」
ホリンの頼みじゃなきゃ、逃げていたな。
オレには関係ないって。
「ザッシュ、レイア。バルドが帰還したら、州府に行ってスクラトニーを拘束しろ。」
オレの読みでは、そろそろバルドが帰還するだろう。
バルドが間に合えば、州府規模の人数なんざ、雑作もない。
そうなんだよ、そういうヤツなのよ。
完全装備で突っ込ませたら、某国の対騎馬装備の槍騎士団とか某国の重装歩兵師団とか、そういう人達じゃないと止められないと思う。
あくまでも"師団"単位な。
アレ、もはや人を超え獣を超えを地で行く人だから。
規格外だろ?
規格外なんだよ、コレが。
「バルドが帰還せず、明日の夜になってもオレが帰ってこなかったら、情報を集め直して対策を立てろ。」
ザッシュは、重装用の胸部鎧と軽装用下半身鎧を組み合わせ、両篭手に小盾を取り付けたいでたちだ。
双剣使いが基本のこの国では、両腕部に丸型ないし三角型の盾を取り付けるのが、戦闘用の姿。
両手を空ける為と、小回りを効かせる為にそれをする。
だから、この国の兵士は盾を手で持つような事はしない。
長剣使いのレイアですら、左腕に三角盾を固定している。
まぁ、彼女の場合は、左腕部全体を覆う大盾だったが。
しかも、鎧も全身鎧だ。
速度で戦う双剣使いのザッシュとは、戦い方の組み立てが根本的から違うのだろう。
これが二人の対人装備らしい。
「ミラ、後の事は頼むよ。」
20人規模か・・・ホリンが5人くらい倒してくれるとありがたいんだがなぁ。
「おっと、サァラ姫、もう一つ質問。襲ってきたヤツの中で、術使いは何人くらいいた?」
「術使い?」
首を傾げるサァラ姫。
背中からやられているから、もしからしたら姿を見ていないのか?
事情がわからないんだな。
戦力の把握が完全に出来ないとか、すっげぇ不安。
まぁ・・・最低1人、最大20人と思っておけば、間違はない。
泣けてはくるけれど・・・。
「そっか、ありがとう。じゃあ、ゆっくりと休んでね。」
「私も・・・行きます。」
へ?今、何と?
「サァラ様?!」
うん、そこは驚くトコロで合ってるよね、ホリン。
「関係のない方をエルフの揉め事に巻き込んだのですから、私もエルフの姫として行かねば・・・。」
健気だなぁ・・・本当に"アレ"と血、繋がってんの?
「あー、関係なくはないんだ、コレが。ウチのホリンの頼みだからオレは行くの。」
人間もいるしな。
ややこしい大義名分なんてのは、オレは大嫌い。
「それにね。」
ぺっちとサァラ姫のオデコを叩く。
軽くだぞ?
「子供は黙って、大人に護られてなさい。サァラ、いいね?わかった?」
幼かった皇子には、そう言ってくれる人間は皆無に近かった。
じゃあ、この幼い姫は?
そう思うと、何やら沸々とこみ上げてくるものがある。
あぁ、これは怒りってヤツだな。
いいだろう、この怒りはブツける先があるしな。
うん、健全に(?)発散してこようという前向きさ(?)が出てきたぞ。
「でも・・・。」
しゅんとなるサァラ姫の様が可愛らしい。
やっぱり、血が繋がってないんじゃないの?
この可愛さを見ていると、悪戯心が湧きそうです、はい。
「んじゃ、これはサァラからの依頼というコトで、見事達成した暁にはご褒美を貰う事にしよう。」
うむ、我ながら、無理矢理過ぎる程の話題の転換。
「ご褒美ですか?」
「うんうん。そうだねぇ、一緒にお風呂とか、一緒に寝るとか、何でもいいや。」
悪戯心が爆発して、思わず言ってしまった。
大体、事が事だけにサァラ姫に拒否権なんて無いよな、コレ。
緊張感皆無の発言だし。
うわ、オレ、空気読めてねぇっ!
ほら、顔面真っ赤で硬直しちゃっているし!
「よし!行くぞ、ホリン!」
あぁ、そうさっ!この空気にいたたまれなくなったのさっ!
自分で作ったのにだよ!悪かったな!
「あっ・・・。」
声を発するサァラ姫の返事を待たずにオレは、森に向かう為に走り出した。
次回!3話連続エルフの森での戦闘編!
・・・また前・中・後とかやらかすのだろうか、私。