憂患と捜査と声。【前】
例の事情で、前・後で詰めて行きたいと思います(ヲイ)
その日はあっという間に眠りに落ちていった。
何がいけなかったんだろうと、一日を振り返りながら。
ミランダにとっては、オレがどうなったとしても、幸せにならない限り許してもらえないんだろうなと思う。
それでも、ディーンの剣とトウマの魂を持って生きていこうと決めていたオレにとって、全てを投げ出す事なんて考えられなかった。
ただ・・・ミランダの大事な弟でいたいという甘い考えのオレもいる。
今までは"弟"でいることしかオレの居場所はなかった。
でも、今はそれだけじゃない・・・。
そういう意味では難しい事なのだろうな。
「しかし、驚きだ。」
翌朝、目が覚めてから大いに悩む事になった。
夜は、ミランダと一緒に眠りについたから、問題はなかったが・・・。
今日は当然、皆とまた顔を合わせる。
右手の包帯をどう誤魔化そうかと。
とりあえず、包帯を変えるでもなんでも、一度包帯を取らねばと思って、一人で格闘していたトコロ。
「まさか、一晩で傷が消えてるとは・・・。」
包帯を外していくうちに痛みも引きつりもないのをいぶかしんでいたら、傷がすっかり消えていた。
一晩で治る程度の傷では勿論ないので、消えたと表現。
身体には、軽い筋肉痛がしていたから、別段に回復力が上がったとか、特殊能力が付与されたわけでもないだろう。
「ヲイヲイ・・・ただの罰かよ。」
オレは呆れた瞳を剣に向ける。
今のオレの立場をわからせる為だけにあんな事をしたというのだろうか?
という事は、昨日のオレの手の怪我と、剣を持とうとしたレイアやダークエルフに与えられた衝撃とは別モノだという事だろうか?
「勘弁してくれよ・・・昨日のは、悪かったと思っているからさ・・・。」
朝から脱力した。
お陰で、傷を皆に対してどう誤魔化して隠し通そうという問題は消えたが。
包帯を外し、着替えてまだ寝台で静かな寝息を立てているミランダを振り返る。
彼女の美しい頬に口付けをしてから、食堂に向かった。
ミランダには、本当に心配をかけまくったから、もう少し寝かしておこうと思う。
もう朝食の時間よりは、昼食の時間の方が近いんだけれどなっ。
誰も起こしに来なかったのは、皆それなりに気を遣ってくれたのだろう。
その証拠に食堂に訪れた時、全員の姿があった。
しかも、ひょっこりザッシュもいた。
早いなぁ、仕事早い・・・早過ぎるなぁ・・・。
「ほぃ。順番に報告があれば聞くよ。」
何とか欠伸を堪えながら。
「では。昨日引き上げていた管理人達ですが、気を利かせたつもりなのか、本日も州府に待機させておくそうです。」
レイアが進み出て、報告する。
「活動がバレていないという風に取りたいけれど、その逆も有り得なくもないな。気を抜かないようにしないとな。」
監視の役目も管理人達にあるとするならば、引き上げ続けるのは非常に不自然だしな。
噂が伝わって警戒を解いてきたのか、逆に人手を集めているのか。
しかし、これは幸い。
存分に家捜し出来る。
「アルム様、例の物はきちんと厨房に隠してきましたわ~。ちゃぁんと火気・湿気厳禁も言付けておきました~。」
「ありがとう。」
ミランダは、相変わらず微笑んでいて、癒されるな。
さてと、残るは・・・。
「ザッシュくぅ~ん?」
ニヤリとここで笑うオレは意地が悪いと思う。
「うぐっ。ちゃんとやってきたっス。実物は無理なので、写しだけで・・・それも砦の分だけで精一杯っス。」
一瞬怯んだ割りには、きっちり仕事してきたな。
そうだよな、うんうん。
これくらいしてもらわないとな。
「さてと、どれどれ・・・。」
食堂の机に見取り図・・・というより、部屋の位置取りのような図を広げた。
「皆も見てくれ。あ、ミリィ、シルビィ、ホリンも。」
「私達もですか?」
「うん、大事な事だから。」
呼ばれた事自体に驚いたミリィだったが、本当にコレは大事な事だからさ。
「皆、一度行ったとか、見た事のある部屋で、特に棚や収納領域の無かった部屋を指摘してくれ。」
効率重視なのは当然の事だけれど、あるかどうかもわからないモノを探すんだから、面倒だとは思う。
何やら、和気藹々と各部屋の中で特段怪しくないだろう部屋が埋まっていく。
「意外と埋まったな。」
物見の塔と厨房(地層階)以外は、ほぼ埋まった感じだ。
「塔は仕方ないな。一階以外の場所と一階を比較しても隠し部屋を作るような面積も稼ぎ出してないか・・・。」
何を運び込んでいたのかわかれば、保存に適した場所も判明しやすいのに。
などと、ボヤいていても仕方ない。
どうせ、バルドが戻るまでは表立って動くつもりはないから。
「他に怪しいとしたら、一階部分の床と壁だな。」
隠し部屋、通路があるとしたら、そうだな。
「隠し扉があると?」
レイアが問い返してくる。
「よく考えてごらん?ザッシュが言った様にここは砦だった。皇族も住んでいた。逃走用の隠し通路か何かがあってもおかしくはない。」
昔から偉い人間は、好き放題やるクセに臆病で、生にしがみつく傾向が高い。
ま、命を大事にするのは、悪い事じゃないけどね。
「ザッシュとレイアは、四つの物見の塔を調べてくれ。何もない地階も地下道とかがないかをね。」
「了解っス。」「わかりました。」
「シルビィはオレと一緒に。ミリィとホリンは、厨房と地階部分を探すよ?」
「はいはい~。」「わっかりました。」「頑張ります。」
「オレ達は残っている部屋を探すから。それと隠し扉や部屋を見つけても勝手に入らないコト。いいね?じゃ、行くぞ。」
オレは食事代わりに林檎を二つ手に取って食堂を出た。
正直な話、無駄に小さな伏線ばっかりちりばめても、読んでるうちに皆忘れちゃうよね、反省。