約束と左手と絆。(ミランダ視点)
正直、疲れてきた(ヲイヲイ)
帰って来てから、何か変でした。
何時も彼を見る度に不安になる時が、必ずあります。
この城に来てから、その不安に感じる時が日増しに増えていって・・・。
彼は常に自分を演じている。
何時も誰かの為に・・・そんな錯覚さえ覚えるくらいに。
「"アル"・・・手を出して・・・。」
何時もの動きではない違和感。
彼は帰城してから、一度も右手を開いてはいない。
そして、何も言わない。
私は、我慢できなくなって、彼を、愛すべき弟の名を呼んだ。
「・・・どうして、何時も我慢するの?」
肉が裂けた手。
所々、火傷にもなっている。
傷跡が残らないと願わずにはいられない。
どうして何時も彼だけが、こんな目に合わなければならないのだろう。
好きで、その道に生まれたワケではないのに。
「我慢?あんまりした事ないけど?」
それが我慢でなくて、何が我慢だと言うのだろう?
「毎日毎日、我慢して、自分を削って・・・。」
こんな事ばかりしていたら、何時か彼が壊れてしまう・・・大切な彼が・・・。
もしかしたら、もう既に・・・少しずつ・・・。
「なんでだろうね・・・。」
ぽつりと呟いた。
「自分でも不思議なんだ・・・今迄、皇子としてのオレをちゃんと必要としてくれた人はいなかった。」
選ぶ事の出来なかった自由。
「アルムとしての自分も、ミラ以外は必要としてくれなかった。」
それは私が貴方を愛しているから。
「でもね、今は、何時も誰かが見ている。それは、ちょっと昔とは違う視線なんだ。」
目の前の自分の剣を見詰めている彼。
「オレは普通とはちょっと違った処に生まれてしまったけれど、何て言うのかな、少しはマシになった気がするんだ。」
「だからって怪我をしていいという事にはならないでしょう?」
誰かの為に、彼だけが傷ついていいという理由にはならない。
「あはは、うん、そうだね。ごめん。」
されるがままに手に包帯を巻きつけている様が痛々しくて、私は泣きそうになる。
「でもさ、ちょっとだけ・・・たまに踏ん張ってみようかなって思っちゃうんだ。」
「踏ん張る?」
「何も期待さていないオレだけど、手に届く範囲くらいはさ・・・。」
どうして彼はこんなにも優しく出来るのだろう?
今迄、周りの人間が見向きもせず、まともに扱おうとすらしなかったのに。
どうして、優しく人を信じようと思えるのだろう?
「だから、我慢してないし、こんな傷は何とも思わないよ。」
「思いなさい!」
彼の顔を見られなくなって、俯いた。
どうせ、顔を上げても、涙で滲んで何も見る事は出来ないから。
「それじゃあ、ダメなの!いい?アル?確かにアルは立派。でも、それじゃ、何にもならないのよ?」
包帯で包まれた手を優しく撫でる。
「大切なモノが傷つくのは嫌かも知れない。でも、貴方を大切に想っている人間は、貴方が傷つくのも嫌なの!」
彼はわかっていない。
"自分の価値"を。
「責任を持たなきゃと思うのはわかる。でも、それを一人で全部背負い込むのは別。苦しかったら剣だって捨てていいのよ?」
元々、彼は剣を握って戦うなんて向いていない。
彼は優しすぎるから、きっといつか、自分が斬り伏せた血と魂の重みに耐えられない。
壊れてしまってからでは遅いのだ。
「・・・ごめん、ミラ。」
「謝ってもらいたくて言ってるわけじゃないの!」
理解している。
きっと彼は、ここで謝ったとしても、悪いと思ったとしても、自分の身を削る事を惜しまないだろう。
その時がくれば、そうしてしまう。
予言に近いくらい理解しているつもり。
「ねぇ、ミラ・・・やぱりオレは、どうしようもないダメ皇子なんだね。」
それは彼が人間や自分の弱さを知っているから。
それは悪い事じゃない。
包帯を巻いていない方の手で、私の手を優しく包み込んでいるのがその証拠。
「知らない、そんなコト。」
「ミラ?」
私は涙に濡れたままの顔を上げて、彼に微笑む。
「だって、貴方は"私の弟のアル"だもの。」
もし、彼が本当に壊れてしまう日が来るとしたら・・・。
私は、ずっと彼の傍に居続けて、その日を見届けよう。
そして、最後の最後迄、私の愛を、全てを捧げよう。
「今日は・・・ミラと一緒に寝ようかな・・・。」
彼は何時でも私の太陽だから。
たまには、ミランダにマトモな愛を・・・(苦笑)