猛省と右手と傷。
「はぁぁぁぁ~。」
今迄生きてきて、一番長い溜め息を更新中。
「気が抜けるっス。」
顔に黒い粉をつけながら、ザッシュが笑う。
オレとホリン、二人共へろへろになって帰ってきて、ようやく着替えて休憩出来たところだ。
「ザッシュ。」
「何スか?」
「殴ってもいい?いいよな?」
「また突拍子もなく・・・。」
苦笑いで一蹴された。
オマエの不用意というか、用意周到な言葉が発端だとわかってか?
わかってるよな?
やっぱり殴っていいか?
「まさか、ダークエルフのお姫様と戦う事になるとはなぁ・・・。」
大体、アレがお姫様か?在り得ないだろ。
美人なのは認めるが。
「いや、ホリンのが断然いいな、うん。」
「ふぇ?」
帰ってきて緊張が解けたのだろうか?ヤケに眠そうだ。
て、君は、オレの寝台で何時もぐっすりと寝てるだろうが。
「今のトコ、オレが見たエルフの中では、ホリンが一番だなってハナシ。」
「もー、女性は他に一人しか見てないじゃないですかっ!てゆーか、ダークエルフの中だけなんですか?」
あ、拗ねた。
「しかしだ・・・。」
こんなことを言いながらも頭は回転させなければならないのが辛い。
「姫の心証を悪くしたのは、いいとして。」
「いいんスか?!」
何で驚くんだ?
「んー、長姫が人に対して排他的なのは元々だからな。大事なのは、彼女が身内を調べてくれるか否かだよ。」
せめて、当初の目論見通りに確約が取れたら良かったのだが、多分、人間と約束する事自体しないよな、アレじゃあ。
「調べなかった場合は、如何するのですか?」
レイアが口を開く。
「問題はそこだけだね。調べて何かあっても、向こうは人間嫌いだから。」
そこは、自分達だけで何らかの行動は起こすだろう。
オレ達に知らせなくてもいい。
調べた結果何もないならば、それはそれで・・・。
「その場合を考えて、やっぱり家捜しかなぁ。」
効率を重視して探さないと時間が嵩むな。
他にも考えたい事があるってのに・・・。
「証拠を掴んでその後は?しらばっくれられたら、どうなさるのですか?」
レイアの突っ込みももっともだ。
「う~ん、この城にも州府の城にも物資の搬入の痕跡があれば、言い逃れしても、何処かに不正があったという疑いは残る。」
流石に、以降の悪事はやり難くなるだろう。
そこまで辿り着けたら、最悪、皇子の強権でも揮うかな・・・無いケド。
「そこは何とかするよ。んじゃ、ザッシュ、州府と城の見取り図の入手宜しく。」
「はいぃ?!」
さらりと頼んだつもりだったが、ダメだったか・・・。
「だから、見取り図。効率的な家捜しには必要だろ?」
「・・・無茶振りにも程がないっスか?」
見取り図って最重要機密だからな。
発覚したら、即刻死罪くらいかあ、うん。
「あぁ、大丈夫、大丈夫。ザッシュなら出来る、出来る。多分。」
寧ろ、ヤレ。ぐらいの高圧さで笑顔。
「殺生な・・・。」
「最悪、どちらか片方でいいよ。」
オレは左手をひらひらとザッシュに振る。
「はぁ・・・じゃあ、顔と手を洗ったら行ってくるっス。」
がっくりと肩を落とし、部屋からとぼとぼと退出するザッシュ。
「レイア、頼んだ物はどう?」
オレがレイア達に頼んだのは、例の爆裂球の作製だ。
手数で攻められた時の最終手段だ。
これなら、面で対応出来る。
「言われた通りに作って、30個程。」
「まぁ、上出来かな。」
ミリィに頼んで、燃料用の木炭、肥料用の硝石粉、食品加工用の硫黄、等々を混ぜたものだ。
比率はヒミツ。
オレの努力の結晶だし、下手に使われたら困るからな。
だから、材料の買出しと加工する人間を分けた。
買出しした側は比率を知らないし、加工する側は材料を知らない。
情報交換しないようにミランダには監視してもらってたし。
というか、多分、ミリィ材料覚えてないと思う。
迷子で発見して貰ってた時、半泣きで混乱状態一歩手前だったし。
「レイアもホリンも身体洗っておいで。」
頑張った分、労わないとな。
「シルビィ。この球を厨房で保管してもらって。乾燥した所で、火気厳禁ね。」
「はぃ~。」
厨房なら、誰かに見つかっても幾らでも誤魔化しようがある。
「それが終ったら、君も湯浴みしてくるといいよ。ミラも一緒に。」
「あれ?アルム様は、一緒に入らないの?」
分別は持った方がいいぞ、ホリンよ。
「はいはい、オレはいいから、さっさと行った行った。」
オレは会話を打ち切ると、もう一つの思考に入った。
考えていたのは、ホリンの言葉。
『"片刃の長剣"で、第一王女のラミア様を軽く倒しちゃうんだもん。』
"片刃の長剣"
確かに彼女はそう言った。
ディーンの剣は、"オレが手にしてから両刃の長剣"だ。
それ以来、片刃の形状になった事は無い。
ただの一度も。
「何かの条件があるのか?」
しかし、オレが殺意に近い怒りを覚えて剣を振るった時は、明らかに拒絶の反応を示した。
「それなのに剣は、以前の片刃の状態に戻った・・・。」
微妙に矛盾していなくもないような・・・。
つまり、オレには使いこなせないって事なのかな?
最初から使いこなせるとも、使いこなそうとも思ってないけれど。
ただあれは・・・。
「ん?どうしたミラ?」
ふとミランダが一人で部屋内に佇んでいるのに気づいた。
どうやら、風呂には行かなかったらしい。
どうも、ミランダに対しては甘くなるんだよ、オレ。
なまじ一緒に居過ぎで、裏切る事はないと思っているせいか、気配を感じても無意識下で警戒対象から外れてしまう。
ミランダになら、裏切られても、殺されても仕方ないとは思っているのも確かだ。
一番オレに時間を費やして、一番人生を無駄にしているのは、ミランダだから。
「なぁに?」
返事をしない彼女に再び問いかける。
昔のミランダは、よくこんな風に押し黙る事があったのをオレは覚えている。
必ず大事な事を言う直前の時だ。
「"アル"・・・手を出して・・・。」
何年振りだろう・・・その呼び方。
「ん?手?はい。」
オレは左手を彼女に向けた。
無駄だと思うけど。
「・・・反対。」
うぅ・・・見詰める目が痛イ。
やっぱり無駄だった。
恐る恐る右手を彼女に差し出した。
「・・・どうして、何時も我慢するの?」
火傷で真っ赤になった手の平。
ところどころ皮膚が裂けて血が滲んでいる。
「我慢?あんまりした事ないけど?」
自慢じゃないが、怠けたり、ダラけてばっかりで、我慢てあんまりしないんだよな。
たいていの事は、納得したり諦めたり出来てしまうし。
「毎日毎日、我慢して、自分を削って・・・。」
"大事な姉さん"はそう言うと、オレの手の治療を無言で始めた。