明断と激怒と黒姫。【後】(ホリン視点)
目の前で起きた現象に私は目を疑った。
今迄、彼が、私のご主人様が、あんなに怒りをあらわにした事はなかった。
あんなにも激しく。
でも・・・。
「アルム様ッ!」
振りかぶられた"片刃の剣"
それだけはいけない!
やっちゃダメだよ!
「大丈夫だよ、ホリン・・・。」
さっきとは違う優しい声。
ゆっくりと突きたてた剣を抜く。
そこには一滴の血もついてはいなかった。
「ちょっと頭に血が昇っちゃった。」
笑顔。
ゆっくりとこっちに歩いて来る。
「あぁ、そうそう、高貴なエルフさんとやら。」
背中にいる同胞に向ける声は、未だに怖い。
「そんなに自分達が上で、周りが下ってんなら、試しに身内を調べてみなよ。」
声には、棘があって怖いけれど、私を引き寄せる手は、物凄く温かくて優しいの。
何でだろう・・・。
「きっと、自分達の欲望や醜さが人間と変わらないってわかるよ。特に物流を重点的になっ。」
「何?どういう事だ!」
相手からの呻きに近い声が返ってきて、ほっとする。
良かった。
ご主人様が、"あの方"の命を奪うような事にならないで。
「調べりゃわかるよ。」
そっか、コレを伝えるのが目的だったんだ。
「待て!」
「い~やだっ♪」
ゴソゴソと腰についた革箱を漁ったご主人様は、球体の何かを後ろに向かって放り投げた。
「ホリン!全力疾走!」
投げた途端に走り出したご主人様が、左手で私の手を思い切り引っ張る。
痛いって!
何とか駆け出した私の後ろで、爆音と突風が!
「止まらない!走る!」
手を引かれるまま、私は無我夢中で走った。
かなりの距離だったと思う。
追ってくる気配は無い。
「な、何ですか?!アレ?!」
「ん?」
の、ノンキな声で!
「さっき投げたヤツです!」
「あぁ、爆発する粉で作った球。」
あっさりと答えられた。
「そ、そんなの何時作ったんです?!」
「え?昨日。ほら、ミリィのお使い。」
そう言えば、ミリィさんがお買い物に行って、みんなの想像通りに迷子になっていた気が・・・。
「て、私、そんなの聞いた事ないですよー!」
「うん、オレも最近までそういうのがある事さえ忘れてた。」
「わ、わすれ・・・。」
そんな画期的な発明品を忘れるなんて・・・。
「ロクな使われ方しないだろうし、兄上に時代を先取りし過ぎて使えないって言われたからさ、当時。」
先取りも何も・・・。
「頑張った割りには、評価されなかったんで、すっかりと勉強した事実自体を忘れてた。」
役に立たない勉強なんて大嫌いだと、ブツブツ言うご主人様は可愛いケド。
何か、この人は本当に色んな意味ですんごいんだと思った。
「ごめんな・・・ホリン・・・。」
ん?
「ホリンの居場所は、オレが必ず作るから。」
あ・・・。
「反省ですか?」
そっか、私、帰る故郷なくなっちゃったんだ。
「んー。」
でも、なんだろ?
そんなに苦しくない。辛くない。
「まっ、いっかぁ。」
「へ?」
あはは、面白い顔。
でもね・・・。
「何かすっきりした気がする。私、中途半端だったんだなぁ。」
故郷に対しても、人間社会に対しても。
「でも、ま、今はご主人様がいてくれるしぃ。」
すり寄っちゃえっ。
「いてくれるんだよね?」
「うん?まぁ・・・ね。」
「あんな怖いご主人様は嫌だよ?」
本当に怖かった。
でも、原因が私に対する言葉だったからってのは、ちょっち嬉しい。
「ちゃぁんと飼ってねっ。」
「あはは。」
反応がかーわいっ。
ご主人様のアルム様は、皇子様じゃないよね。
何かアルム様はアルム様ってカンジ。
「あ、そっか。」
「どした?」
前に言っていた事って、こういう事なのかな?
「なんでもなーい。それよりご主人様って強いんだね。見たコトない剣で圧倒的だったもん。」
「大人気なかったデス。」
しゅんとしてるご主人様もかぁーいいなぁ。
「"片刃の長剣"で、第一王女のラミア様を軽く倒しちゃうんだもん。」
「はいぃぃぃぃぃーッ?!」
あ、固まっちゃった・・・。
これはこれで、面白くてまた可愛いカモっ。
何だよタイトルと思ったヤツ、正座(苦笑)
このタイトルは引っ張りますぜw