明断と激怒と黒姫。【前】
別に前後にしなくても良かったのですけれど、まぁ、森はひとつなぎというコトで。
イライラしたせいか、意外と緊張がほぐれて身体が動くようになった。
いや、慣れかな?
"林檎効果"とでも呼ぶか?
「慣れてきましたね?」
「多少は。」
単純に慣れなだけだな。
野山を走り回るなんて、全然した事ないもんな。
もし、この州が平和になって、森にも来られるくらいになったら、鍛錬する事にしよう。
「もうそろそろですよ。」
「意外と頑張れたな。」
良かった、ホリンの前で潰れるような事にならなくて。
「?!ホリン止まれ!」
今、一瞬、耳障りの悪い音がした。
絶対にした!
「わっ!」
ホリンの足元に一本の矢が突き刺さる。
「動くな!オマエ達は既に囲まれている!」
森の中に声がこだまする。
姿は見えないが、確かに気配はある。
恐らく弓矢を打ってきた方向であろう、右隣のホリンの右前。
オレの前方辺りにも。
後に誰かがいる気配はないが・・・木の上辺りにも気配がするな。
「姿を見せずに囲まれてるも何もないだろ?せめて気配くらい出せよ。説得力ないぜ。」
わざとらしく言ってみせるも、答えが返ってこない。
やっぱりハッタリだったか。
「そうやって騙すのがエルフのやり方で礼儀ってんなら、いいけどな。」
エルフに偏見なんて全くないうえに、身近にいるのがホリンだけだから、余計にエルフがどんなものか理解出来てないんだよな。
一応、ホリンとザッシュから軽く説明は受けたが。
はぁ・・・ラチがあかない。
「仕方ないなぁ。オレ、エルフがそんなに警戒心が強いとは思わなかったよ。」
流石、世界で一番有名な引き籠り。
オレは腰に挿したディーンの剣に心の中でごめんと謝ってから、眼前に放り投げた。
「アルム様?!」
まぁ、そりゃあ、ホリンさんだって驚きますね。
「おーい、これでオレは丸腰だぞー。これで出てこられっかー?」
こんな所で足踏みしている暇はない。
「ホリン、君も武装を解いて。なるべくギリギリで取れる距離に置くんだ。」
後半は小さな声で呟いた。
渋々、武装を解除するホリン。
「これならいいだろ?」
オレの声が森にこだまする。
「人間風情が我等の森に何の用だ?」
オレの前方から二つの影が現われる。
一人は女性、一人は男性だ。
「ちょっと話相手が欲しくてな。」
首を竦めるオレに怪訝な顔する金髪・金眼のダークエルフの女性。
当然、黒い肌だ。
鎧に隠されてはいるが、その女性としての肉感的な線は美しく、色彩の配色は神々しくもある。
「人間がダークエルフを話し相手だと?はっ!」
閉鎖的というより、排他的逆ギレ?
見下されているのは、ありありとわかる。
まるで、何処かの国の貴族みたいだわ。
何処とは言いたくないけれど。
「そう言われてもなぁ・・・。」
オレは隣にいるホリンを見る。
ほぼ毎日話してるぞ?
「む?オマエは同胞か?」
多少は驚きはするか・・・。
「我等の同胞が、人間を森に引き入れるなぞ!」
何か、イラっと来るぞ。
さっきの林檎のせいじゃないよな?
「あ、あの私は・・・。」
「言い訳無用!下等な人間如きの味方などしおって、一族の面汚しが!」
心臓の音が聞こえる。
多分、オレの鼓動。
なぁ、ホリンは何か悪いコトをしたのか?
いや、悪い事をしたのかも知れないが、何も聞かずに一方的に他者を切り捨てるのは正しいのか?
この扱いは正しいのか?
「誇りすらも捨て去って、人間社会の世俗に塗れた愚か者が。コイツ等を連行しろ!」
いきなり連行って、犯罪者扱いか?
誇り?何だソレ?
あぁ、鼓動がウルサイな。
周りの雑音も・・・。
なぁ、何で目の前のこの女は、同族のホリンをこんなに見下してんだ?
ホリンは何であんな辛そうな瞳をしてるんだ?
"オレのホリン"は何で・・・なぁ?
誰か・・・誰か教えろよ。
「うわっ!」
誰か・・・誰か・・・。
「答えてみろよ!」
宙を舞う黒剣。
剣に触れようとして、思わぬ衝撃を受け蹲る男。
そうだ、ソレは"オレだけの剣"なんだから。
オレ以外の者が持つ事は許さない!
「フッ!」
剣を取って、蹲る男を蹴り飛ばす。
「違う!」
オレは叫んでいた。
ブッ飛ばしたいヤツは、コイツじゃない!目の前の女だ!
剣を鞘から抜き、女の剣を弾き飛ばし、それでも勢いは止まらず身体ごとぶつかって樹の幹に叩きつけた。
「一族の面汚しだ?愚か者だぁ?」
雑音がウルサイ。
「ホリンはな、安穏な世界を出て差別だらけの人間社会で必死に生きてきたんだ・・・引き籠ってるだけで年食ってるオマエ等とは違う!」
オマエは喋るな黙れ。
一方的に決め付けて言い放ったのはそっちだ。
今度はオレに喋らせろ。
「下等な人間だ?じゃあ、下等な人間にこんな目に合わされてるオマエは、さぞかし偉くて高貴なんだろうな?あ?」
生まれは誰にも選べないんだよ!
選べんなら、誰もが幸せを願う。
苦しまない道を選ぶ。
「くっ・・・。」
「下等な人間以下になるのが屈辱か?なら・・・。」
オレは剣を振りかぶる。
剣を握る手が熱くて痛い。
きっと火傷しているんだ。
わかってるよ・・・わかったから・・・。
「アルム様ッ!」
ホリンまで、そんな声を上げて・・・過保護だろ?
オレは剣を眼下に倒れている女の首筋スレスレに突き降ろした。
そろそろ疲れてきました・・・そんな作者に皆様の愛の手を・・・いや、合いの手でも可