無性と森と食事。
森に足を踏み入れるのは、夜の方がいいと当初は思っていた。
周りの町の者にも見られる可能性も低く、森でも見つかりにくい。
定番のように思っていた。
『エルフは夜目が利きますよ、夜でもバッチリ。』
そういうホリンの一声で、出発時間を繰り上げた。
町の人間にオレの姿を見らたとしても、それが皇子だと結びつかないだろうし、ホリンは外套を羽織って肌さえ見られなければいい。
エルフが夜目が利くというのならば、森の中で不利なのはオレだけという事になる。
ならば、さっさと行って、さっさと帰って、時間の節約をした方が断然いい。
「しかし、平坦な道と違って、走るのにコツがいるな。」
森の中は、樹木の根なので、予想以上に不規則な凹凸がある。
ちょっとでも気を抜くと転びそうになった。
「充分、早いですよ。」
ひょいひょいと下を見ずに走るホリンの動きは、とてもしなやかだ。
オレは下に気を配れば、眼前の枝に激突しそうになったり、その枝に気を配れば、足を取られそうになる。
不様だ。
剣で枝を払おうかと思ったが、集中する箇所が剣の分増えるのと、速度が遅くなる事に気づいてヤメた。
樹木にもディーンの剣にも悪いしな。
「訓練不足だって事だけは、理解した。」
体力の消費量は、普通に走る時の倍はあるだろうなと冷静に分析する。
「そうですかねぇ?」
大体にして普段やる事のないダメ皇子なんだから、時間はたっぷりあったのに。
情けない。
「仕方ないだろ、城の部屋からほとんど出られないんだから。」
と、言い訳。
はい、言い訳です、どう見ても。
「んじゃ、ちょっと休憩しましょ。」
立ち止まり、食料袋を漁るホリン。
この速度も早かった。
全然、息が切れてないじゃんよ。
「ご主人様も食べますか?」
う~ん・・・腹は減ってはいるが、食べてすぐに走れるかが問題。
「あとどれくらい走る事になりそう?」
もう一時間以上はゆうに走っている。
残りの距離も気になるが、食べて吐くなんてのだけは嫌だ。
格好悪過ぎる以前の問題。
「この速度なら、半時もあれば。」
あ、残りの方が少ない。
「んじゃ、食べるかな。」
「はーいっ。」
ホリンが林檎を一つ投げてよこす。
特産品ですよ、特産品。
「美味いよな、ここの林檎。」
「そーですね。」
ホリンが林檎を齧る。
あれ?
「なぁ、ホリン?」
「ふぁんれふか?」
「飲み込んでからでいいって。」
口に頬張ったまま喋られてもわからん。
「林檎って下から齧るんじゃないの?この地域では。」
「なんですか、ソレ?」
「いや、だから下から・・・。」
オレの質問の意図がわかってないらしい。
通じていない。
「苺でしょ?その食べ方。」
苺?
今度はオレがその意図がわからない。
「だって、林檎は種のある芯側から順に蜜が溜まるんだから。」
だから?
「外側は何処もほとんど味は同じですよ?苺は茎元と先端は甘味が違うケド。」
あ、苺は確かそんな理屈があったな。
「で、じゃあ、この地域では別にそんな食べ方は・・・しない?」
あぁ。
癪に障るな。
アトで覚えておけよ。
オレの中からフツフツと怒りが湧き上がる。
「さっさと食って移動開始するか。」
イライラしながらもオレは、林檎に齧り付いた。
ごめんなさい、どんどんご都合主義です。