平叙と慣性と温度。
あと四話じゃ、確実に終わらない・・・Ⅰ章より長くなる事が確定しました。
最近、考え事が増えまくった気がする・・・。
何時も一人の時は、何もする事がないから、多々あったけれど。
今は違う。
考えている内容に何人もの人が介在する。
顔を見ぬ誰かでも、一括りの名詞でまとめられる人間だけでない。
個々の顔が浮かぶ、そんな距離の人達がオレの考えを乱す。
「で、イラついたり、不安定になると誰か居るんだよなぁ。」
振り返ってみるとミリィがいた。
「あの、買出しの品を聞きに・・・。」
「ちょっと待ってな。」
オレは手近にあった筆を取り、紙に書き出していく。
勿論、それがどういったものかという説明文を書いて。
「ミリィ、一人だけで大丈夫か?」
人選ちょっと失敗。
お金落としたりしないかな?
「大丈夫です!皆さん頑張ってるみたいだし。」
そうだった、ミリィは一番の頑張り屋さんだった。
「あ、あのっ、アルム様?」
「何だい?」
「アルム様は、今、ご不安なんですか?」
何だ?
「い、いや、先程・・・。」
「あー、言ったな、そんなコト。」
ミリィはすごく心配そうな顔で見詰めてくる。
何?
そんなに参ってるように見える?
「んー、ちょっとな。ほら、人の上に立つってさ、下の人間全部の人生を左右するって事だろ?」
上に立つつもりなんて、元々なかったのだから。
「責任ですか?」
ぎゅっと両の拳を握る様が可愛い。
「それにさ、誰にだって不安になる事なんてあるだろ?ないって奴は少ない。」
今迄だって、こんな事から逃げてばっかりだったんだし。
出逢った運命は、自分の存在意義を打ち砕くのなんて、簡単だったし。
「そうですね・・・あ!私、いい方法を思いつきました!」
ミリィがとてとてと走ってくる。
おぉぅっ、とてとてが上半身で、ぽよんぽよんに変換。
これが"慣性の法則"・・・いや、違ったか。
見事なぽよんぽよんを眺めていると、それがどんどん近づいてきて・・・。
ぼふっ。
そんな音がして、顔面に。
意外と沈む?埋まる?
今朝のホリンより柔らかいな・・・と、思ったら、頭に腕が回ってきて、ぽんぽんと肩口辺りを優しく叩かれる。
「小さい頃、私のお姉さんが泣いている私にしてくれたんです。」
言うとまたぽんぽん。
心地良いが、少し息苦しい。
んで、温かい。
心音は精神安定の効果があるというのは知っていたが。実感。
すげぇ、驚き。
「どうです?」
身体を離して、自分の胸元辺りのオレを見下ろしてくるミリィ。
「ん・・・何だろ・・・どうしてミリィ達は、こんなにオレに優しいんだろ?文句言わないし。」
どう見てもこき使ってるよな?
流れて的に酷い展開だよな?
対してミリィは赤面する。
「わわっ、気づかないんですか?」
何が?
首を傾げるオレに対して、ミリィは赤面する。
「気づくも何も・・・何で?」
「あぅ・・・じゃ、じゃあ、私の胸に聞いてください!」
そう叫ぶと、思いっ切り彼女の胸に顔面を押し付けられた。
新手の拷問?
先程よりも早い心音。
ふと、生きているって事は、こういう事なんだな。とか、アホな事が頭に浮かぶ。
温かさがそれを補完して・・・。
昨日のホリンも、一昨日のレイアも、ミランダも同じ事を思ったんだろうか?
オレに触れて思ってくれたんだろうか?
そうだとすると、自分が生きているという事が少し嬉しいかも知れない。
ほんの少しだけだけれど・・・。
「わかりました?」
顔を真っ赤にしたミリィが聞いてくる。
息が少し荒い・・・て、オレもか。
「少しだけ・・・あと、これを発見したミリィのお姉さんが凄いって事も。」
オレは素直にそう思った。
「エヘヘ。」
この照れ方、馬車の中でも見たな、癖か?
「とりあえず、この紙に書いた物を買ってきてね。薬屋と石屋と雑貨屋に辺りに行けば、きっとあるから。」
だと思う。
ミリィでも大丈夫・・・多分。
人選的に残っていたのがミリィだけだから、苦肉の策ではあるけれど。
常に苦肉の策だけどなっ!
もう慣れてきたよ。
料理人達は、他の人間からの情報収集の役目もあるしな。
彼等は食事を取る人間のほとんどに会うし。
「じゃ、行ってきます。」
「気をつけて。」
「はい!」
言ったそばから、入れ違いに部屋に来たホリンと激突しそうになっていたのは、見なかった事にした。
「ご主人様ー。あなたのホリンが参りましたよんっ。」
茶目っ気たっぷりに言いやがって、可愛いじゃねぇか、コンチクショウ。
「はいはい。」
オレは流し気味にあしらいながら、机いっぱいにこの城周辺の地図を広げた。
結局、エルフの森に行くことにしたからだ。
まぁ、ザッシュに頼んだ事の報告次第では行かなくて済むが、明日を行動日にした以上、今のうちにある程度決めておかねば。
「森の集落の位置と進入経路を決めておくよ?」
本音としては、彼女を置いて行きたかった。
故郷を捨てるという事情は、きっと大変なモノに違いない。
オレだって悩んだしな。
それなのに彼女は、自ら案内を買って出たんだ、信じないでどうする。
「本当に、いいのかい?」
オレはこれを最後だと決め、彼女にもう一度聞いた。
「ご主人様の為になるなら、やりますよんっ。」
座っていたオレの膝の上に乗る。
・・・・・・これくらいは今回は許してやろう。
「わかった、じゃあまず位置取りからだ。」
オレは彼女の胸に下辺りを抱えるようにしながら、話を続けた。
「はーい。」
次回、前・後編になります。