日向と黒肌と悪戯。
「今日は驚かないんだから・・・。」
意識の遠くの方でそんな呟きが聞こえた。
色々とぼやけた頭の中と身体だけれど、この声は知っている。
オレが何処にいても、何をしていても認識出来る様な声は一つしかない。
「落ち着いて・・・アルム様、朝食の準備がっ、あぁっ!」
何やら変な呻き声が・・・。
「んぬぅ・・・朝か・・・。」
その割には視界が暗いんだよな。というか黒い?
「うぅむ。」
「ぁんっ。」
身動きしてみると、頭上から何やら艶かしい声が・・・。
声の正体は考えるまでもない。
それくらいには、意識がはっきりしていた。
「ホリンッ!」
オレは飛び起きた。
だって、オレが黒いと思っていたのは彼女の肌で、彼女の着ていた夜着は胸の上まで捲れてて・・・・。
うん、胸の辺りにオレが・・・かぶりついていた・・・様にミランダには見えたらしい。
「あ、あの、ホリン?」
「アルム様ぁ~、急に離れたら寒ぃ~。」
ぐいっと引き寄せられる。
寒いんだったら、最初からそんな格好するなよ。
「待て、ホリン、朝だ。起きろ。」
「んー、もうですか・・・。」
眩しそうにうっすらと瞳が開く。
「やっぱり寒ぃ・・・アルム様、夜みたく温かいのしてぇー。」
寝台の上で悶え始めるホリン。
あのさ、オレ、寝相悪いのかな?
誰かと寝るという事ってないから。
今度、ミランダに聞いてみよう。
「て、ミラ?」
ふと思い出した名前と存在を確認すると、扉の前で停止していた。
何か、瞳が潤んでいるのは気のせい?
「あ、温かいのって・・・何ですか?」
訴えかけるように聞いてくる。
「何もない!何も!」
あまりの怖さに首を横に振りまくる。
「あー、黒い肌だと、アトが見えないなぁ、ザンネン。」
何のアトだ!何の!
「ホーリーンーッ!」
「ん?何ですか?」
「温かくなる・・・アトが残る事・・・。」
もう、この展開嫌だよ・・・。
飽きてこないか?
いや、飽きるとか言う問題じゃないし。
「あーっ、もう、オレは朝食に行くぞ。」
付き合いきれん。
何でこぅ、巻き込まれるんだ?
全然事態も良くならないし。
「あ、ミラは髪飾りにしたのか。」
寝台から降りて、着替えを始めたオレの視界に木彫りの髪飾りが目に入る。
ちなみにミランダは、オレの着替えは手伝わないぞ。
オレの嫌がる事は、例え職務放棄になろうともやらないからな。
「シルビアといい、ミラといい、もっと良い物を買っても別に構わないのに。」
その金も国庫の金ではなるけれど・・・ミランダ達くらいにはいいかなと思う。
国庫と言っても、皇族のお金はこの直轄地の田畑収入だから、完全な税金とは全く違うんだけれど。
「私にはこれで充分です。」
「そうなの?そりゃあ、似合ってはいるけれど・・・。」
「本当ですかっ?!」
「うん。とても綺麗だよ、ミラ。」
オレは彼女の頭を撫でた。
彼女に触れる事が久しぶりな気がする。
どうやらも彼女も同じ事を考えているのか、少し驚いた表情をしたまま、されるがままになっている。
一番の味方だもんな。
オレ達の間には忠誠を超える絆がある。
少なくともオレはそう思いたい。
「ありがとうございます。」
「ミラが喜んでくれるなら、何でもするよ。」
今までの放置っぷりを少し反省。
「いいなぁ、ミランダさん。純愛ってカンジで。」
その光景を眺めていたホリンが間の抜けた声を上げる。
「わ、私より、ホリンさんの方が・・・。」
語尾がどんどん小さくなって良く聞き取れなかったな。
「私は純愛じゃないもんねぇ。ご主人様の愛奴隷だもん。」
「あ・・・い、ドレイ?」
「うん、ほらぁ、アルム様に飼われてるの♪」
何時の間にか羽織っていた外套を捲って、例の首輪を見せる。
それを見て、首輪の意味を理解(勘違い)したミランダがオレを見る。
「あれは、彼女が自分で頼んだヤツで、オレは関係ないよ。」
ここに来てから、言い訳とか説明ばかりだな。
本当は、こんな事に時間を費やしている暇はないはずなんだが。
かと言って、邪魔なヤツを叩くというのも本来あった目的からかけ離れてはいるというのもある。
「あ、ずるぅい。昨日は飼ってくえっるって言ったのにぃ。」
アレはモノの例えなんだが・・・。
「確かに、オレは皆を気に入ってるからな。」
ミランダの肩に手を置く。
「誰一人、"オレからは"手放したくないな。我ながら欲張りだ。」
「あはは。いーんじゃないですか?誰だって欲はあるんですから。」
本当にいいんだろうか・・・?
胸が痛い。
こういうの偽善者っていうんだよな、きっと。
「そうか。でも、ちょっと肉欲的過ぎないか?」
二日間の夜を思い出して苦笑。
「あら、肉欲的って言うなら、腰が抜けるくらいしてくださーいな。」
けらけらと笑うホリン。
ミランダはこの言葉に絶句しているようだったが、この言葉で誤解は多少解けたようだ。
「レイアさんと一緒に泣いちゃいますよーだっ。」
うぅ・・・一本取られた気がしましたよ、えぇ。
まるで自分が男としてダメだと烙印を押された気分。
「はぁ・・・メシ食おう。」
朝からぐったりと、オレは食堂に向かった。