拝受と首輪とご主人様。
少し休みたくなりにけり(苦笑)
一日、朝からすったもんだの騒動があり、カーライルの嫌味(?)合戦も潜り抜けた。
その後、剣を振って鍛錬し、心身ともにぐったりとした頃にシルビアとの一悶着あったと。
我ながら、休む暇すら無く。
暇は鍛錬に割り振ったとも言うが。
「で、ホリンは何を買って来てもらったんだ?」
怒濤の展開の中、夕食を終え、今や夜。
待望の就寝時間だ。
待望といっても、エロい事を期待しているワケではなく、言わなきゃいけない事があるから。
「ん?ちゃんと身に着けてますから、今見せますよー。」
昨夜のレイアと同じ外套で部屋に入って来たホリンが、上機嫌で答える。
余程、良い物でも頼んだのだろうか?
「じゃーんっ!」
「ぐはぁっ!」
上着を脱いでお披露目。
どころじゃないって!
「オマエもその格好はなんだ!?」
「なんだって・・・だって、アルム様、私の肌を褒めてくれたしぃー。」
ホリンは、頭からすっぽり被るタイプの一繋ぎの服を着ていた。
膝上の辺りで裾がひらひらとしている。
しかも・・・すっけすけ・・・。
流石に上下は下着を着けていたが・・・というのがはっきり分かるくらい透けている。
他は薄い紫に彩られて透けた黒い肌が、全身堪能できる仕様。
「だからって、オマエも大胆過ぎるだろ!」
「そーですか?肌褒められたし、そこが"寵愛される点"という設定なんですよ!」
「だからってなぁ・・・。」
年頃(?)の女性がそではどうだろう?
「てゆーか、"も"って何ですか?あ、まさかレイアさんと被っちゃいました?」
「近いが、被ってない。寧ろ、ホリンのが過激。」
「よし!勝ったー!」
喜んだり勝負したりする観点が違うだろう・・・違うよな?
「本当は迷ったんで、良かった良かった。」
「・・・迷ってそれか。」
「えぇ、流石にどーかなぁって、下着をつけるかどうか。」
「そっちかよっ!」
突っ込む所だ。
確実にここは突っ込んでいい所だ。
「私は別にどっちでも良かったんだけど、レイアさんに止められちゃって。」
良くやったレイア。
「こういうのは"足並み"をそろえないと妾の順列問題?とかゆーのになるからって。」
待てレイアよ。
いや、待たなくていい。
足並みを揃えずに今すぐ中止しろ。
「で、肝心の・・・。」
彼女の体の上下に視線を動かして見てみると、首の所に彼女の肌より黒い輪がついている。
「黒に黒か・・・。」
「通でしょ?」
留め具らしき位置に硬貨程の紅玉がついていて黒い色に映える。
「首輪の方が、ご主人様に飼われてるーってカンジが出てていいでしょう?」
か、飼われてるって・・・あのなぁ。
「寧ろ、ダメ皇子じゃなくて、鬼畜皇子の間違いなんじゃ・・・。」
「私は気に入ってますよー。う~、寒い寒いっ。」
外套を放り投げて、ぴょんっと寝台の布団に潜り込む。
寒いなら、その格好やめりゃいいのに。
「気に入ってるなら、いいか。」
「はい、ありがとーございましたー。」
満面の笑みで言われちゃな。
勝てないよな、うん。
「ところでアルム様?」
ホリンが急に真剣な表情になる。
珍しいっちゃあ、珍しい。
「何だ?」
「昨夜はレイアさんとどんなコトしたんですかー?」
ホリンが興味津々とばかりに近づいてくる。
「は?」
「お堅いレイアさんが、あんな風になるんだから、きっと物凄いんですよねっ!」
恐らく赤面しているんだろうが、夜に黒い肌だからわかりにくい。
「えぇと・・・。」
何だろう、この瞳は・・・。
「えっと濃厚な愛され方はいーんですけどぉ、あのー、私、初めてなんで、最初は優しくがいーかなぁと・・・。」
何を真剣になるかと思えば。
初めてなら真剣になるのも仕方ない事か。
「って、違ーうっ!」
「はい?」
突然の絶叫にきょとんとなるホリン。
「昨夜は、オレに騎士の誓いをしただけなの!」
だけと言っても、それは魂の誓いだから、ある意味で心身ともにオレのモノになったに等しいんだが、全く同じではない。
「それだけぇ?」
「それだけ。あとはこれからの話・・・て、ホリン?」
危うく本題を忘れる所だった。
「何です?」
オレは彼女の手を握った。
シルビアやレイアの時の事もあったから、これ以上彼女を不安にさせたくはない。
「もしかしたら、エルフの森にすぐに行く必要性が出てくるかも知れない。」
だから何だと言われたらそれまでだが、一応な。
「森に?」
「うん、行くだけ。争いになるような事は全力で避けるから。」
まだ可能性だし、そうだったとしてもダークエルフとの交易は、オレ的には悪い事だとは思ってはいない。
「必要なんですよね?」
表情はわからないが、彼女の握る手の強さで気持ちはわかる。
「場合によってはね。どうしても。」
「なら、仕方ないですねー。ちゃぁんと私も連れてって下さいよ?案内しちゃいますから。」
彼女はにっこりと微笑んでいた。
「無理強いはしないからね。」
彼女の手を握っていない方の手で、髪を撫でた。
思っていた以上にさらさらしている。
「大丈夫ですって。私のご主人様はアルム様なんですからね。」
そう言って彼女は、自分の首輪をオレに見せつける。
「そうだね、きちんと飼ってあげなきゃね。」
もう一度、彼女の髪を撫でる。
「もー、アルム様ったらぁ、そのテでレイアさんも落としたんでしょー?」
笑いながら、くすぐったそうにオレに撫でられるホリン。
「"も"ってなんだよ、"も"って。」
さっきの会話を真似てみた。
「あはは、被ったってコトですよー。」
意図を理解したのか、こんな風に返してオレの胸にすり寄ってくる。
この町のこの場所にあって、ホリンもきっと不安定なんだ。
オレはそれをしっかりと認識しなければいけないんだ。
「大丈夫。ホリンがオレから離れていかない限りは。」
いずれ嫌でも離れる事になるとしても。
オレは、それ以上の言葉を続けなかった。
ただホリンのするままに。
「ダメですよ、私は飼われてるんだから、自分から離れられないんですよん。」
すり寄った胸元からオレを見上げた彼女は、オレの顔に自分の顔を近づける。
「ご主人様が捨てない限りは、です。」
そう言って、オレの唇をぺろりと舐める。
「ね?」
悪戯っぽく笑った彼女は、出会ってからの何時もの彼女だった。
オレはそれならソレでいいと思いながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
勿論、彼女を抱きしめて。