法と虚飾と薬指。
Ⅰ章みたく20話前後で終わらせようと思っているのだけれど・・・。
もう半分使ってしまった・・・(汗)
で、結果。
汗はかくわ、余計にイライラするわで、現在に至る。
「兄上は凄いよなぁ。」
あんな有象無象とか、優秀な人間を使うのは勇気がいる。
清濁併せ呑む勇気ってヤツか。
「兄上の場合は完璧超人だから、カーライルでも優秀とかって思わないんだろうな・・・。」
危うく兄上の弟馬鹿っぷりだけを思い出して、優秀さを忘れるところだった。
「人間的でなく、皇族としての器と資質があからさまに違うものな。」
わかりきった事なんだけれど、口に出して言うと、余計に情けなるな。
「あらあら、皇太子様とは面識ありませんが、アルム様も負けてはいませんよ~?」
この間延びした声も、唐突さも慣れてきたかな。
果たして、慣れていいものかは置いておいて。
「シルビィ、ノックくらいしてくれない?」
金の髪を靡かせたシルビアが、そこには居た。
「はい~。アルム様の溜め息が緊急事態を告げていましたもので~。」
何だかな。
反省の色ナシ。
「緊急事態ね。なら、仕方ないね。」
もはや、オレの心がきっと読める(だろう)彼女に何を言っても無駄な気がしてきた。
「皇太子様のお話は良く聞きますけど、そこまで凄い方なのか~っていまいち分かりませんわ~。」
シルビアは常に微笑んでいるよな。
「そう?噂が出るくらい有名な時点で、オレより上じゃない?」
「あら~、噂が出るだけなら、悪い人も同じですよ~?」
あぁ、まぁ、確かにな。
「私にとってはアルム様の方が、実際に会ったら凄かったですぅ~。」
「それはどういう意味で?」
ダメ人間っぷりが、とか言われたら泣く。
「貴方だけの長剣の女騎士。」
一つ。と言わんばかりに人差し指が天井に向く。
「ぐ。」
「ダークエルフの侍女兼愛妾。」
「いや、愛妾じゃないって・・・。」
設定だけだろうが。
あぁっ、人差し指の次に中指が天井にっ?!
「長剣の元剣術指南役の近衛隊長。」
「それも入るのっ?!」
規格外中の規格外ではある。
はい、次は薬指ですね。
「そして、黒い長剣使いの皇子。」
「シルビィ・・・それは・・・。」
「はい~、好きな殿方の事は何でも知りたいのですぅ。そういうものなんですよぉ~。」
「そういうモノなんですか?」
「そういうモノなのですぅ。」
何とも・・・別にいいけどね・・・黒い剣っていう奇異な外見以外は、(周りの人間的には)何もないし。
「ん~。」
四本の指を天井に向けたまま、首を傾げるシルビア。
次の発言が恐いんだよ、この溜めわ。
「今度は如何致しました?」
何でオレ、敬語?
「キリが良くないので、五つ目は如何でしょう~?」
「五つ目?」
四つ目迄がアレなので、少々不安。
「そうですねぇ~、金髪の愛人とか如何ですかぁ?」
「ブッ。」
その展開で来るか。
「あのさ、一応、前回みたく聞いてはみるけれど、その心は?」
「年上女はダメですかぁ?」
いやいやいやいや、それを否定したら、お姉ちゃんの存在意義が確実に崩壊してしまいますヨ。
「ん~、レイアさんは騎士、ミランダさんはお姉ちゃん・・・。」
今度は指が順々に折られていく。
「ホリンさんは愛妾で、ミリィちゃんも『抱き心地はいい』と言ってましたでしょう?」
言った記憶、確かにアリマス。
「私だけが扱い低いですぅ~。」
あ、ご不満だっただけね。
「はい~、ご不満ですぅ~。」
また読まれたよ・・・。
「と、いうのは置いておきまして~。」
置いといていいんだ。
「アルム様の心の広さは、皇太子様でも~敵わないと思いますよ~。」
「節操がないとかって言わない?ソレ。」
何か脱力するんだよな、何時も。
良い意味でも悪い意味でも。
「人を受け入れるには、自分の色々な面が試されるんです。」
ちょぴり真面目な口調で、でも笑みを崩さずに。
「それは日々の言動であったり、自分の与り知らぬ所であったり。」
「日々の言動も、自分のいないとこでの噂も、同じで見た通りだよ?オレの評価は。」
面倒事が嫌いで、後ろ向きで、誰からも一切の期待をされていない皇子。
「んふふ~。アルム様自身が知らない所で、皆、照らされてるのですぅ。」
シルビアがオレに唐突に抱きついてくる。
うわっ、何か魔王に攻撃されてるオレ!
この弾力スゲェ!
違う生き物みたいだ。
「じゃなくて、近いってシルビィ!」
この破壊力は想像以上だ。
「いつか・・・私にも光をくださいますか?」
酷く小さな声で、とても切なさそうに、何時もと違う口調で・・・。
「シルビィ?」
痛そうな声だった。
「ご命令通り、お買い物して参りました~。」
お釣りが入っている皮袋をオレに渡して、離れるシルビア。
「ありがとう。」
「いえいえ~。」
何時もの笑顔だ。
「そう言えばシルビアは何を買ったの?」
「これですぅ~。」
ごそごそと胸元の合わせ開けていき、胸から何かを取り出す。
あー、谷間が・・・何というか落ちたら二度と這い上がってこられないカンジ。滑落死?
「指輪?」
革紐に通された指輪を見せ付けられる。
「そんなのでいいの?」
渡された皮袋のお釣りからして、もっと良い物も買えたはずだ。
「充分ですぅ~。」
「遠慮しなくていいのに・・・無駄遣いとか怒られないよ?」
無駄遣いだとオレが怒られる事はあったとしてもな。
「してませんよ~、これが欲しかったんです~。」
宝石も何もついていない指輪は、多分、銀製。
刻印とかもなく、彫銀の跡もない、非常に単純な銀の輪。
どれだけ欲ないんだろ・・・沢山あっても困るけどさ。
「はぁ・・・ダメだよ、シルビィ。」
「?」
オレは彼女の指輪の革紐を解いて、指輪を見る。
やっぱり、何の変哲もない普通の銀の輪だ。
「指輪はちゃんと指にしなきゃ。ね?」
手にした指輪を彼女の薬指に通してやった。
さっき、ぴんっと天井に向いていた薬指だ。
白くて綺麗な指、そこに銀の輪がはまる。
「あ・・・。」
「どうしたのシルビィ?」
彼女の指が微かに震えている。
「いえ、何でも・・・。」
じっと指輪を見詰めるシルビアは、何故だかとても小さく見える
「シルビィ、大丈夫だよ。」
自分でもよく意味もわからず呟いた。
昨日、誰かにも言われたな。
「ちゃんと、シルビィの居場所もあるよ。」
ずっと思っていた。
レイアもホリンもミリィも・・・本当は居場所がなかったんじゃないかって・・・。
話してみてから、何となくだけど思った。
じゃなきゃ、こんな貧乏くじを握り締めてオレの所には来なかったんじゃないかって。
「だから、大丈夫。」
遠慮しなくても、対抗しなくても、お姉さんにならなくても。
「シルビィはシルビィ。だろ?」
ホリンにもレイアにも言った。
結局、どんなになっても自分は一人で一つの存在だ。
小さい時分まではオレもそうだった。
オレは"一人になっても、一つの存在"にはもうなれないけれど。
それは魂の本質の問題だから、専門外として。
言葉を聞いていたシルビアは、そのままくるりとオレに背を向けてしまった。
「シルビィ?」
機嫌を損ねたかな?
「やっぱり、アルム様は凄いと思いますよ~。では~報告は以上という事で~。」
背を向けたまま彼女はそう言うと、オレの部屋から出て行った。