憂いと愛と重さ。(ミランダ視点)
長さがバラバラなのは、ご勘弁。
彼が私の頬にくちづけをして去ってから、私は数秒間固まっていた。
彼の・・・その、あ、愛情表現というのは、とても嬉しい。
・・・すっごく嬉しい。
たった一人の弟。
その弟が姉として扱ってくれるのは、既に家族がいない私にとっては嬉しい。
でも、彼はもうこの国の第二皇子で、私はその侍女なのだ。
「アル・・・。」
それでも私は、彼が私を二人きりの時だけ呼んでくれる親称。
子供からの親称で、私も彼を呼びたいという衝動に駆られる。
彼が、相変わらず"ミラ"と二人の時は呼んでくれるという事実。
それだけでも幸せだと考えなければいけないハズなのに。
「嫌なオンナ・・・。」
それでも、昔と身分が違ってしまったとしても、子供の頃の時のように傍にいたい。
何も報われなくても、弟を。
大切なアルを愛したい。
小さな頃、私は本当に弟として彼が好きだった。
彼もきっと、姉として私を好いてくれていたに違いない・・・と、思う。
四六時中、私の傍を離れない彼を見て、乳母だった母が、
『これじゃあ、どちらが乳母かわからないわね。』
そう笑っていたくらいだったから。
仲の良い姉弟と誰もが私達を見て思ってくれていた。
でも、その彼が病に倒れ、それが死に至る可能性があると知った時、
私は無理矢理に気づかされた。
身を引き裂かれるような想いと共に。
私が彼をどれだけ【愛して】いるか。
「アル・・・。」
声に出して呟いてみる。
鼓動が高鳴る。
彼は今、ここにいないというのに・・・。
「あぁ・・・アル・・・。」
私は自分の身体を抱きしめた。
今の彼は、この国の第二皇子だ。
でも、私は知っている。
彼が、本当はこの国では望まれる方が少ない存在だと言う事を。
でなければ、彼付きの侍女が私だけなんて事は有り得ない。
「アル・・・私の皇子・・・。」
妄想だとわかっていても、口に出すだけで身体が震えた。
心だけでなく身体も、自分は皇子のモノになってしまっていて、
彼以外は受け付けないだろうという自覚。
それだけが、脳裏に焼き付く。
「・・・アル・・・愛してる・・・。」
彼が先程まで横たわっていたベットに手を伸ばす。
少し、温かい・・・。
これが彼の熱だ・・・彼の温もりなんだ。
どんどん、自分の身体と頭がふわふわしてくる。
全てが彼に支配されていくような錯覚。
そう・・・この温かいと思える距離に・・・私はいたい。