熱殺と牽制と林檎。
しかしだ。
何時、何処で見られたり、聞かれたりしているのかわからないのは、精神的に滅入る。
朝食を終えて、ぷらんぷらんしながら自室に戻る今でも、独り言すら出来ないこの現状。
自室や食堂は、基本的には大丈夫みたいだったが・・・。
「困ったもんだ。」
「何をお困りで?」
後ろから声をかけられ振り返る。
殺気は感じなかったから、案外あっさり放置していたんだが。
「確か、カーライルだったな、副官の。」
「お覚え頂き光栄です。」
ぴっちりと髪を後ろに回し束ねた男。
相変わらず、きちっとしてやがるな。
「このような所に何をしに・・・。」
オレは一瞬、監視かと思ったが、カーライルの後ろには数人の男達がいた。
もし、コイツが味方なら、単独で動くにも監視がついている可能性もある。
「何しにも何も、特に町の機能がない城に来ておるのだから、私に用だな。」
少しでも情報を引き出したいのが本音。
しかし、敵か味方かわからない人間と話すのは、ダルい。
何がダルいって、この偉そうな言葉遣いがダルい。
「お察しの通りです。」
涼しい顔しやがって。
「先日の宴の件で参りました。」
あ、あぁ、そんなのあったな。
「ふむ。その件だが、私は宴は好まん。その様な心遣いは無用と伝えてくれ。」
嘘はついてないしな、顔にも出ないだろう。
我慢して、情報収集に勤しんだり、敵意を削ぐ為には必要だってのは、重々承知している。
でもなぁ。
「自分と致しましては、太守様の意向通りにして頂きたく存じます。」
何かさ、コイツ、本当、人を試してんのか何なのか知らんが、無礼ギリギリなんだよな。
ここで、オレが太守の言いなりになるのか否かって事だろう?
面倒だな。
「太守の面子も大事なのはわかっておる。が、君の上司であろう?長年の付き合いで何とかしたまえ。」
嫌味をたっぷり乗せてみた。ってただのイジメだよな、コレ。
「そう言えば、来る途中の馬車内で、城下外縁の町を見たのだが・・・。」
ピクっと動いた。ような気がする。
後ろの男達も。
「財政でも逼迫しておるのか?ならば宴の費用など勿体ないと思わんか?」
ちょっぴり喰いついたかな?
心無しか、後ろの男達が睨んでいる気がする。
「民の税は、国や皇族によってのみ消費されるにあたわず、正しく民に還元するも大事。であろう?」
貴族なんぞ(一部を除き)滅んでしまえ。
「仰せの通りで御座います。」
う~ん、表情に出ないなぁ、相手にしててつまらないぞ、カーライル君。
「ならば、どうにか出来るであろう?優秀な副官のようだからな。」
優秀だからといって、使いこなせるかは別の話だが。
寧ろ、優秀過ぎると逆に大変なんだよな。
「自分が優秀ですか?」
訝しげに聞き返すカーライル。
一度しか会ってないし、何かわかるのだと言いたげ。
「優秀だからこうして動いているのだろう?そうだな、君は痩せ過ぎだ。少し太るといいぞ。幸いここの料理は美味いしな。」
痩せてるから眼光が鋭く見えて恐いんだよ。
「はぁ。」
少し呆れたらしい。
「特に果物類が非常に美味で驚いた。」
「そうでしょう。ここの特産は農作物ですから、特に林檎は。」
切り替えが意外と早いですなぁ。
そか、農作物が特産か。
はい、金糸・銀糸が特産品説消えたー。
「ほぅ、森も近いしな。確かに林檎は美味だった。」
「森には人は入りませんので、森で獲れた物ではありませんが、かく言う自分も林檎は好物でして。」
ふ~ん、そうだね、森にはエルフがいるからね。
君は、オレがホリンを従えてたの見ているし、人は入らないよねぇ、普通なら。
しかし、意外と小市民的な感覚だな、彼は。
「ほぅ、何かいい食べ方とか知っているか?試してみたい。」
「参考になるとは思えませんが、自分は素材状態のまま下から齧って食します。」
齧る方向が決まってるのかよ、変な食べ方。
いや、待てよ。
この地の特産なんだから、意外とそういう食べ方が通で良いのかも知れない。
「試してみよう。ふむ、林檎ならば君も持ち歩いて食べれば身体に良いかも知れぬな。これから色々と忙しくなるだろう?」
と、含みをたっぷりと含ませてみたりして。
「こうして、私の所に来たりと、私絡みの厄介事は増えるばかりであろうからな。」
「皇子のお心遣い感謝致します。」
略式の礼をとすぐさま取るカーライル、本当に切り替え早いなぁ、コイツ。
「皇子もこちらにいらっしゃってから、色々と大変でしょう。御自愛下さいませ。」
何が色々とかは言ってくれないよなぁ。
ムカつくなぁ、コイツ。
「慣れぬ環境だからな。空気も入れ替えたりせねばならん。」
何処のとは言わないでみた。
「それが良いでしょう。長年の澱んだ空気は耐え難いモノですから。」
カーライルも何処のとは言わない。
オレ、何というかこういう婉曲的?な言い方って大嫌いなうえに、ほら、例の偉い人言葉だから、疲労の蓄積が。
「それでは、自分はこれで。長々と引き止めてしまい申し訳ありませんでした。」
「構わん。」
会話を切ってさっさかと去っていく。
う~ん・・・味方っぽい度合いは高まった気もしなくはないが。
すると、後ろの二人は監視という事になるんだよなぁ。
一言も声を出さないのが余計気になるし。
段々と、自分でやらないで、全部を兄上に丸投げすれば良かったな。
なんて、ちょっぴり後悔。
仕方ない。
自分の管轄と思い込むとしよう。
じゃないとやってられん。
「その前に少し身体を動かすか・・・。」
昨日のようにディーンの剣を振りたくなった。