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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅱ章:黒の皇子は立ち上がる。
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熱殺と牽制と林檎。

 しかしだ。

何時、何処で見られたり、聞かれたりしているのかわからないのは、精神的に滅入る。

朝食を終えて、ぷらんぷらんしながら自室に戻る今でも、独り言すら出来ないこの現状。

自室や食堂は、基本的には大丈夫みたいだったが・・・。

「困ったもんだ。」

「何をお困りで?」

 後ろから声をかけられ振り返る。

殺気は感じなかったから、案外あっさり放置していたんだが。

「確か、カーライルだったな、副官の。」

「お覚え頂き光栄です。」

 ぴっちりと髪を後ろに回し束ねた男。

相変わらず、きちっとしてやがるな。

「このような所に何をしに・・・。」

 オレは一瞬、監視かと思ったが、カーライルの後ろには数人の男達がいた。

もし、コイツが味方なら、単独で動くにも監視がついている可能性もある。

「何しにも何も、特に町の機能がない城に来ておるのだから、私に用だな。」

 少しでも情報を引き出したいのが本音。

しかし、敵か味方かわからない人間と話すのは、ダルい。

何がダルいって、この偉そうな言葉遣いがダルい。

「お察しの通りです。」

 涼しい顔しやがって。

「先日の宴の件で参りました。」

 あ、あぁ、そんなのあったな。

「ふむ。その件だが、私は宴は好まん。その様な心遣いは無用と伝えてくれ。」

 嘘はついてないしな、顔にも出ないだろう。

我慢して、情報収集に勤しんだり、敵意を削ぐ為には必要だってのは、重々承知している。

でもなぁ。

「自分と致しましては、太守様の意向通りにして頂きたく存じます。」

 何かさ、コイツ、本当、人を試してんのか何なのか知らんが、無礼ギリギリなんだよな。

ここで、オレが太守の言いなりになるのか否かって事だろう?

面倒だな。

「太守の面子も大事なのはわかっておる。が、君の上司であろう?長年の付き合いで何とかしたまえ。」

 嫌味をたっぷり乗せてみた。ってただのイジメだよな、コレ。

「そう言えば、来る途中の馬車内で、城下外縁の町を見たのだが・・・。」

 ピクっと動いた。ような気がする。

後ろの男達も。

「財政でも逼迫しておるのか?ならば宴の費用など勿体ないと思わんか?」

 ちょっぴり喰いついたかな?

心無しか、後ろの男達が睨んでいる気がする。

「民の税は、国や皇族によってのみ消費されるにあたわず、正しく民に還元するも大事。であろう?」

 貴族なんぞ(一部を除き)滅んでしまえ。

「仰せの通りで御座います。」

 う~ん、表情に出ないなぁ、相手にしててつまらないぞ、カーライル君。

「ならば、どうにか出来るであろう?優秀な副官のようだからな。」

 優秀だからといって、使いこなせるかは別の話だが。

寧ろ、優秀過ぎると逆に大変なんだよな。

「自分が優秀ですか?」

 訝しげに聞き返すカーライル。

一度しか会ってないし、何かわかるのだと言いたげ。

「優秀だからこうして動いているのだろう?そうだな、君は痩せ過ぎだ。少し太るといいぞ。幸いここの料理は美味いしな。」

 痩せてるから眼光が鋭く見えて恐いんだよ。

「はぁ。」

 少し呆れたらしい。

「特に果物類が非常に美味で驚いた。」

「そうでしょう。ここの特産は農作物ですから、特に林檎は。」

 切り替えが意外と早いですなぁ。

そか、農作物が特産か。

はい、金糸・銀糸が特産品説消えたー。

「ほぅ、森も近いしな。確かに林檎は美味だった。」

「森には人は入りませんので、森で獲れた物ではありませんが、かく言う自分も林檎は好物でして。」

 ふ~ん、そうだね、森にはエルフがいるからね。

君は、オレがホリンを従えてたの見ているし、人は入らないよねぇ、普通なら。

しかし、意外と小市民的な感覚だな、彼は。

「ほぅ、何かいい食べ方とか知っているか?試してみたい。」

「参考になるとは思えませんが、自分は素材状態のまま下から齧って食します。」

 齧る方向が決まってるのかよ、変な食べ方。

いや、待てよ。

この地の特産なんだから、意外とそういう食べ方が通で良いのかも知れない。

「試してみよう。ふむ、林檎ならば君も持ち歩いて食べれば身体に良いかも知れぬな。これから色々と忙しくなるだろう?」

 と、含みをたっぷりと含ませてみたりして。

「こうして、私の所に来たりと、私絡みの厄介事は増えるばかりであろうからな。」

「皇子のお心遣い感謝致します。」

 略式の礼をとすぐさま取るカーライル、本当に切り替え早いなぁ、コイツ。

「皇子もこちらにいらっしゃってから、色々と大変でしょう。御自愛下さいませ。」

 何が色々とかは言ってくれないよなぁ。

ムカつくなぁ、コイツ。

「慣れぬ環境だからな。空気も入れ替えたりせねばならん。」

 何処のとは言わないでみた。

「それが良いでしょう。長年の澱んだ空気は耐え難いモノですから。」

 カーライルも何処のとは言わない。

オレ、何というかこういう婉曲的?な言い方って大嫌いなうえに、ほら、例の偉い人言葉だから、疲労の蓄積が。

「それでは、自分はこれで。長々と引き止めてしまい申し訳ありませんでした。」

「構わん。」

 会話を切ってさっさかと去っていく。

う~ん・・・味方っぽい度合いは高まった気もしなくはないが。

すると、後ろの二人は監視という事になるんだよなぁ。

一言も声を出さないのが余計気になるし。

段々と、自分でやらないで、全部を兄上に丸投げすれば良かったな。

なんて、ちょっぴり後悔。

仕方ない。

自分の管轄と思い込むとしよう。

じゃないとやってられん。

「その前に少し身体を動かすか・・・。」

 昨日のようにディーンの剣を振りたくなった。

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