抜目と食事とご褒美。
ズバリ、視線が痛イ。
そして、沈黙が痛イ。
既に壊れたミランダの様子と上機嫌なレイアの様子から、何かが起きたのだろうと空気が明確に表している。
空気はそのままその場にいる他者に向かっていくワケで。
「何で皆、こんなに静かなのか・・・かな?」
朝食を食べ終わって、食堂で休んでいる今でさえ誰一人発言しない。
普段は・・・前の城にいた時は、常に一人で、周りにはミランダしか居なかった。
こんな静かな食事は、当たり前ですらあったんだが・・・今は寂しいと感じる。
「弱ったなァ・・・。」
精神的にも少し脆くなったみたいだ。
「大丈夫ですよ、アルム様、私はちゃんとお傍にいますから。」
オレの呟きに、"オレだけの騎士"になったレイアがすぐさま反応する。
昨日の夜から、彼女はことあるごとにオレに"大丈夫"と言ってくる。
自分の弱さに嘆いたつもりだったが、レイアにはちょっとズレた風に取られたらしい。
それにしてもレイアの積極さは、意外だった。
ちなみに今も、さり気なくオレの肩に手を触れてから、離れて行った。
積極的というより、情熱的?
「わ、私もしっかりとお仕えいたしますっ!」
慌ててミランダが追従する。
この展開、朝から一体何度目だろう・・・。
「ん?」
ホリンが何でか、にっこりと微笑んでいる。
何が楽しいんだ?
「ホリン?どうかした?」
「今日は私の番だなーって。」
楽しげに述べたホリンの一言に、ミランダとレイアがピクリとする。
何だ?
「まぁ、そうだけど、それがそうかしたか?」
「もー、アルム様ったらー。だって"あのレイアさん"が一晩でこーなんだよ?」
朝からにこにこしていたレイアをホリンがびしっと指差す。
失礼だぞ、ホリン。
"あの"が何をさしているのかは、何となくは理解できるが。
「私、今日、一晩でどれだけ価値観変わっちゃうんだろーなって。」
きゃっと、その場で赤らめた顔を手で押さえる。
「にゃっ?!」
奇声と共に肩が震えてるミランダが見える。
「きっと明日の朝日が、これまでと違うモノに見えたりするよね!ね!」
力説されても・・・。
「確かに、価値観というか、朝日が違ったモノに見えた気はします。」
レイアが真面目にホリンに答えを返す。
真面目なのは、美点だよ、美点なんだが・・・。
「やっぱり!そうなんだ!」
「何と言いますか、生まれ変わった気分、ですか。」
「うっわーっ!うっわーっ!」
絶叫してはしゃぐホリンに、したり顔をして赤面しまくるレイア。
つか、オレは無視かい。
オレも当事者なんだが。
「やっぱり、"経験者"の言葉は違うね!」
「け、経験者・・・。」
「あの、ミラ?ホリンは何か勘違いしているだけでね・・・。」
小刻みにガタガタ震えだしたミランダを何とか宥めようと思った。
「えぇ、"一生に一度"の事ですから。」
「一生に・・・一度・・・。」
ヲイ。
レイア、何だよ、それは。
突っ込みを入れようとしたオレだったんだが、マテよ?
・・・。
・・・・・・確かに一生に一度だけだわ、"騎士の誓い"は。
基本、主の生涯に渡ってずっと仕えるものだからな。
って、勘違いじゃないか!しかも、ミランダとホリンの両者共!
場合によっては、レイアも。
いや、ミランダとホリンの考えてるのは、共通であって・・・。
あー、もー、余計にこんがらがるな、もう!
「ホリン、いい加減にしろ!レイアもいちいち真面目に返さなくていい!」
何だか、ノリが軽いんだよな、真剣さというか、緊張感に欠けるというか。
「あ、そうだ。レイア、シルビィ、ちょっと頼まれてくれないか?」
ミランダは使い物にならないから除外。
最近、自覚があるんだが、自分は変な点で完璧主義かも知れない。
面倒ごとが嫌いで、不真面目なクセに。
「何也と。」「何でしょう~。」
やる気満点とのほほんとした二つの返事。
「お金を渡すから、レイアとホリン用に宝飾品を一つずつ買って来て。
「えっ!」「どういう意味ですか?」
「どうもこうも、設定は忠実に。」
そういう設定だったろ?
馬鹿皇子に貢がせた宝飾品とか、つけてても不思議じゃないだろ?
「二人共、解り易い所に着けておけよ?馬鹿皇子の貢ぎ物なんだから。」
しっかりと前面に出さないとな。
「その代わり、決着ついたらあげるから。」
「いいの?!」
真っ先に食いつくホリン。
「別にオレは宝飾品には興味ないし。」
だって、腹の足しにもならいし、どうにも実用性が低い物には興味が湧かない。
綺麗だとは思うけれど。
「迷惑料かな。」
「あはは、気にしないでいーのに。」
「私は生涯を誓った身ですし・・・。」
二人共遠慮はしているが、嬉しそうだ。
「あらあら、羨ましいですねぇ~。」
シルビアは二人の様子にクスクス笑っている。
「あー、多めに渡すから、シルビィ、ミラ、ミリィの分も買っておいで。ただ優先は二人の分な。」
不公平は良くない。
皆、貧乏くじの中、オレについて来てくれたんだから。
「呼びました?」
給仕をしていたミリィが、ぽよんぽよんと・・・いや・・・すまん、とてとてとこっちに歩いて来る。
「皆にご褒美の話だよ。直接は行かせてあげられないけれど、皆、相談して決めるといい。」
「え?えぇっ!?い、いいんですか?!」
「大袈裟な。あ、クリス用には、何か違うものを宜しく。料理人は髪も短いし、宝飾品は無用って人多いから。」
「承りましたぁ~。」
「了解しました。」
「あ、男共には酒でも・・・。」
酒と言えば・・・。
「・・・酒をバルドの部屋から失敬して振舞え。適度に。」
使えるモノは有効に使わないとな。
うん、バルドの教えだ。
忠実に師の教えを守るオレ、何て素晴らしい教え子なんだ、うんうん。
「本当は、オレが直接行って、皆の分を選んで渡したいんだが・・・仕方ないか。」
何たって現在の主役、渦中の人の一人だからな。
当然、監視されているの前提だ。
やれやれ、溜め息が出るぜ。