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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅱ章:黒の皇子は立ち上がる。
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名乗りと乾坤と誓い。

 頭が真っ白になる。

まさか、こんな事になるとは思わなかった。

今迄、ただの一度もディーンの剣を誰にも握らせた事なんてなかったから。

「本当にごめん・・・。」

 自分の手が微かに震えているのがわかった。

不注意とはいえ、信頼する部下を傷つけたんだ・・・オレは。

「アルム様は心配し過ぎですよ。」

 再びレイアはオレの手の甲にくちづけする。

そんなに心配し過ぎだろうか?

心配する相手なんて出来た事なかったしな。

「そうかな?レイア達は今やオレの大切な人達だから、これが普通だと思っているんだけれど。」

「過保護ですね。」

 手を握ったまま。

「今迄、ミランダ以外に誰も居なかったからね・・・。」

 生まれた瞬間から兄上と母上とその乳母(ミランダの母)以外の誰も喜ばなかった。

弟が出来た事を素直に喜んだ兄上。

実際に腹を痛めた母上。

それ以外に喜んだ人間は皆、"皇位を継ぐ予備"が出来たという者達。

その他大勢は、ロクな事にならないと思う者や姫だったらもっと有効に使えたのにと思う者。

それを感じながら過ごしていたのも、オレがディーンの剣と出会う迄の話だ。

結局、残ったのはミランダだけ。

彼女だけだった。

「そうですか・・・。」

「うん。やっぱり何処かで味方が欲しかったのかも・・・。」

 そのミランダにですら話せていない事がある。

オレはなんて卑怯者なんだろう。

改めて実感する。

「まぁ、好き好んで味方になろうとする人間なんて皆無なのは理解しているんだけれど。」

 彼女を寝台の端に座らせ、放り出したままだった剣を取る。

くるりと回して剣は鞘の中に。

「それは?」

「ん?あぁ、そういえばコレに触れたのはオレ以外でレイアが初めてだな。ミランダすら触らせた事ないし。」

 ただレイアには悪いが判った事がある。

やはりディーンの剣は"持つ人間を選んでいる"。

伝説の神器の特性、それは未だに失われてはいないという事。

「初めて・・・しかし、私には触れただけであのようになったのに・・・。」

 レイアは思案顔をしている。

ディーンの剣のようなモノは、世界にそう何個もあるわけじゃない。

オレはいっその事、コレが何なのかを言ってしまいたい衝動に駆られる。

今なら。

何処かで、心の何処かでそう思っている自分。

けれども神器が・・・オレにとってはその"枷"が何時誰かを危険な目に合わせるかわからない。

「アルム様?」

 考え込んでいたオレの顔を心配そうに、だけど真剣に覗き込むレイア。

「あ、ごめん、何?」

「また謝るのですか?」

 レイアはクスクスと笑っている。

何か、彼女のこんな笑顔を見たの初めてじゃないか?

「仕方ない御仁ですね。」

 ひとしきり笑った後、彼女は自分の剣の柄をオレに向けて差し出す。

「レイア?」

「はい、コレ、持って下さい。」

 有無を言わさず、自分の剣をオレに握らせて・・・。

「今宵より、何時、如何なる時も我が君より離れず、我が魂すらも我が君へ還すを誓う。」

 オレは跪く彼女に戸惑った。

彼女が言おうとしている言葉の内容が、どういう重みを持っているか知っているから。

「例え、如何なる者の敵となろうとも、我が心に一切の揺らぎ無し。」

 口上が終る。

誓いの口上。

主を得て、尽くすという臣下・騎士の誓い。

オレは・・・何と返せばいいのだろう・・・。

誓いを立てられた者は、それに答えなければならない。

基本的な口上の返答はオレも知っている・・・が、とても口には出来ない。

だってそれは本当に彼女を縛って、オレと共に業を背負わせる事になる。

先程とは違った・・・いや、同種の震えが走る。

あぁ・・・これは"恐怖"なのかも知れない。

だから。

だからオレは・・・。

「如何なる時も、己の信念と正義のみに従え。己が心と魂の声によってのみが、常に汝を汝たらしめん。」

 基本的な口上と全く違う言葉を紡ぐオレを見上げるレイア。

ごめんな・・・。

オレは確かに味方が欲しいと言った。

でも、オレは決して正義でも善でもない。

何時の間にか彼女が敵に回ってもいいと、不思議に思えるようになっているオレがいる。

彼女は何処までも誠実だから。

きっとオレが間違えた行動を取った時、止める事だろう・・・どんな手段を使ってでも。

想いを込めた口上を返し、彼女の剣を抜いて彼女の肩にあてた。

誓いはこれでお終い。

剣を納め、彼女を立たせる。

「いいの?」

 思わず口をついた問い。

「結局、私をきちんと評価して下さったのは、アルム様だけです。ならば私の居場所はここだという事なのでしょう。」

 そう言うと彼女はまた笑った。

「そうか・・・でもさ、先に死ぬのも一緒に死ぬのもダメだよ。」

 剣を渡すと彼女を抱きしめる。

オレは騎士を人間として扱いたい。

魂までオレに仕える事になってもだ。

「それが我が主の望みというならば。」

 レイアがオレを抱き返す。

「ありがとう。」

 オレ達は互いに抱きしめあったまま、寝台に倒れ込んだ。

ようやく皇子はミランダ以外の味方を得ました。しかし、皇子にとっての味方というのは、言葉通りの意味とは違うようです。何だ?この鈍感でツンデレなカンジは・・・。

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