鍔迫り合いと面会と戦端。【中】
ごめんなさい、説明部分・新キャラが多かったので、3つ分けです。
許してください(トオイメ)
「失礼致します。」
扉から入ってくる二人の男。
先頭は、金の髪を後ろにねめつけた男だ。
にんまりとした表情に太った体。
身なりは一見落ち着いた感じに見えるが、随所に金糸・銀糸の縁取りがなされている。
さり気なく服に金を使っています。とさり気なさ皆無に主張している。
その後ろにいる男は、灰黒色の髪を同じく後ろにまわしてまとめてはいるが、穏やかな表情をしている。
ただ痩せ細っているせいか、眼光が鋭く感じられるのが残念。
う~ん・・・どちらも悪人に見えると言えば見えるし、見えないと言えば見えない。
可能性を考えると、未だに確証が無く山賊説も捨て切れない。
でも・・・口封じの様に殺されていった双剣使いを思い出すと・・・なぁ。
決め打ちは良くないんだが、例えば山賊の場合は治安維持の兵は出す事になるが、オレには被害はない。
皇族派・反皇族派だったら、完璧超人かつ弟大好きの兄上が手を打つ。
というか、オレがここでこれ以上目立たなければいいので、これも現状は大した問題はない。
やっぱり備えるという意味では、直接に牙の届くコイツ等・・・。
入って来た二人の男。
太ったは方はホリンを見て目を見開き、そして眉をしかめる。
あ、もう、コイツ嫌い。
大嫌い。
「これはアルム皇子様におかれては、ご機嫌麗しゅう。」
ご機嫌ナナメだ。
全部オマエのせいで。
「苦しゅうない、硬くならんで良い。」
「ははっ、申し遅れました。私、この州府の太守をしています、スクラトニーと申します。これは副太守の・・・。」
「カーライルと申します。」
一言だけ喋ったカーライルは、意外と前に出てこないな。
「うむ。」
とりあえずは、馬鹿皇子風に横柄に相槌を打ってやる。
「して、アルム様・・・今後の直轄領の処遇は・・・?」
スクラトニーは汗だくだ。
必死に汗を拭っている様は面白いが・・・。
というか、堪え性のないヤツだな。
もう本題に入るのか?
そんなに叩かれたり、突っ込まれたら困っちゃったりするのかな?
「現状は特に変わりない。貴君に任せよう。」
ん?
心無しかカーライルが、こっちを睨んでる様な・・・。
不満か?
スクラトニーは安堵して、汗を拭き拭きしているが?
「誠心誠意務めさせて頂きます。」
拝礼をするスクラトニー。
ちょぴり気になる。
そんなカーライルに再び目を合わせてみた。
う~ん・・・真っ直ぐオレを見たまま目線を逸らさない。
いい度胸じゃねぇの。
オレは彼を見詰めたままゆっくりと頷いた。
意味は、敵なら額面通りに受け取れ、味方なら期待しろ。
正直、今のオレじゃ敵味方は判別出来ないからな。
こうやって明言せずに頷いておけば、カーライルの心の中の希望をそのまま投影して受け取る。
人間て言葉を濁しながら肯定的な雰囲気を出しておくと、良い方に受けとる傾向があるんだよな。
心理学の初歩だ。
あ、でも、コイツ賢そうだからなぁ・・・ちと、不安。
まぁ、こうしておけば何らかの行動をしてくれる可能性が高まる。
「疲れた、少し休ませい。貴君も忙しいだろう、業務に戻りたまえ。私に気を遣う事はない。」
「は?おぉっ、これは気がつきませんで。では、歓迎の宴はまた後日という事で。な?な?カーライル。」
「そうですね、閣下。何分、アルム皇子は道中"色々とあって"お疲れでしょうから。」
色々あって?
あぁ、色々あったぞ。
よく知っているな。
「ふむ、そうだな。アルム皇子様に何があっては大変だ。私達は退出しよう。本当に気が回らん者でしてな。」
「大事ない。」
何かあって欲しいんじゃないかと勘ぐってもいいか?
「では。アルム皇子、"重ね重ね"失礼致しました。」
カーライルの言葉の後、二人はそのままそそくさと部屋を出て行く。
「重ね重ね・・・ね。何をかな?」
二人を見送った後、思わず口から出る。
「おっと・・・。」
一番大切な事を忘れてる所だった。
オレは部屋の端に控えていたメイド達の方へ歩み寄る。
正直、スクラトニーはやっぱり好きになれんタイプだ。
理由は単純。
オレはホリンの前に立ち、彼女を抱き締めた。
「気にすんなよ、ホリン?オレには君が必要だからな。」
アイツのホリンを見る目が許せない。
嫌いになる理由はそれで充分だ。
我が儘か?
コレは皇子の我が儘か?
「あ、アルム様!?いや、その、大丈夫ですよ。あんなの慣れてますから。」
「慣れなくていい!そんなの慣れる必要なんてないんだ。慣れてしまう方がおかしいんだ、間違ってる。だから慣れなくていい。」
「・・・アルム様。」
何がいけない?
人間社会にいる事か?
存在すら罰なのか?
だってそうだろ?
彼女はスクラトニーの横に立っていただけなんだから。
「よし!今後の予定を決めるぞ!」
何か、オレ、俄然あの太守サマをぎゃふんと言わせたくなってきた。
勿論、敵味方関係なく。
最早、オレの中では敵だが。
オレはホリンの肩を抱いたまま、皆の前に向き直った。