鍔迫り合いと面会と戦端。【前】
今回は、ちょっぴり長いので分けてみました。
ご了承を。
居城とか向こうの城とか言っていたが、正確には城というより砦だ。
元々、都市を切り開く目的と交通の要所として作られたモノで、その外見は無骨。
そして居住性はそんなに良くない。
政務を行う行政も、もっと城下町に近い場所に建物を新造した。
防衛という面もあるせいか町より少し外れて、どちらかと言うとエルフの住む森の方が近いくらいだ。
ただそういった目的もあるので、その位置どりは湖などを挟んだりと・・・まぁ、軍事的に堅牢。
ずっと昔からこの砦は存在していたらしく、皇族も一時期ここで政治を行っていた事もある。
そんな理由から、この地は天領。
所謂、皇族の所有する直轄地となっている。
ここでの収入が皇族の資金になるワケだ。
そして、直接この地の采配を振るえない王に代わり、太守を任命して治めさせている。
州名は【リッヒニドス】
治めさせていると言っても、この地は森林からの資源(森の大半はエルフの集落が治めている)。
天領が所有する田畑の管理。
そして、住民からの税金の管理が主な仕事で、あとはそれに関わる治水・開墾等の付託事業がほとんどだ。
長々と説明したが、つまりは"田舎"というコト。
ちなみに砦の名前は【緑碧城】
森と湖に囲まれて建造されているからね。
安直とか言うな・・・そういう先祖を持ったオレがヘコむ。
城は四方を掘と物見を兼ねた尖塔に囲まれていて、無駄に頑丈、無駄に無骨。
ただ、流石に皇族専用という名目があるせいか内装はきちんとしている。
後年、使い勝手と居住性の向上に心血が注がれていた跡が多々見受けられた。
「さてと。部屋割りだけれど、まずはオレの部屋を決めてそこに荷物を全部運び込もう。」
無駄に部屋数も多いし。
「使わない部屋は基本的に放置の方向性。この少人数で全機能を取り戻そうとか思わない。」
別に豪遊しに来たわけでもないし。
城の中には、数人の管理人のような人間がいて、一応それなりの体裁は既に整っていた。
寝る場所も何も問題なさそうだし、手分けしてやればすぐに落ち着いた時間が過ごせるだろう。
オレ用の部屋はもといた城の部屋より小さかったが、前がどちらかと言えば広過ぎたんだと思う。
質素倹約・・・というか、贅沢な暮らしというものがイマイチ想像出来ないオレとしては充分。
だって、いくら良い政治をしたって税金だよ?
金を回すのと無駄遣いは違うよな?
不満があるとしたら、寝台のデカさだった。
4人くらいは同時に寝られるんじゃないのか?ってくらい。
デカい寝台ってのは、わかってもらえないと思うが寒いんだよ!
寝台に入った時の布の冷たさはゲンナリする。
何処ぞの国では、寝所だけを温める係の者がいるとかいないとか・・・それはどうかと思うが。
管理人達に手伝ってもらって、荷物をえっちらおっちら運び込む。
勿論、オレも手伝ったぞ。
管理人達は驚いていたがな。
手伝っている間にも周囲の人間との会話や観察は怠らないようにした。
どうやら、皆、皇都から来たのではなく全員地元出身だそうだ。
しかも、よくよく聞いてみるとこの町の治安はそれ程良くないというような雰囲気の言動。
税も高いし、労役も多いらしい。
はっきりとは言ってはくれなかったが。
そりゃ、まぁ、このままここでオレが政治したら、上奏しているようなもんだしな。
批判して罰せられたら、たまったもんじゃない。
生計の成り立たない人間は、命を賭けてエルフの森に入ったりするらしい。
・・・何か、予想通りのキナ臭さにがっかりだ。
第一、税率は高くする必要はこの都市にはないし、働きたいヤツは天領の田畑で・・・。
あー、もう、そういうのを考えるのすら嫌なのに。
「しかし、だ。太守とやらは挨拶に来ないのかな。こういう展開は真っ先に飛んで来ると思ったんだが。」
ご機嫌伺いくらいは来るだろう?
「いや、逆に無視を決め込むのもアリか・・・。」
舐められたら終わりってヤツな。
こういう面子とかがあるから、外交って無駄に時間がかかったり、こんがらがったりするんだよな。
辟易としている間にも仕事は進み、オレは料理人達を厨房に行かせた。
とりあえずは腹ごしらえかな、と。
現状のおさらいもしないとな。
もし、役人が好き放題しているなら、皇族が来ると困る。
これは確定だ。
だってここは天領。
オレがここに隠居するってコトは下手したら、委譲していたこの領地をオレが治めるって事になりかねないからな。
そんなつもりは皆無なんだが。
問題は、もしそうだとしたら一体何処迄がってことなんだよ。
まさか役人全部が不正とかに関わってるってコトはないだろう?
知らない奴とか、不満ながらも渋々従わざるを得ないとか・・・。
そういう様々な理由と流れがあるワケで。
その見極めとかいうのって・・・すげぇ面倒。
かと言って、全部血祭りに上げるとかいう暴君っぷりは論外。
「ぐぅわぁぁ~あ~あっと。」
思わず奇声を上げてしまったじゃないか。
ぶっちゃけた話。
こういう余計な状況を構築している輩を誰か何とかして欲しい。
オレは関わりたくない。
やりたい事をやりたいように画策しようとしただけなのに。
まぁ、人を治める人間として優秀なのを採用しておきたいが。
「アルム様、お客様です。州府の太守様がいらっしゃいました。」
来た・・・。
現状、最有力候補。
オレ、まだ食事してないってのに・・・。




