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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
最終章:黒の皇子は三度生まれる。
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止まるな、振り向くな、突き進め!

「まー、一気にブチ抜くしかないわな、時間の無い事やし。」

 アシュリーヌさん達が住んでいた遺跡のような宮殿。

同じような建造物が目の前にある。

入口には、見張りらしい見張りはいないが・・・。

「時間が無いのが圧倒的に不利だな。」

 正直、二人だけで突入というのも、どうかと思う。

普通なら、こちら側には神器があって、余裕があるところなんだが、今回は相手も神器を持っている。

「本音としたら、俺様が単独で突っ込むべきなんだが、アルムを残して行くっつー選択肢は無いしな。それにアルム自身、行きたいやろ?」

 決着をつけに。

ハディラムはそう言って笑う。

彼は本当にちっぽけなオレの誇りをも尊重してくれている。

「あぁ。」

「どのみち俺様の神器は、対多人数、対神器用やしな。」

 槍を自分の眼前で揺らしてみせる、それは一つの合図だ。

「・・・ふぅ。」

 ゆっくりと呼吸しながら、腰に下げた銀剣をオレは抜く。

一瞬で拡大するオレの感覚・認識力。

当然、身体の状態も以前よりはっきりと判る。

大丈夫。

まだ動ける。

もう一本の剣を抜いて。

「行くか。」

 オレはハディラムにそう言うって笑うと、ハディラムも笑う。

そして走り出した。

ぐんぐんと加速して、入口に近づき中に入る。

拡大された感覚が、遺跡内の違和感に気づき一瞬オレは速度を緩めて、止まりそうに・・・。

「止まるな、アルム!走り抜けろ!」

 ハディラムの叫び声がした瞬間、耳元で風斬り音が。

「ぐぁっ。」

 目の前に突如現れた人間と槍。

オレはすぐに自分の左側に剣を振るうと、何もない空間に手ごたえだけが返ってくる。

気配と実体のズレ。

空間を歪めているのか?!

「次々跳んで来るで!」

 オレの横に走り寄って来たハディラムが、もう動かなくなった敵から槍を抜く。

どうやらハディラムが咄嗟に槍を投げて助けてくれたみたいだ。

神器を投げつけるって・・・まぁ、緊急時だしな。

そのまま互いに頷き合うとオレ達は再び奥へと入り出す。

中は一本道で、明るさもそこそこあり進むのは楽だ。

ただ、何処からともなく現れる敵には一本道という事で逆にうんざりするが。

「これ、皆、北のっ、民か!」

 少し息が上がってきた。

走りながら戦うのは、体力の消耗度合いが高い。

「にしてはっ!数が少ないなぁーッ!」

 槍を力任せに振りぬき、相手を壁へ打ちつけるハディラム。

周りの敵を掃討しつつ、緩急をつけながら走り抜ける。

時には手にした武器ではなく蹴りや盾で・・・。

「残りは、セルブ軍に紛れ込ましたな、こりゃ。」

 成る程。

用意周到な事で。

「アルム後ろ!」

 ハディラムが腕を伸ばす。

オレはハディラムのその動作を見て、後ろを見ずに自分の右手の剣を彼に向ける。

「人の事言えんのか!」

 互いが互いの後ろにいる敵を斬りつけて、そのまま半回転して二撃目を自分の後ろへ。

相殺しきれなかった勢いは互いの背中がぶつかり合う事で止まる。

「何や、もう走れんのか?」 「うるさい!」

 辺りから敵の気配が消えたからこそ叩ける軽口だ。

実際は、結構苦しい。

軽口は一言ずつだけ。

その後、一度深く呼吸をして再び駆け出す。

倒した相手の惨状や数なんて考えたくもない。

「うるぅわあぁぁぁぁーッ!」

 そのうち二、三人を貫いたまま体当たりをして、槍を引き抜くハディラムの瞬間の隙をオレが埋めるように、彼に向かう敵を斬る。

そんな形が多く見られるようになってきた。

これはヤバい。

一見、合理的に見えるが、逆に言えば一人で対処出来なくなっているという事だ。

遺跡を外観から見た規模から走った距離を計算すると、いくら曲がり角があっても、もうそろそろ扉か階段、ないし広間があってもいいハズなんだが・・・。

半刻はゆうに走ってるよな?

「チィッ!」 「ハディ!」

 ハディラムの肩口に短剣が刺ささる。

持っていた剣を一振り、攻撃をしてきた相手に投げてハディラムに近づく。

幸い傷は深そうに見えない。

だが、毒が塗ってあったりすれば・・・。

「アルム階段や!」

 突き刺さった短剣を素早く投げ捨てると、ハディラムはオレの手を取って加速する。

「はよ昇れ!」

 どんっとハディラムはオレの肩を叩いて、そのまま走って来た方向に向き直る。

「なんや?俺様が殿ケツじゃ心配か?」

 階段での挟撃なんて、確かに危険度も疲労度も跳ね上がる・・・でも・・・。

「オマエだって、自分を省みずに戦って来たんやろ?こういう時くらいは俺様も背負ってやっから・・・な?大丈夫、見せてやるよ。」

 そう言うとハディラムは、自分の槍を地面に突き立てる。

「【起きろ、今がその時や。】」

 呟いた小さな声が槍に沁み込むと、みるみるうちにソレはその形態を変化させていった。

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