即効性と言葉と女心。
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翌朝。
とりたてて何もない普通の朝だった。
昨夜は、なんだったというくらいに。
でも、そんなオレの感想も出発までだった。
何が起きたのかわからないのだが、馬車内の面子が変わっている。
一台目は、オレ・ミランダ・ミリィ・レイア
御者だったレイアの代わりを務めたのは、何とホビィだった。
"動物に愛される男"ホビィ。
つか、本当に彼は料理人なの?
抜けたホビィとミリィのいた二台目の馬車にホリンとシルビアが移動。
昨夜、ちょっと、ほんのちょっと切り傷を作ったのが、レイアの近衛兵としての何かを刺激したのか?
彼女はオレの横の席を譲らなかった。
オレとしては任務に忠実なのはいいが、そんなに意気込まなくてもと思う。
怪我をしてしまったのも事実だし、ばっちりと説教をされたもので強く出られないでいた。
ちなみにミランダは、オレの向かいの席で恨めしそうに見てる。
何でだ?
ミリィはミリィで、さっきからこっちをチラチラと見ては、目が合う度に慌てて目を逸らすを繰り返してる。
こっちも何でだ?
「レイア、昨夜は悪かったからもう少し離れて。あとミリィ、何か言いたい事があったら言ってごらん?」
もうどのみち言わなきゃならないなら、さっさと言って楽になりたい。
「え、あ、あのっ、レイアさんも皇子のコト好きなんですか?」
「私がっ?!」 「もって何だっ!もって!」 「やっぱりレイアさんも敵?!」
順番にレイア、オレ、ミランダ。
てか、ミランダよ、何だ?その認識は。
「ひっ?!」
あー、あー、怯えとる怯えとる。
じゃなくて。
「ミリィ?何でそういう結論に至ったか言ってみ?大丈夫、怒らないから。」
理由をな、聞かないとどうにも反応しづらいんだわ、ウチの女性達は。
こんな時、ホリンの真っ直ぐな物言いは楽だと思う。
・・・こんな時だけな。
「き、昨日の夜、ホリンさんとシルビアさんと話してて・・・。」
脱力。
「話してて?」
どうせロクな事じゃないという前提。
「シルビアさんはシルビアさんで、『二人の愛は育むものです~。』とか言うし、ホリンさんも『アルム様ならきちんと愛してくれそうだ。』って・・・。」
「ホリンさんと・・・シルビアさんも敵・・・。」
ミランダが何やら変なのは放置だ。
「では何故、私が!」
レイアがミリィに喰ってかかかる。
そうだよ、レイアの名前は今のミリィの話に出てこなかったしな。
「え?え?だって、今のレイアさん、二人が皇子の話をしている時と同じような表情してたから・・・。」
「なっ?!」
ん?
んん?
意味が良くわからんぞ?
ともかくミリィは二人にからかわれたんだな、昨日。
「わ、私は、そんな、ただアルム様が心配でだな。昨夜のような事もあったし。」
「でも、レイアさんも皇子に夜伽とか頼まれたら、二人みたく断らないんですよね?」
「よ、よっ、よっ・・・。」
レイアが顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
「って、マテ、マテ。まるでオレが夜伽を命令した事があるみたいな言い方じゃないか。オレは欠片も言った事ないぞ!」
「本当にないんですか!?」
ミランダがオレの眼前にまで迫ってくる。
「断じてない。」
大体なんだ、夜伽って。
そんなのを命令する時点で、侍女の人格を何だと思っている。
オレはそこまで皇侯貴族の特権意識に凝り固まってないぞ。
後宮を作るとしても、相手は自分で選ぶと公言しているくらいだからな。
「だから、レイアさんも同じくらい好きなのかなって。」
"だから"の接続詞が何処から繋がっているのか、皆目見当もつかん。
全てが妄想状態で。
「私は!アルム様の事は何とも思ってはいない!」
ちょっと痛イ。
刺さったよ、うん。
「あ、いや、その、どうてもいいという事ではなくてですね、アルム様は私の使命の中で護るべき方で・・・。」
レイアの声が尻すぼみになっていく。
「きちんとした忠節をもって、その・・・。」
大慌てで取り繕うのだが、逆にその様が痛い。
「やっぱり・・・敵・・・。」
ミランダがぽつりと呟く。
オレの姉は、何が何でも弟の一番になりたいらしい事は理解した。
十分に理解させられました。
「レイア、大丈夫。わかってるから。ミリィも二人にからかわれたんだよ。向こうに着いたら不用意な事は言わないようにね。」
なるべく、やんわり。
ミリィは失敗が多いせいか、強く言うと際限なく落ち込むからな。
普段は明るくてとっても可愛らしい頑張り屋さんなんだが。
レイアは想像通り堅物だし。
「はい。・・・でも、皇子はどうなんです?」
「どうって?」
「皇子はどう想ってるのですか?」
静寂。
一瞬で馬車内が静寂に包まれた。
何、この既視感。
ゴクリ。と、誰かが何かを飲み込む音がやけに大きく響く。
「えぇと、誰を?」
「みんなです。ミランダさん、シルビアさん、ホリンさん、レイアさん・・・あと私も。」
クリス以外の女性陣全員をどう思ってるか・・・か。
ところで、3人の視線が物凄く熱いんだが・・・熱いというより鬼気迫るものが・・・。
「それは・・・。」
「「「それは?!」」」
うぅ・・・。
何だよ、この拷問。
洗いざらいブチ撒けるか。
ヤだなぁ・・・女性に軽蔑とかされたりする結末。
「ミラは乳母姉弟だったから、オレにとっての初めての家族だと思ってる。皇族なんて忙しくて家族と認識しづらいからな。」
滅多に会った記憶もない。
「だから居ないと困るし、落ち着かない。色々と助けてももらっているし。」
「感謝・・・居ないと困る・・・。」
表情をぱっと明るくするミランダ。
「普通ですね。」
「普通?!」
すぐにミリィに一気に叩き落された。
段々とホリンに似てきたか?
「ジルビィは掴み所が無いけど、優秀過ぎるし、服が侍女服ってだけで貴族みたいだし、美人だし、女性から見ても魅力的だろ?」
「確かにそうですね。ドキドキします。こぼれそうだし。」
「こぼれそうだよな・・・。」
破壊力は魔王クラス。
何処がとはもう言わんぞ。
「ホリンはダークエルフだってだけで、大変だっと思うんだ。森から出て人間社会で仕事してさ。」
森を出る事ですら、一大決心だったんだろう。
「性格はともかく、腐らずに今まで生きてきたんだ。凄いと思う。それにオレはダークエルフは嫌いじゃない。寧ろ、綺麗で大好きだよ。」
そう言えばディーンの剣も黒かったな。
無意識だったが、黒色好きなのか?オレ。
「レイアもホリンと同じだな。女で長剣。国の兵士になるのだって大変だ。どんなに優秀でも正当に評価されないかも知れない。そんな場所だしな。」
言ってて吐き気がする。
そんな環境を作った張本人の血筋なのだから。
「それでも頑張っている。この仕事が上に行く為の手段になるなら、大歓迎だ。第一、そんな女性が素晴らしくないワケがない。」
ちょっと生真面目なのがアレだが、誠実な事は良い事だ。
人間としてな。
「ミリィは・・・そうだな、明るくて前向きなのがいい。見てるとほっとする。とっても可愛いよ。そう言えば、一番抱き心地良さそうだな。」
笑いながら、何時もみたいにミリィの鼻を摘まんでやる。
ん?
随分と皆静かだな。
「何だ?何か変な事言ったか?聞かれた通りに正直に思ってた事を答えたんだが?ヲイ、どうした?」
ミランダは相変わらずブツブツ言ってるし、レイアは俯いて表情が見えない。
ミリィは顔を赤らめながら、エヘヘと笑っている。
何がいけなかったんだろう・・・女心は難しいものだと良く耳にするが、本当に難しいと実感した。
今した。