戦慄と闇夜と血の薫り。【後】
「って、若か。」
頭の上から落ちてきた声は聞き慣れたバルドの声だった。
「危ねぇ・・・勘弁してくれ。近衛隊長に護衛対象が背中からバッサリって冗談にもならん。」
どうやら左回りで、背中側から追いつかれてしまったらしい。
「そんなもんただの暗殺だぞ、暗殺。オレを暗殺してどうするよ。」
本当に笑えない。
オレの間抜け伝説とかってのを作ろうというなら別だが。
寧ろ、華々しい記事の一つになるだろう。
「しかし、若も気配の察し方が巧くなってきたのォ。」
本当はディーンの剣のお陰だけどな。
普段なら気づいたが、あの時はレイアに神経が行ってたから・・・・・・不覚。
しかし、何でディーンの剣は鳴ったんだろう?
今迄あんな事無かったのに・・・。
「それはいいとして、コイツ等どうするかな・・・?」
両足を斬られて身動き出来ない男を見下ろす。
「とりあえずは連れて行って事情を・・・若ッ!」
バルドの声で反射的に身を低く構える。
矢の風斬り音。
トスッと乾いた音を立てて、それは突き刺さる。
バルドでもオレでもなく。
眼下にいた男にだ。
「・・・お見事。」
見事に即死。
見事に口封じだ。
首を竦め合った後、オレとバルドは皆の所に歩いて行った。
口封じをした以上、もう敵はいないだろう。
その気配もない。
「納得いかないな。アイツ等、山賊か刺客だろ?可能性的に。」
「若の立場からすると、刺客の線は薄い気もしますがの。」
そうなんだよ。
前にも説明したけれど、兄上の派閥の貴族達は一枚岩だし(兄上の人徳万歳)。
オレを担ごうとする貴族は論外だし。
反皇族派とかの類だったら、どう考えてもオレより兄上優先だろ?
刺客になるようなヤツ自体が少ない。
だってねぇ?
他の皇族に比べて、殺して得られる益が極端に少ないんだもんオレの命。
敵にも人気がないオレ。
良い事なんだけどね、うん。
「じゃあ、何でアイツ等は仲間を口封じみたいな殺し方するんだ?」
別に末端の部下なら殺さなくてもいいだろ?
殺さなきゃいけない理由でもあるのか?
「山賊だってアジトの場所が割れるのは困るでしょう?」
「だったらアジトを引き払った方が早くて確実だろ?オレ達が生きている時点でさ。」
オレは剣についてるだろう血糊を振り落とす。
「生存者がいる時点で、明日には兵士達に捜索されるのは目に見えてるし、時間稼ぎする必要もない。」
だって今すぐオレ達で強襲!という人数すらいないってんだからな。
相手だってそれをわかっているハズ。
「・・・それに殺されたヤツは双剣使いだった。」
山賊なら斧とか長剣とか細剣使ってもいいんだぜ?
皇族でも皇国兵士でも何でもないんだし。
わざわざ双剣なんて不合理的過ぎやしないか?
「では、若は刺客路線と見ていると?」
首を捻るバルド。
「という考えも持っていいんじゃないかってハナシ。少なくとも独立的な貴族派閥はいないワケじゃないんだし。」
ヨアヒムの叔父みたいな・・・ん?アレが刺客の親玉という可能性もあるのか。
「それもあからさま過ぎるなぁ・・・。」
「心当たりでも?」
ふと向こうから人影・・・あ~、レイアかな、うん。が駆けて来る。
「そのいちーっ!」
走って来るレイアだけでなく周りに聞こえる大声で叫んでみる。
もしかしたら、奴等の一味が聞いているかも知れない。
「ただの山賊ー!そのにーっ!貴族派刺客!」
人影はオレの無事を確認したらしく、その速度を上げて走ってきた。
「アルム様、ご無事でしたか!」
人影=レイアはその勢いのまま、オレに抱きつく。
彼女を抱き返し・・・。
「そのさん。」
オレはバルドとレイアにかろうじて聞こえるくらいの小声に音を絞る。
「オレに向こうに行かれたら困る、来てもらいたくない奴等。」
最後のその声にレイアは驚き、バルドは剣呑な目を光らす。
「うむ。何というか、城を出たらワシのよく知っている"冴えた若"に戻ってきましたな。」
バルドが一緒に稽古していた頃の目でオレを見る。
あぁ・・・声に出したら余計にぐったりしてきた。
オレ、隠居する為に向こうに行く設定なんだぜ?
周りにもそういう風に言って出発してきてるんだぜ?
確かに基本的にだけどもさ。
結局、その日は天幕の距離と数を絞って近衛兵+1人。
不寝番で交代しながら過ごす事にした。
ちなみにオレの身体中をミランダを押し退けてチェックし始めたレイアが、幾つかの切り傷を見つけて大騒ぎした。
んで、激しく説教された。
主に自重しろと。
ノープラン皇子に何やらキナ臭い展開に・・・。
そして、書いてる方もノープラン(爆死)