三角と馬車と窒息。
気付くとあっという間に5日近くが過ぎてしまった。
それでも当初の一週間という期限にはなんとか。
今日はようやく出発だ。
三頭立て馬車1台・二頭立て馬車1台・近衛兵用の馬1頭・荷物積載の空馬1頭
本当は三頭立て馬車なんていらなかったんだが、皇族の乗る馬車だと言う事で、最低三頭立てにしろと言われてしまった。
こういう非合理的なのも嫌いなんだよ、この国。
1台目の馬車にミランダ・ホリン・シルビア・オレ。
2台目の馬車に料理人組のクリス・レーダ・ホビィ・ミリィ。
この面子になったのは、ホビィが大柄なのとミリィがちっこいのとの兼ね合い。
御者はレイアとザッシュが務める。
バルドは近衛兵用の馬で単騎。
空馬はあとでこっそりオレが乗ろうと画策。
だって三頭立てにしたんだし、皇子が馬車に乗らないのはダメって言うんだもん。
本当は侍女達と一緒に詰めて乗るなんてのもダメなんだぜ。
どうして、こうオレをイラつかせるようなしきたりばっかなんだ?
騒がれたりするのも面倒だし、早朝秘密裏に出発を決行した。
まるで逃げるようだね。
「窮屈で済まないね。」
女性率はそんなに高くないハズのパーティーなのに、現在男1人だし。
オレの隣を完全死守状態のミランダ。
向かいにホリン、その横にシルビアだ。
最近ミランダの接近距離は、鬼気迫るモノを感じるのはオレだけか?
「アルム様は、何でも正直な方ですよねー。」
ホリンがオレの言葉に対して笑う。
「ド真ん中をブチ抜く正直さは、君に負けると思うよ。」
「あはは、う~ん、偉そうじゃないというか、飾らないというか。」
うまく表現出来ないというような顔をする。
「皇都出たから言うけどさ、位とか皇族って生まれてたらそうだったってだけで、オレの努力とかで手にしたワケじゃないしさ。ホリン達の外見と同じだよ。みんな美人なのは生まれた時からだろ?あ、肌の手入れと化粧は努力か。」
「もー、アルム様は美人、美人って連発し過ぎですよー。」
いや、本当にお世辞じゃなくて美人なんだって皆。
ここにいる皆は、路線が違って単純な比較こそ出来ないが美人だ。
「アルム様は、お優しくて正直でいらっしゃいますから~。」
全く噛み合ってないよ、シルビア。
「私を"お姉ちゃん"って呼んでくださるくらい素直な方なんですよぉ~。」
ヲイ。
次の瞬間、オレの右腕に痛みが・・・。
「いだっ、痛いっ、ミランダ、右腕痛い、いたっ、食い込んで、あぅっ。」
ミランダが全力でオレの腕を掴んでる。
いや、握り潰している。
ギリギリと締まってんだよ!
「ミラッ!!」
思いっきり彼女の耳元で叫ぶ。
「はいっ!!あ、す、すみませんっ、アルム様ッ!!」
今度は必死にオレの腕をさすり始めた。
何なんだよ、一体。
「実際問題。アルム様はどちらが好きとか、いーとか思ってるんです?」
ド真ん中。
豪速球。
そして破壊王の称号をやろう、ホリン。
ミランダのすがる様な瞳とシルビアの期待に満ちた目が、オレに向けられる。
「・・・ここで、実はホリンが一番好きだ!とか言ってみたら、面白いか?」
ホリンを睨む。
「あはっ、それは嬉しいので構わないですけど、面白さ的には低いですねー。」
大体、ミランダは理解出来るぞ。
なんたって、オレが生まれてから今迄ずっとオレのお姉さんなんだからな。
けれど、シルビアのこの期待は何だ?
オレ、彼女と出会って一週間弱なんだぜ?
「アルム様~。時間はこの際、愛には関係ないんですよぉ~。」
いや、だから心読まないでよ。
「愛ですぅ。」
いやいや。
「そもそも、何故にシルビィはそんなにお姉さんを強調するのよ?」
オレの主張は正しいハズだ。
・・・正しいよな?
「お姉さんじゃないと、私とミランダさんみたいな"年増"は殿方に捨てられてしまいますぅ。」
「捨て・・・られ・・・る・・・。」
ミランダの声が震える。
同時に手も。
何て事を・・・。
ほらぁ、オレを見る目が私は捨てられるんですか?と言わんばかりにウルウルと訴えてる。
「いや、シルビィ、極端じゃない?」
「捨て・・・捨て・・・られ・・・ら・・・。」
ミランダが横でブツブツ呟き始める。
目の焦点が少し合ってない感じ。
「いいえ。殿方は私達みたいなのより、若くてピチピチが大好物なんですよ。私達は干物一歩手前ですぅ。」
「ピチピチ・・・干物・・・。」
ミランダの顔色が心なしか、さっきより青くなっている気がする。
ちょっと怖い。
「あのさ、シルビィ?別にお姉さんという括りがなくてもシルビィは素敵だよ?スタイルもいいし、仕事振りも優秀だし、別に年齢とかで嫌いになったりしない。」
横にいるミランダの手を握る。
「と、言う事をきちんと言ってくださる所が、私がアルム様を好きな理由ですぅ。これからもっと知れば、もっと好きになるかも知れません~。」
にっこりとホリンを始め、オレ達3人に微笑みかける。
「だから、今は"お姉さん"で好感度と親密度上昇期間中なんです~。」
あ?
計算ですか?
本気ですか?
「本気ですよ~。」
だから心読まないで・・・。
「ズルイ。何かズルイ。」
聞いていたホリンが静かに口を開く。
「何かイヤ!同じアルム様の侍女なんだから、公平に愛せーっ!」
ホリンがオレの膝の上めがけて飛んでくる。
本当に飛んで、こぅ身体ごと。
「基準がおかしいだろっ!」
怪我したら危ないので、必死に抱きとめる。
「アルム様はダークエルフでも偏見持たないし、差別もしない人なんだから、愛情も差別しないで公平に下さいってコトだよ!」
「あらあら、まぁまぁ。」
原因を作った張本人のシルビアは、完全に傍観を決め込んでやがる。
「愛情を安売りして、バラ撒き過ぎるのも問題だろ。」
「そこは気前良く、ね!」
ね!じゃないっ。
ケラケラと笑っているホリン。
コイツ何処まで本気なんだ?
「アルム様・・・。」
横のミランダがようやく立ち直ったみたいだ。
良かった。
「・・・・・・あの後、私に寵愛を下さらなかったのは、私の身体が興味を持つに値しなかったからなのですね・・・?」
だあぁぁぁぁーッ!!
かろうじて聞き取れた言葉は、物凄く自嘲的なものだった。
抱くとか、抱かないの話・・・まだ覚えてたのか・・・。
オレ的にはもう思考の彼方どころか、抹消したい恥ずかしい台詞なんだが。
「ミラ。君はオレの大切な家族だ。」
仕方なくミランダの肩を抱く。
膝の上で横になってしがみ付いているホリンが邪魔だが、この際仕方ない。
つか、オマエは陸揚げされた魚か!
でも、ホリンを投げ出すワケにはいかない。
寧ろ、その方が五月蝿くなりそうだ。
「あらあら、器の大きい愛ですね、アルム様~。3人同時だなんて~。」
シルビアは絶対に楽しんでるな。
でも、嫌いになれないけれど。
「楽しいですよ。沢山、愛して下さいね。」
何時もの間のびした声じゃないのが気になる。
でもね、心読まないで・・・そして、これ以上かき回さないで。
終始、馬車の中はこんな感じだった。
お陰で夕暮れの夜営の時には、心身ともにぐったりしてしまった。
オレの疲労度を見たミリィは、オレ達の馬車の中での出来事を知らないので、
首を傾げるばかりだった。