無邪気な舞踏会
王子殿下が一二歳になり婚約者を紹介するための舞踏会を開催することになった。
国の重鎮達も招かれた絢爛豪華の宮殿は人でごった返している。
その場に招待された男爵令嬢ナディア・ドロレもまた王子と同年齢であった。
「わぁ~すごく綺麗ですわ。お父様」
「普段は他国の使者等を招いて歓待する国の威信がかかった場だ。当然だろう」
「ここで今日はダンスを踊ってもよろしいのですか?」
「好きにしなさい。だが、あくまで王子殿下とその婚約者のために開かれた場だからな。あまり目立ち過ぎぬように」
「分かっておりますわ。私、もう大人ですわよ」
頬を膨らませて怒るナディアは「そうだったな」と頭を撫でられ表情を緩める。
「挨拶回りに行ってくるから。失礼のないように」
聖歌隊が楽器を奏で始めた。
音楽に合わせて次々とドレスを着た令嬢とタキシードを着た令息達が手を取り合い踊り始める。
「どのペアが王子殿下だろう。みんなイケメンだから分からないわ」
顔の美しさも重要視される帝国では貴族の爵位を持つものは美男美女ばかり。当然、ナディアも例外ではない。
「私も踊りたいなぁ、いい相手はいないかしら」
ナディアは父の目立たないようにという言いつけを守り、できるだけ冴えない令息がいないか辺りを見渡していると、
「あっ、いましたわ」
一人でポツンと立っている同い年ぐらいの令息を発見した。
背は低く、ぽっちゃり体形の冴えない風貌をした子。
少し離れたところで令嬢達がひそひそと彼を見て何やら話し合っている。
「なんて性格の悪い子達かしら。誰も誘わないなら私がもらいますわ」
ナディアはその子の前に出て手を差し出した。
「一緒に踊ってくださらない?」
「えっ……僕と?」
「他に誰がいまして?」
彼の周囲にいた令嬢達はその光景に呆気にとられていた。
「で、でも、婚約者が……」
「あら、ひどい婚約者ですわね。こんなに素敵な紳士を一人にさせているなんて」
ナディアは慈しむような瞳で彼の手を取った。
「……この場にふさわしいよう身だしなみを整えているのだ」
「そんなの意味ないわ。こうして婚約者が寂しく一人でいるのだもの。そっちのほうが問題だわ」
ナディアは令息の手を引っ張って蝶のように舞い踊る。
赤と黒が混ざり合うような二人のダンスはすべての者を魅了した。
ナディアはまだ知らない。この者が王子殿下本人であることを。
ナディアはまだ知らない。将来、王妃になることを。
ナディアはまだ何も知らなかった。




