エリア五 8話『厄災たちのレクイエム』
崩壊が押し寄せてくる。
降り注ぐ液体、その一滴一滴は壮絶な破壊の魔手となってこの街を蹂躙していく。
雫が少しでも触れた箇所は、紙切れに刃を当てるよりも無抵抗に結合を失う。
破壊の伝播が建物を崩壊させ、崩落の余波が広がってただでさえ崩壊しているこの街はさらにまた倒壊していく。物理法則を無視するかのように迫る大量の雫に触れて耐えられる者などおらず、安置など存在しない…はずだった。
「お嬢様、ここは私にお任せください…!」
走っても無駄、回避しても無駄、防御しても無駄、打ち消しても時間稼ぎ程度にしかならない、そんな対処法が何一つないように思える大量の殺意の弾丸であるが、一つだけ逃れる選択肢がある。
ーーそれは絶対的な影の安全地帯へと逃れること。
「ふふん、やりすぎちゃったかな?」
衝撃が大地に伝わり、粉塵が世界を覆い尽くす。ガルゼドールは高台からばらまかれる溶解液に蹂躙される都市と、その破壊が逃げる二人に追いつく瞬間を待ち望む。勝利を確信した言葉をガルゼドールは告げ、標的の抹殺を成し遂げたと確信する。
しかし、並大抵の者どころか絶対的な強者であろうとも影の安全地帯へと逃れるなど不可能。それらの行使には禁忌とされている闇の力が必須なのだ。
ホシクライ系列の闇の力を使える者はクリフサイドにはどこにもいない、いないはずだった。
だが、ここにはその闇の力を扱える者がいる。それがガルゼドールにとっての最大の誤算だった。
「ーーなんだと」
ガルゼドールの瞳には、影に身を隠すことで安置のないはずの破壊の連撃から難を逃れたリヴァとジョニーの姿がしっかりと映っていたのだから。
「ジョニー、しっかり捕まってろなの!」
「は、はい!」
リヴァとジョニーは影から飛び出し、リヴァが伸ばした腕をジョニーは躊躇なく繋ぐ。すると、周囲の大気を更に極寒が覆い尽くした。
リヴァが生成した氷でできた竜の杖を右手で翳すと同時、走る地面が一瞬で白く染まり、瞬きのあとには一面の銀世界が生じる。
街路が凍りつき、踏んだ靴裏が壮絶に滑りジョニーは危うく体制を崩しかける。
そのすっ転んだ体勢のまま、体が一気に正面へと引っ張られるのだ。
リヴァは地面を凍らせ、氷柱を発射する魔法の推進力を借りて逃走の速度を上げたというわけだ。
「お嬢様すげぇ!このままこの世界線の王者になりませんか?」
「バカなこと言ってんじゃねえなの」
まるでスケートかのように、まるで美しく舞を踊るかのようにこの大地を駆けるリヴァとジョニーの二人であったが、まだまだ脅威からは抜け出せていない。
「…お嬢様、ヤツが、来ました」
「やっぱ追いついてきたなの…!」
氷で滑るジョニーがチラリと後方を確認するともう既に脅威が迫ってきておりリヴァも歯軋りをする。
何者かが高速で駆ける二人の背後をキッチリと捉え、街並みをその能力で汚染していく。もちろんそれをしでかしているのは…
「お二人だけで楽しそうじゃないか。僕たちも混ぜてくれよ」
「ハカイ…!」
「ジィ!」
氷を滑る彼らに高速で迫ってきていたのはガルゼドール、そして彼女だけでなくモノ・セラノイドやオルタナリース、侵晶衛星など数多くの雑兵たちもお出ましだ。
ガルゼドールは氷の上だと本来のスピードや力など諸々出せないようだが、それでも体をくねらせあり得ないくらいの高速移動をすることができる。
だが雑兵たちは別だ。彼らでは本来到底リヴァやジョニー、そしてガルゼドールに追いつけるわけがない。しかし…
「できる上司ってのは部下たちへのサポートも欠かさないもんさ…ーー彼らをただの雑兵と思わない方がいいよ」
「雑兵にしてはあり得ないスピードで迫ってきてます!」
「む…多分、あのスライムには取り巻きを強化する能力もあると見ていいなの…!」
ガルゼドールと共に雑兵たちは逃走を選んだリヴァとジョニーに対し、それぞれ氷を噛み締めながら高速で接近していたのであった。
雑兵の全員が体に何か液体のようなものを宿し、それはガルゼドールと同様の性質を持ったことを意味する。
ーー彼らにはもはや氷属性以外の攻撃は何一つ効かず、そして彼らの繰り出す通常攻撃のどれもが即死級の威力を誇るようになったということだ。
モノ・セラノイドが最強の威力を誇る酸の火焔放射で焼き尽くそうとし、オルタナリースは手を振り上げ酸を飛ばし、侵晶衛星は溶解液を纏った体当たりで全てを消し飛ばそうとする。
「お嬢様、私の拳と刃に氷を付与してください!露払いぐらいはしてみせます」
「わかったけど、本当に大丈夫かなの!?」
「お任せください」
ジョニーの情けないところを何度も見てきたリヴァは、不安感を抱きながらも言われるままにジョニーに氷結の力を与えた。
そしてジョニーはその拳と刃に氷属性の力を宿すと、目を紅く光らせ、迫る大量の雑兵たちを次々と瞬間移動を駆使しながら返り討ちにしていく。
「ジ!?」
「ガ…」
「舐めないでもらいたい、いくら強化されてようが雑兵ごときが束になっても私に勝てるわけないのですよ」
氷を高速で渡りガルゼドールの脅威から逃げつつ、迫りくる大量の雑兵たちに対し反撃として瞬間移動を駆使して背後に周り氷の刃をお見舞いしていくジョニーに対し雑兵たちはたじろぐ。
もっとも、ガルゼドールの力を宿した彼らの攻撃が成功すればジョニーなど粉々に粉砕できるだろう、しかし当たらなければどうということはないを体現したジョニーに次々と葬られていくのだ。
吹雪の刃が一閃、侵晶衛星に当たればその時点で機能停止、オルタナリースやモノ・セラノイドも背後から攻撃しようと企むが逆に背後を突かれて斬り壊されてしまう。
仮にも彼は元雑兵最強格でこの騒動の主犯のギャンビッターと同格、彼にとっては雑兵の動きなど素人も同然。モノセラたちと彼の力関係など人間と巨大なヒグマくらいは離れているというわけだ。
「そらそらそらそら!こっちも負けてられねーなの!」
「それはこちらも同じだ。くっ、力を思うように出せないのが腹立たしいな」
一方、リヴァもガルゼドールに対して一定の距離を保ちながら、氷の剣を振り氷の衝撃波をガルゼドールにぶつけ、遠距離から攻めていく。だがガルゼドールも負けていられない、ドロドロとした液体でそれらの攻撃を相殺する。
どうやらこの氷のフィールドはガルゼドールは弱体化することができるらしい、まあそれでも十分に脅威なのだがないよりはマシだ。
実際、氷をも貫通する必殺の一撃はもう放てなくなっているようだし探せば他にもできなくなった技はあるだろう。
「できれば一気に距離を詰めたいのだけど…」
ガルゼドールに対して近距離戦は無謀とも言える。ゼロ距離から放たれる死の弾丸を喰らったらおしまいだし、直接飲み込まれてしまってもおしまいだ。
自身の体積を広げ直接飲み込んで仕舞えばほとんどの存在を葬れるのだが、氷の塊であるリヴァに対してそれを行使するのは少々リスクがあるようでそれらの動きをもう見せようとはしていない。
「このままじゃいつまで経っても決着つかねーなの…」
反対にリヴァも本来は近距離戦が十八番であり、遠距離戦も得意ではあるのだが近距離戦の方がダントツで得意である。仮初の人間の姿で高速で迫り、本来の竜の姿で一撃を加える受けを徹底的に許さない戦法には誰もが戦慄することとなるだろう。
互いに乙女たちは遠距離戦を強いられそれぞれの得意分野で攻めることができず戦闘は拮抗している。双方、このままでは埒が開かないと焦りつつある。
「そうだな、今度はこれなんてどうかな?」
「これはこれは多芸なことで、なの」
ガルゼドールはそう言い放つと、彼女の背後から二つの水流が渦を巻いて持ち上がり、まるで水竜の首のようにリヴァを見下ろし全てを喰らおうとする。
その双流はなおも距離を取り続けるリヴァに対して降り注ぐ。たかが水…ではない。当たれば命がない死の流体だ。しかし液体は液体、リヴァは氷であっけなくそれらを固めると、氷の剣で二つの固まった水流を真っ二つにしてしまった。
「これでラストー!なんとか全員倒し終わりました、お嬢様の助太刀に向かわなくては……」
大量の雑兵を斬り伏せたジョニーは漆黒の身体を紅光で照らしながら、ホッと一息つく。だがすぐさまガルゼドールと激闘を繰り広げているリヴァの元へと氷を滑りながら向かおうとする。
量産しやすいように作られた汎用的な機械兵の足尖は天然もののスケート靴、超スピードでこの氷の領域を
どんどん加速しながらリヴァの援護に向かおうと…
「コァアアアアアアアア!!!」
「ぐげばあああああああぁぁぁ!???」
突如ジョニーは何者かに横から突進されて跳ねられ、黒のボディーから闇の力が少々漏れながら宙を舞い、そして地面に鈍い音を立てて激突する。
かっこいいところを見せたと思っていたジョニーは、自分の功績をそれを上回る恥で上書きされたことに複雑な感情を抱きながらも立ち上がる。
さて、その圧巻の鋼鉄の体による質量攻撃を成し遂げたその犯人の姿が紅い光で照らされ顕になる。
響き渡る鈍い音にガルゼドールがギロリと視線を向けると液体の身体を轟かせながらこう言葉を発する。
「おや、メタル・シー・魚じゃないか」
「名前だっさ!なの」
「うるさいね。これが正式名称なんだから仕方ないだろう」
真面目な顔をして高々とセンスの一欠片も感じない名前を言われたら思わずそう突っ込みたくもなるだろう。
反射的にそう返してしまったリヴァに対しガルゼドールは不機嫌そうにそう答える。名前こそふざけているが実力は一級品、少なくともジョニーよりも格上なメタル・シー・魚のお出ましだ。
その鋼鉄のボディーからなるアイアンなフィッシュは空中を移動しつつガルゼドールと合流、リヴァも一度後方へと退きジョニーの傍へと移動する。ガルゼドールは氷の上だと自分の力を分け与えることも不可能。
誠に残念ではあるがそれでもその力がなくてもメタルシー魚は強力だ。鋼鉄の魚による咆哮が響き渡り、ガルゼドールもいけしゃあしゃあと宣言する。
「コァアアア!」
「そろそろ、ケリをつけさせてもらうよ」
「ハッ、もしかして勝てると思っちゃってるなの?」
「最後に勝つのは我々ですよ」
もちろん、相対するリヴァとジョニーも黙ってはいられない。戦力は圧倒的にかけ離れている…地力はリヴァよりもガルゼドールの方が、ジョニーよりもメタルシー魚の方が上回っている。だが、ここで負けるわけにはいかないのだ。
そろそろこの『嫉妬』『影騎士』と『粘液の執行人』『鉄海』の戦いも終幕へと突入する。
△▼△▼△▼△
「「「さあ、かっ飛ばしていくよぉ」」」
ハクジャが大地を再度操り始め、地脈の全てがルビーたちに牙を剥く。土塊が舞い上がり、爆音を混じらせながら捲れ上がるそのちゃぶ台返しに巻き込まれたらひとたまりもない、ノアたちは真上に跳んでなんとか回避。崩壊した街に日光代わりとでも言うのか紅き閃光が彼らを照らす。
爆発的なその衝撃はなんとか逃れたが、絶えず瓦礫は彼らに押し寄せる。投石、と言えばいいだろうか。勢いづいた岩が全てを蹴散らそうと追撃は迫る、彼らには打点などまずないだろう。
「ノアさん、思いっきり瓦礫へ向けて自分を蹴っ飛ばしてほしいっす!」
「!?わ、わかった!」
一見気が狂ったかのように思えるアルマのその提案だが、ノアは困惑しつつすぐさまそれを実行に移しアルマを思いっきり蹴る。その迫真の蹴りが直撃したアルマは斜め方向に一気に勢い付き、まるで慣性を無視しているかのようなその動きで全てを破壊し尽くす。
「そんなこともできるんだぁ」
「攻撃もできるタンクってずるくなぁい?」
「まあなんとかなっちゃうんだけどねぇ」
もはや大きな弾丸と言ってもいいほど勢いのついたアルマは、迫る岩柱すらも寄せ付けずハクジャのもとへと一気にその迫撃をぶちかまそうとするが、ハクジャももちろん対抗しないわけにはいかない。大地を一気に隆起させることで何重にも連なる自然の防壁を作り出し、彼もまたアルマジロの銃弾を防ごうとする。
「ぬおおおおおおお!!」
「や」
「る」
「じゃん?」
飛び切り硬いはずの大地の壁はまず一枚砕け散り、二枚目も少々拮抗するが砕かれてしまった。その調子で三枚目も破ろうとするが、いくらか岩を抉り取り善戦するもそのまま勢いは完全ストップしてしまった。
「じゃあこっちも反撃と行こうかなぁ」
「痛いかもしれないねえ」
「ま、がんばってぇ」
ハクジャはそう言うとその巨体に似合わぬ圧倒的な素早さでアルマに迫り、大地をバネ状にしジャンプ台を飛び越えるかのように跳ねたハクジャは、アルマの上に覆い被さり一気に巨体でその小さな存在を押し潰す。粉塵が辺りを眩まし、視界が一気に濁る。
「むむむ…!」
アルマは火事場の馬鹿力でなんとかハクジャの巨体に完全に押し潰されることなく押し返せているようだが、それもいつまで持つことか。少しずつ地面がすり減らされていき、アルマという存在から肉塊へと変わる様子が…
「そら、隙ありだ」
その粉塵で目眩しとなっている隙にノアが光の剣を投擲する。蒼く蠢く光の剣がハクジャの元へと一直線に飛び、剣は一気にハクジャの首を斬り落とす。だが、それがなんだというのだ…切断面を氷で凍らせようとしても無駄だ、一瞬で再生し、
「だと思ったかしら?ーーこっちが本命よ」
「「な!?」」
「しまっらねぇ…!」
ハクジャが土煙を払うと、背後から光の薙刀を持ったルビーが彼の元へと迫っていた。いくら再生できるといっても、一度首を切り落として仕舞えば一瞬だけとはいえ目眩しとなる。ノアは光の剣の投擲によりハクジャの右首を斬り落としたことで、かの大蛇の死角を作り出したというわけだった。
ハクジャは咄嗟に岩柱を発生させ飛びかかるルビーの脳天をかち割ろうとするが、もう遅い。
「これでまず一本ね」
アチアチの高温である光の一閃が放たれ、ハクジャの無限に再生する首、その一本を颯爽と体を舞わせ華麗に焼き切る。毛が風にたなびき、ハクジャの首はバタリと地に落ちる。焼き切られた箇所から再生は…ーーしない。純白の生首は地に落ちたまま恨めしそうにルビーを睨む。
「おのれ…!」
「やってくれたねぇ…!!」
ルビーは方向転換しハクジャの他二つの首も焼き切ろうとしたが、ハクジャは大地を利用して一気に跳ね、距離を取ってしまった。だが悪いことばかりではない、ハクジャが離れたおかげでアルマは圧倒的質量の餌食にならず助かった。
ハクジャは去り際に全てを汚染し尽くす猛毒の吐息を吹きかけたが、ルビーがアルマの首根っこを掴み回避に徹したことで病魔に犯されることなく済んだのであった。酸っぱい匂いのする吐息が充満し、彼らの行動範囲を狭める。
「そこ見えてるよぉ」
「残念だったねぇ」
「ちっ…!」
ノアは手先から蒼く光る射線でハクジャの首に向かって攻撃しようとしたものの、もちろんそれを見透かされていたハクジャはその動きを許すことなく大地を操り攻撃する。ガードレールが意思を持ったかのようにノアの元へと高速で襲い掛かる。
たかがガードレールと言えども勢いづいたそれに当たればひとたまりもない、ノアはそれを間一髪で右方向に避けることに成功するが…それもハクジャの目論見通り。一気にノアの足元が沈降し、奈落の底まで引き摺り落とそうとする。
「よし、これなら行けるか」
洗脳されていて先程まで思い出すことのできなかったが、やっと使えるようになったとノアは宙に氷を生み出しそれを自身の足場にすることでなんとかその奈落に引きずり落とされるのを免れる。
「こんなのどうぞぉ」
「キヒヒ」
「む」
続く猛毒の吐息を避けるのは流石に間に合わない、と判断したノアは即興で氷の壁を作り出しなんとか健康に害でしかない吐息から自身の身を守る。
「どりゃー!」
「よそ見しすぎじゃないかしら?」
「くつ…!」
「小癪だねぇ…」
もう一度猛毒の吐息を仕掛けようとしたハクジャは切り込んできたアルマとルビーもバカにならないと判断、ハクジャは咄嗟に自身を倒し得る一番の脅威であるルビーの攻撃を左首は避け、カウンターとしてその中央の首でルビーに噛み付く。
「きゃっ!?」
ルビーはまともにハクジャに噛まれた結果吹き飛ばされ地面に転がり込み、土埃で彼女の体はいっぱいになる。ハクジャの牙にも軽い毒素が混じっているようで、その牙に触れてしまったルビーの体は少し麻痺しているようだ、彼女の顔は苦悶に歪む。
「ルビーさんっ……!」
ハクジャはその隙を見逃さず一気に大地を操り大量の岩柱をルビーに向けてとどめを刺そうとするも、アルマが前に割り込みなんとか自身の神器とも呼ばれている盾でその大量の岩柱を防ぐ。
だが、それだけで守り切れるはずがないのだ。
「なっ!?」
アルマの背後から大地が隆起し大量の岩や土が未だ体制を崩しているルビーへ向かって襲い掛かる。なんとかフラフラとルビーは立ち上がったが、流石にそれらの攻撃を避けられるほど今のルビーに余裕はない。彼女を大量の岩が押し潰し血と肉片が…
「なんとか間に合った、大丈夫か?」
「えぇ…あ、ありがとう、ニンゲン」
自身が生成した氷に飛び乗り、サーフィンの要領で動くことで高速移動を実現したノアは、ルビーの元へと即座に駆けつけ迫る岩柱を一閃して剣で斬り伏せる。未だフラフラとしているルビーを抱えノアは即座にその場から離れる。
「ちい…!」
「厄介だねぇ」
ハクジャ側も焦りつつある、すでに三つ首のうち一つがやられてしまったのだから。これでは回復に相当な時間がかかってしまうだろう…
「このままほっとくとまずいねぇ」
「そうだねぇ…!」
ハクジャは軽く体当たりをぶつけてアルマを吹き飛ばす。ダメージはほとんど入っていないようだがそれで結構、距離さえ取れたらなんでもよい。
ハクジャは彼ら3人と距離を取り、また大地の操りによっての攻撃を再開する。接近戦は万が一のリスクがある、できれば彼らと距離を取りスタミナ切れを狙いたいというわけだ。連なる断崖の剣を放ち生け捕りでの捕獲は諦めノア、アルマ、ルビーの3人を八つ裂きにしようと企てる。おまけに猛毒の吐息もプレゼントだ。
「アルマ、ルビー、あまり離れるなよ…!」
「わかったっす…!」
「…ニンゲン、この状況じゃなかったら首を刎ねてたわよ」
しかし氷属性の技を使えるようになったノアは、自慢の機転でギリギリではあるがそれらの攻撃に対して最適解を導き出し対処していく。ルビーも人間の彼を嫌がりはするが実力は既に認めている、とくに拒否などはせずそのままノアの指示通り動いていく。
ハクジャは地面を抉り取り向かわせなどもするが、ノアの完璧な宅配によりアルマやルビーが最善の動きを取り、徐々に戦況は膠着状態になりつつある。
「このままだとまずいかもねぇ」
「時間のかけすぎでガルゼに怒られちゃうなぁ」
ガルゼドールに援軍に来るよう頼まれてもいるのだ、このまま時間をかけ過ぎたらガルゼドールにも怒られてしまうし、自分にとっても早くルビーという不穏分子を取り除いておきたい。
ーーハクジャは、決着を急いでしまった。もちろん焦りなどもあったのだろうが……それが、敗因となったのだろう。
「あの連携を崩しにいくよぉ」
「そして散り散りになったところを一気に潰すんだねぇ」
ハクジャは自身の足元を隆起させ、一気にノアたちの元へと迫り突進を仕掛ける。巨体による圧巻の突進は受けを許さない、避けに徹させる…はずだった。ハクジャの目論見だとこれで一気にアルマとルビー、そしてノアを分断させし勝負を決めにいく予定だった。予想外だったのは…
「ぬおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「「そう来たかぁ…!」」
アルマがそのまま飛びかかって突っ込み、自身の体当たりを受け止めようとしてきたのは流石のハクジャも驚いた。二つの盾を構え突っ込んできたその一際小さなアルマジロはハクジャの猛攻を僅か数秒抑えることに成功する。しかしアルマも大きな負傷こそないものの衝撃で弾き飛ばされてしまった。このまま一気に追撃を仕掛けようと…
「アルマ、よくやったわ」
「なっ!?」
「いつからそこに!?」
いつの間にか回り込んでいたルビーにハクジャは驚愕を隠せず目を見開く、すぐさま牙で噛みつき応戦しようとしたがもう遅い。
「さて、これで二本目ね」
「ちぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
ハクジャの左首がルビーの光の薙刀で切り落とされ、またもや地に落ちる。焼き切られたことでもう再生はしばらく不可能、ドサリと音を立てこれで残りの首は一本だ。
「さっきからやりたい放題してくれるじゃない、ウサギのくせに…!」
残っている中央の首がルビーへと向かって猛毒の吐息をぶつけようとする。もちろん、今のルビーには今左首を切り落としたことで隙が発生している。今なら問題なく当たるだろう。
「じゃあね、これで」
「って訳にはいかないな」
「…もしかして、これはハメられたと見ていいのかなぁ?」
ハクジャはここでようやくあそこで自分が突進するのをルビー達が狙っていたことに気づくが、もう遅い。
ルビーに対してトドメを刺そうとしたハクジャだったが、首が一本まで減り視野が減少した今のハクジャでは死角から少しずつ迫るノアに気づけなかった。
ノアはハクジャの背後から氷の剣で中央の首を斬り落とす。しかし、猛毒の吐息のキャンセルはできたし目眩しにはなったがそれも一瞬。すぐさま再生して何事もなかったかのように…
「これでラストね」
その一瞬の隙があれば十分、ルビーはハクジャの中央の首に飛びかかり光の薙刀でその中央の首も切り落とす。超高温が首を焼き切り、これで撃破したと見てもいいだろう…本来ならば。ルビーとノアは万が一を考え中央の首から噴き出る猛毒の鮮血の当たらないようにするためアルマのいる後方へと退く。
この三つ首の白き大蛇を相手する上で一つ気をつけなければならないことがある、それは。
「よくもやってくれたねぇ…!」
「…なるほどな」
「うーん、これはもう少し頑張らなきゃいけないかしら?」
ーーハクジャの中央の首だけは、たとえ超高温で断面を焼き切ったとしても不死ということだ。ハクジャはドッシリと構えて彼らを睨み、再び対峙する。
この『三つ首』との戦いも、そろそろ決着が近づいてきたようだ。




