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エリア五 5話『怒涛の追い討ち』

「……ダメだったなの」


銀髪兄妹と別れて一時間後。一足先に戻ってきたリヴァが念の為に物陰に身を潜めながらリカブトとパセリの帰還を待ったが…やってきたのは、2体のロストナイト。


——そしてロストナイトたちはその漆黒のボディーに血や肉片、銀の髪の毛を付着させていた。



リヴァはその地を離れながらリカブトとパセリに対して謝罪の言葉を告げる。彼らは許してくれるだろうが、残念なことにこの謝罪の言葉が彼らに届くことはもうない。そこの髪の毛と肉片を人として見做せるなら別だが。



———————————————————-———————————————————-


「———アリスくんに、もう片方は大人の女性…あとはシスター。全員、洗脳されてるなの」


洗脳者はそれぞれ単独行動している…と聞いたのだが、どうやらこの街では洗脳者は集団で行動をしているようだ。確かにそれぞれ別で動かれるよりかは、まとめて動いてくれていた方が管理もしやすいのだろう。


だが、甘い。確かにこの街の洗脳者は他のエリアと比べると比較的強いとは聞いたが、それでも本来のスペックはまだ出せないだろう。見た感じは彼らの強さもまだまだ発展途上、今ならリヴァ一人でも余裕勝ちだ。今すぐに…


「集団で動いてるなら管理がしやすい…」


今すぐリヴァは彼らを洗脳から解き放とうとしたが…動こうとした直前に、ある一つの疑念が思い浮かび硬直した。


———洗脳者は、時間が経てば時間が経つほど強くなる。この街の支配者が、いずれ大きな戦力となる彼らを野晒しで置いておくだろうか。


「なるほど、なの」


この街の洗脳軍団はいわゆる"撒き餌"。彼らを解放しようと近づいてみろ、すぐさまこの街の強者たちがリヴァたちを処理しようと集まってくることだろう。

まだ敵戦力も十分に把握できていないのだ、今ここでディノスたちを洗脳から解放してこの街の主戦力と激突する余裕などない。


リヴァは力尽きて横たわる量産機兵が最後の抵抗として発射させた砲弾を避け、お返しに竜の姿となって踏み潰す。もし周りにディノスがいたらオーバーキル、と言っていただろう。もっとも、ディノスは助けられなかったためここにはいないのだが。


だが、どうしようもないものはどうしようもない。とにかく今は戦力を集めるべきなのだ。


「む、あれは……オルタナクラブ、なの?」


オルタナクラブ。それはクリフサイド本部を襲ったデカブツの名前でもある。遠目でよく見えないが、特徴から察するにオルタナクラブまたはそれの仲間とみた。


だが、オルタナクラブはピクリとも動いていないようだ。何者かに倒されたか…それなら、リカブトやパセリなどのように生存者がいるはずだ。行ってみるに越したことはない。氷はビルから飛び降り、オルタナクラブの残骸を目印にその地点へと向かう。


「…」


リヴァは辺りから熱を奪いながらも目的地へと辿り着き、辺りを見渡す。オルタナクラブの残骸の付近には…生存者、だった者たちがいた。もはや見てもいられないくらいにはぐちゃぐちゃに液状化した凄惨な死体があった。溶けた死体たちは重なり合っていて、もはや個人を識別することなど不可能。


「———おげ」









「はぁ、はあ………おそらくこれをしでかしたのは幹部格。ハクジャに並ぶヤツだと思われるなの」


おそらくはこの街の支配者または幹部…特級戦闘員ではないだろう。おそらくこのオルタナクラブを倒したのはかつて生者だった目の前の液状化した死体たち。オルタナクラブを倒せる猛者が特級戦闘員に遅れを取るとは思えない。


こうして、リヴァはさらにこの街を進むのであっ…



「吐お取り込み中、悪いんだけどねぇ」

「君が例の氷使いってヤツだよねぇ?」

「悪いけど、ここでやられてもらうよぉ…!」


突然背後から聞こえた蛇の声に驚いたリヴァが振り向いた先、そこには白き三つ首の大蛇が鎮座していた。この汚染されし大地が大蛇が一歩、また一歩歩くたびに地震でも発生したかのように揺れ、死の街屈指の強者が目の前に現れたことを意味する。まあ、もちろんそうだろう。


「そう、僕が噂のハクジャだよぉ」

「ハクジャだねぇ」

「ハクジャなんだよぉ」


四ノ厄災が一人、『三つ首』ハクジャ…ここに見参である。三つもある長い首を弄ばせながら氷使いの竜を赤く染まった目で睨み、尻尾が無秩序に地面に叩きつけられ、その度に地面は大きく揺れていく。規格外の超越者と呼ばれる存在でも目の前の大蛇には冷や汗を隠せないことだろう。


なにせ、彼もまたこの街の王に報いるためクリフサイドに対して大きな脅威となった存在、それがハクジャなのだから。舌を出しゆっくりと距離を詰めていくハクジャに対し、リヴァも氷で杖を形造り臨戦体制となる。


「ちっ、こんなときに会うなんてついてねえなの…!」


リヴァも負けじと竜の気迫を解き放ちつつ、極寒の冷気を漂わせハクジャと対峙する。

『三つ首』と『嫉妬』、蛇と竜による大地と氷が交わる苛烈な死闘のドラムが竜に休憩を与えずすぐさまドラムを鳴らした。


「こんなのなんてどうかなぁ?」

「当たれば痛いと思うよぉ」

「キヒヒ」


「ちっ…!」


ハクジャが尻尾で地面を叩くと、突然ビルや電柱、瓦礫、挙げ句の果てにリヴァの足元そのものが敵と化す。地割れが発生し、リヴァはそれを上に跳んで全てを飲み込む大地の恐怖から難を逃れる。咄嗟に竜化しハクジャにより意思を持った押し寄せる大地を破壊、一切合切を押し潰すビルも竜の拳の前には豆腐も同然、全てを薙ぎ払うが地割れは彼女を今か今かと待っており、宙を舞う彼女にその大穴の脅威から避ける術はない。


「足場がねぇなら作ればいいなの!」


嫉妬の竜の姿から人間の姿へと戻り手を翳して氷を生成、空中に屯する数多の氷はハクジャによる大地の操りの影響を受けない、それらを駆使しなんとか地割れの恐怖から逃れる。氷の足場をどんどん展開しハクジャに迫ろうと…


「あぁ、そっちから来る必要はないよぉ」

「こっちから」

「行かせてもらうからねぇ!」


「む!?」


突如ハクジャの足元が隆起し、地面ごとリヴァの元へと向かいハクジャの巨体が迫る。リヴァは咄嗟に竜化して迎え撃とうとするも、足元がガタガタであり巨躯の猛攻を抑え切ることはできず…その巨体による突進はリヴァに直撃し、嫉妬の竜は轟音をかき鳴らし岩や民家を破壊しながら、地面へと激突した。その衝撃で地響きが起き次々と人工物が塵へと化していく。


「ああクソ、油断したなの…」


獲物を見つけたかのように迫る家具たちは氷の壁で抑え、一度人間形態へと戻ったリヴァは頭を抱えながら立ち上がる。彼はどうやら大地を操る能力を持っているらしく…彼の前では地面は全て敵、として見做した方がいいだろう。


ならばこいつと戦うには地面に頼らない戦い方をするのみだ。迫る電柱をねじ伏せ、追撃として跳んでくる毒の吐息を壁をぶち壊しながら回避。

再度氷の足場を用い大地の恐怖を最小限にしつつ氷で反撃を開始する。氷が次々と生成されハクジャをズタズタにしようと飛んでいく。


「そらそらそら!手数でどんどん攻めていくなの!」


「ふーん…」

「それ意味ないと思うけどねぇ」

「まあ、付き合ってやるかぁ」


ハクジャは迫る大量の氷たちを地面を隆起させ、即席の壁として用いながら次々と防いでいく。鈍い音を立て次々と氷が砕け散る中、ハクジャも隙を見て人工的に着色でもされたかのような毒々しい色合いの吐息で追撃を仕掛ける。もちろん、この毒の吐息に掠りでもしてしまえば病魔にすぐさま犯されてしまうことだろう。ただリヴァは状態異常にはめっぽう強いのでその追加効果は特に気にする必要がない。


…ただし直撃したら病魔とは別にダメージを受けることには変わりないので、できるだけ回避する方向で戦っていく。リヴァにとってはこの病魔による攻撃はほぼボーナス行動、しかしだからこそやめてもらっては困る。回避することでこの毒の吐息がリヴァにとって有効であると勘違いしてもらえた方が助かるのだ。


「「「あれ、どこに」」」


「ここにいるなの」


ハクジャはリヴァの姿を見失ったが、入り組んだ地面で誤魔化そうともリヴァの目は完全にハクジャを捉えていた。人間形態で高速に接近しすぐさま竜化して大地の壁をぶち破り、ハクジャに襲いかかる。生物として格が違うとでも言いたげな竜の進撃を大蛇は抑えることができない。


「一気に決めるなの!」


三つの巨大な氷の刃を生成しハクジャの全ての首を切り落とす。返り血を浴びつつリヴァは竜による最高級の破壊力を持った打撃をハクジャに浴びせ、胴体ごと全てを打ち倒す。


その圧倒的な破壊力を持つ竜の打撃を喰らったハクジャの白い体はバラバラに散り、純白の肉片が紅き血で染まっていく。リヴァに対しても鮮血が降り注ぐが、漂う冷気の前に冷たい塊となって地面に落ちていく。


「ふぅ…やっぱ特級戦闘員とかとは比べ物にならねぇなの」


リヴァはため息をつき、ハクジャに重大な損害を出される前に撃破して良かったと内心安堵する。地面を操る能力持ちなど放置していてはどうなるかわからないのだから。まあ終わったことだ、そんなことはどうでもよい。これにて、ハクジャ攻略戦終結で…


「だと思った?」

「そんなわけないよねぇ」

「キヒヒ」


「!?」


リヴァは再び地面の隆起が再開し、そして肉片からハクジャの声が聞こえたことに驚愕する、しかし驚いている暇はない。大地が揺れ大量の瓦礫が降り注いだゆえリヴァは人間形態となりその落石を少しでも氷で破壊し攻撃の範囲を狭めながら素早く避ける。


回転しながらも何が起こったのかハクジャの肉片が散っていった方向を見ると、そこには再生して元通りの白き三つ首の大蛇の姿へと形作られていくハクジャの姿があった。


巨大な尻尾も純白の胴体も紅き目を宿した三つの首も、まるで何事もなかったかのように全て元通りである。


「ちっ…バ、バケモノめ…!なの」


「バケモノだよぉ」

「バケモノなんだねぇ」

「僕は厄災を冠する者だからねぇ」


 ハクジャはそれぞれの首で舌を出しながらまるで嘲笑うかのようにリヴァを一瞥すると、また一歩また一歩とジリジリとリヴァに詰め寄る。流石のリヴァもこれには想定外であり、冷や汗を隠しきれず嫉妬の竜形態となり冷気を纏い迎撃を準備する。


首を全て切り落とした上で胴体を粉々にしてやったのだ、なのにノーダメージとなると…おそらく倒すことでの撃破は厳しいだろう。


とならば勝利条件を変えなければならない、ハクジャを無力化させることでここを突破するしか道はない。たとえ不死身の相手となれど動きが取れなくなってしまっては意味がないだろう。


迫る毒の吐息を氷のブレスで相殺し、すぐさま人間形態へと切り替え追撃として襲いかかる地割れを回避していく。再びハクジャは足元を隆起させつつ猛スピードで巨躯による突進を披露してくるが、人間形態でなんとか躱しつつ反撃として氷の礫をハクジャに飛ばす。しかしすぐさまハクジャの前に防壁が現れ、氷の礫による攻撃は防がれてしまった。


リヴァに次々と襲いかかる岩柱であるがたとえ岩柱とて侮ることはなかれ。並の人間はもちろん、その勢いのついた岩柱の殺傷力は、クリフサイドのほとんどが防御せずまともに喰らってしまえば大ダメージは免れないだろう。それが何本も、だ。


「むぅ…!」


即座に竜形態となり襲いかかる岩柱たちを殴り壊しつつ、足元から襲いかかる地割れの恐怖を抜け出すため上に跳び氷の足場を生成し難を逃れる。決壊し襲いかかるビルは竜形態と人間形態を切り替えながら突破し地脈の脅威に対して最大限抵抗する。


猛毒の息吹を氷の防壁で少しでも進行を食い止め、リヴァは氷で牽制しながら少しずつハクジャへと迫っていく。


「ほら、たかいたかーいだよぉ」

「キヒヒ」

「もう諦めたら?命までは取らないからさぁ」


「さっきから厄介なことしてくれるなの…!」


空中で氷を足場にするリヴァであったが、突如リヴァのいる地点から高い柱が伸びていき、リヴァの氷を貫いていく、幸い避けることが遅れてしまった髪の毛が少々散っただけでとくに損害はないが、まだ見ぬ初見殺しの技を放ってきたことに動揺を隠せない。今回は対応できたが、その次の次となるともうわからない…とにかく、どうにかこのバケモノを早く無力化しなければならない。


「ワイルドに行くよお」

「また避けるかい?」

「それとも迎撃する?」


「答えは迎撃なの!」


挿絵(By みてみん)

再び地面を隆起させ地面ごと迫り突進するハクジャに対してリヴァの出した答えは迎撃。特大級の氷で少しでも勢いを殺しつつ、竜化し一切合切を踏み潰すハクジャにこちらも一切合切を破壊する竜の姿で対抗する。白蛇の巨体と青竜の巨躯がぶつかり合い、猛烈な風圧が起きながらも『三つ首』と『嫉妬』の二体は激突する。だが…


「「「へぇ…!」」」


しかし、一枚上手だったのはリヴァの方である。ジリジリとハクジャを押し返していき、流石のハクジャも感嘆の声を上げる。これ以上力比べをするのは危険だと判断したハクジャは地面を隆起させその力比べを中止しようと…


「やると思ったなの」


その一瞬力が抜けた隙を突いてリヴァは強力な竜の打撃をお見舞いする。またもやハクジャの体は粉々となるが、再生の能力を忘れてはならない。次々と肉片が再生し元通りに…


「その前に氷漬けにしてやるなの…!」


人間形態へと戻ったリヴァは完全にハクジャが元通りになる前に漬けにしてしまい彼を身動きできない状態にしてしまった。不死身の相手に対して氷漬けなど動きを封じる手段は非常的に効果的である。


本来は、効果的だったはずだった。


「ふぅーん」

「ちょっと感心しちゃったねぇ」

「でも残念でしたぁ」


「そ、それならば…!」


ハクジャは自分を閉じ込める役割を持っていたはずの氷を軽々とぶち破り、リヴァを困惑させるがそれくらいで止まる彼女ではない。再び世界へと解き放たれたハクジャは軽く咆哮を上げる。氷による封じ込めが失敗ならば、三つ目の手段だ。


「そらっ!!!」


リヴァはまたもやハクジャを竜の姿でぶん殴る。もちろんハクジャを粉々にしても意味はないだろう、しかしリヴァの今回の目的は違う。


「おー」

「いいねぇ」

「感動だねぇ」


ハクジャはリヴァに殴られた衝撃で遥か彼方へとぶっ飛んでいく。彼を倒すのが不可能ならば、彼女は遠くへとぶっ飛ばしてハクジャを退けるしかないと判断したというわけだ。ハクジャは彼女の思惑通りその巨体を宙に回しながら吹き飛んでいき、ついにこのハクジャ攻略戦はやっと終結する。


「ふぅ、ふぅ、長かったなの…」


流石に疲れたリヴァは竜化をやめ人間形態となりほっと息をつく。耐久力自体は比較的柔らかい方ではあるが…大地を操る権能と再生の二つの能力には骨が折れた。自分はほぼ無効みたいなもんだからよかったのだが、常人はここから更に毒の吐息のケアもしなければならないのだからよっぽどである。


「とりあえず死の街の探索を続け…」


倒すまでは行かなくともなんとかハクジャを退けることのできたリヴァは再び死の街の探索を再開しようと…


「っ!?」


突如背後から強靭な敵意を感じ咄嗟の判断で彼女は右方向に奇襲を避けた。

リヴァが振り向いた先にいた存在、それは…


「ここまで頑張ったのは君が初めてかもぉ」

「すごいよぉ、素直に感心しちゃったぁ」

「でも残念、厄災を甘く見すぎたねぇ」


「…!?」


さっきぶっ飛ばされたはずのハクジャが再びリヴァの目の前に現れ、流石のリヴァも驚愕を隠せない。ジリジリと近寄るハクジャは、再び戦闘を開始しようと大地を揺らす。地割れが起き、岩石が降り注ぐ様を見てリヴァは後退する。ここまでやって倒せないのならもう"アレ"を使うしかないが、ここで使ってしまってはグレイドを倒すことは不可能だろう…ならば、取る手段は一つしかない。


「ちぃ、逃げるしかねぇなの!」


リヴァは特大の霰や氷の礫でハクジャの動きを牽制する。ハクジャは自然の防壁を用いてそれらを防ぎ、お返しに毒の吐息をプレゼントする。彼女は逃げようとしたが、それは無駄なことである。仮にも蛇であるハクジャは生物の温度を検知してある程度の範囲なら誰がどこにいるか検知できるし、そもそも大地を操るハクジャ相手に陸路で逃げ切れるわけがない。


…はずだった。


「おや…?」

「おかしいねぇ」

「ピッタリと反応が消えたねぇ」


突然氷の猛攻が消え、そしてリヴァの生体反応が消えたことにハクジャは驚きを隠せない。先程までそこにいて、なおかつ一定範囲内なら誰がどこにいるか余裕で感知可能…そう、本来誰であっても逃げられないはずであるのに。


「うーん、どういうことかなぁ」

「どういうことだろうねぇ」

「とりあえず、連絡だけとっとこうかぁ」



ハクジャは首を傾げつつ、とりあえず臨時指揮官のバーディアに連絡を取る。これにて、リヴァvsハクジャの竜と蛇による苛烈な戦いはハクジャの勝利ということで幕を閉じたのであった。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ゲギャッギャ…オエエエエエエ!!!」


「なっ…われに向かって吐いてんじゃねえぞボゲがぁ!!」


捕虜部屋では2、3mを超えるテツバット集団の一人が何故かがぶらに向かって吐き出した。胃液から為る酸っぱい匂いが辺りを充満する。


何体かのテツバットはひーーーーとなりながらも少しずつその液体から距離を取る。ネリンも嫌悪感を隠しきれずすぐに距離をとる。


「うっわあ…流石の俺っちも美食家としてドン引きじゃぁん?」


魂の美食家を名乗る数多の魂を貪りいつも高笑いをしていたデルガゴールも流石にこれには引き気味、火焔放射でドロドロとした吐瀉物を焼き尽くそうとするが…その寸前、彼らはあることに気づく。


「何じゃ、あのひび割れた小さな鉄板は?」

「…あぁ?んなもん見たことねえな」


ネリンがまずその片手サイズに収まるほど小さくそしてひび割れている鉄板に気付き、テツバットCに水をかけられて吐瀉物まみれの体が綺麗になったがぶらもやっとその存在に気づく。だが、二人ともそれが何なのかはわからない様子だ。


「あれってもしかして"スマホ"ってやつじゃねぇ?」


「おどれは知ってるのか」


「俺っちも使ったことはないけどさぁ、スマホってのは連絡とか娯楽とかなんか色々使えたりするらしいなぁ。ワンチャンこれで助け呼べるんじゃね?」


神の類いであるネリン、妖怪であるがぶらはそのひび割れた鉄板の正体に気づけなかったが、デルガゴールは気づけたようだった。デルガゴールの話が本当ならば、そのスマホとやらがこの捕虜部屋の脱出の鍵となるかもしれない。


直接触りたくはないためネリンが頭蓋骨のお供を向かわせ、デルガゴールの指示通りにスマホを操作していく。幸いパスワードはかけられていなかったようで、割とあっさり連絡先の欄に辿り着いた。


「連絡先は…この"たけちゃん"のみか」

「おっかしいなぁ、この欄は確かもうちょい追加できたはずなんじゃねえ?」

「とにかく今はかけてみるしかないだろうがよぉ!」


連絡先がたけちゃんしかいないことにデルガゴールは疑問を抱くが、がぶらがそれどころではないと急かす。がぶらの能力でもこの牢獄から抜け出すことができないのだから中から出ることは不可能、外から出してもらうしかないだろう。


やがて骸骨の使い魔が電話をかけ始めると、"たけちゃん"から返答が来た。


「…なにきのこ。明日の時間割でも聞きに来たの?悪いけど、僕は今から塾だから。他の人に聞いて、じゃ」


"たけちゃん"はそう言うと勝手に電話を切ってしまい、哀愁漂う電話のツーツーという音がこの捕虜部屋に響く。ネリンやがぶらだけでなくテツバットも沈黙し、後に残るのはこのひび割れたスマホとデルガゴールの高笑いだけだった。






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