エリア五 2話『さいしょのなかま』
「ふぅ、ここまで長かったっすね」
アルマはついに死の街に…とはいっても、まだまだ入り口の「い」の部分ではあるが、なんとかたどり着くことができた。ここまでどのくらい時間が経っただろうか…
エリア3から行けば近道ではあったが、いかんせん泳いで渡り切るというのは中々厳しいものがある。というわけでアルマは『みく林』や『グレイ・シティ』、『オリ砂漠』などを全て網羅したってわけだ。
「あのお化けさんには助かったっす、また今度会ったら礼を言いたいっすね!」
みく林やグレイ・シティはともかく…流石にオリ砂漠の突破は骨が折れた。いやまあ、携帯食ならたくさんあるが流石にまだ死の街についてすらないのに携帯食を使い切るわけにもいかず…あと、砂嵐も酷いし。
どうしようか悩んでいたところ、お化けみたいな見た目の「ラーク」と名乗る人物が助けてくれた。なんと、完全防塵仕様の車を貸してくれたのだ。確か…
『あんぜんにきをつけてうんてんしてね!』
って感じだったかな。
まあアルマは運転免許とやらを持っていないのだが、闇の世界に法律などなかろう。自動運転モードにして眠り、朝起きたらなんか事故ってた。まあ、アルマに傷は何一つなかったのでモーマンタイである。
というわけでなんだかんだ死の街へ到達できたのだが…
「シンニュウシャヲハッケン。ハイジョシマ…」
「こいつらの対処も慣れたもんっすね」
早速二体のモノ・セラノイドたちに見つかったが、あっけなくアルマは突進やシールドバッシュなどを用いてぶち壊してしまった。アルマの攻撃をまともに喰らった機械たちは甲高い音を立てて、機械の残骸が辺りに飛び散る。
最初接敵したときはどう倒すかで多少困惑したが…まあ、もう"慣れた"としか言いようがない。この機械に限らず、量産機兵たちはどこか脆いところ…つまり、急所があるのだ。そこを突けばあっさり壊れし、もはやアルマにとっては取るに足らない雑兵だ。
もっとも、この量産機兵たちも決して弱くはない。しかし…全てを喰らう者や大罪に取り憑かれた竜、世界を恨む科学者恐竜、呪いに嘆く哀れな冒涜者、鏡の魔法使い、"アニキ"、数多もの大罪たち、ウサギがたくさんの異世界、戦乱の隣国……
この程度で、数多もの冒険を繰り広げてきたアルマを止められると思ったのか。
とはいっても、いきなり敵陣に凸るほど無謀なことはしない。アルマはコロコロ転がりつつ、物陰に隠れながらゆっくりと進んでいく。
まず大前提として、アルマはタンクである。ガッツリアタッカーというわけではないというのをご理解頂こう。さて、そんなわけでまずは仲間が欲しい…願わくばアタッカーが。
「アニキかリヴァさんがいればいいんすけどね…まあ、高望みしすぎるのも良くないっすね」
何せ、死の街は他エリアと比べても明らかに殺意が高い。敵の数はもちろん、赤く蠢く謎の物体がこびりついており、建物はかなり荒廃し、おまけに空の色も赤黒いときた。
盾が地面と摩擦し発生する音を極力減らしながらアルマは進む。
これなら、アタッカーどころか…生存者がいると期待することすら諦めるべきなのかもしれない。アルマは拳を握り締め、エリア5を一人で攻略すると覚悟し…!
「おなか…すいた…」
そう覚悟した矢先…何やら、アルマは一人の倒れている影を発見した。
———そして、その声は聞いたことがある。
「ル、ルビーさん!?」
アルマは見知ったその姿に驚き、潜伏することすらも忘れて彼女に駆け寄る。
確かにクリフサイド本部にエースはいたが、まさか異世界から元の世界へと返してくれたウサギの女王とも遭遇するとは流石のアルマも思わなかった。
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「まさかまたアルマと会えるなんて思わなかったわ〜もぐもぐ」
ルビーはアルマからもらったパンを頬張りながらそう話す。よっぽどお腹が空いていたのだろうか…携帯食の減りが尋常ではない。少なくともあと三日は大丈夫だったはずだが、これは一日持つか怪しくなってきた。まあ食糧問題については後で考えるとする。アルマは周りの警戒を怠ることなく、様子を見て安全だと判断。
「僕も思わなかったっすよ。エースさんだけでなく、ルビーさんもいるとは」
クリフサイド本部に無敵の騎士団長ことエースもいたが、今度はルビーも出てくるとは。自分はウサギに好かれてる体質なのかもしれない、おろちばーすでもウサギの暗殺者に命を狙われたことはあるし。
「あら、エースも見かけたのね?なら、私と一緒にここに来たはずのアリスもいたりするかしら?」
「ごめんなさい…アリスさんはまだ見てないっすね」
「————そう…」
エースのことだから大丈夫とはルビーも思っていたが…問題は、本来はこの世界に一緒に来たはずのアリスである。アリスは人間くらいなら余裕で返り討ちにできるが…相手が魑魅魍魎となると話は変わる。なのでルビーは自分の可愛い従者の安否を気にしていたのだ。しかし…
「ルビーさんはあんなところで倒れてて何やってたんすか?」
「それが…」
ルビーはこう話す。まず彼女たちの居住地である『みかづきわーるど』にて例のポータルが発生。ルビーとアリスはそれに吸い込まれ、この地獄、『死の街』へと来たわけだ。
ルビーとアリスは襲いかかってくる大量の雑兵たちは捌くことができた。しかし…
「何者かに不意打ちされて意識を失った…っすか?」
「そうよ。全く、顔も見せないなんて礼儀がなってないわね」
アリスはともかく、ルビーもかなりの強者である。元の世界ではあまりその実力を発揮することはないルビーであるが…魔法の腕は一級品で身体能力も抜群。
————そんな彼女すら足元にも及ばない絶対強者がこの街にはいるというのか。
後のことはまるで夢でも見ていたかのように朧げだという。顔すらも覚えていない集団の中に加わり、この街を守るべく辺りを闊歩していた…ということだけしか覚えていないようだ。
「…トキさんと同じく、洗脳されていたと考えるのが妥当っすね」
クリフサイド本部へと軽く襲撃をかけてきたトキとシャドウロイド、その他量産機兵たち。トキも洗脳されており、意識を失わせることによって何とか洗脳から解放することができた。
しかし…
「じゃあ何でルビーさんは洗脳解けてるんっすか」
要点はそこである。アルマはルビーを見つめながらそう疑問を口にする。
クリフサイドや他の生存者たちに助けられたわけでもなさそうであるし…自力で洗脳から逃れたとしか思えない。その方法がわかれば、かなりの進歩となる。
アルマはそう考え、ルビーに質問するも…現実は残酷であった。
「それが…お腹がすいたから何かご飯がないかと思って、"集団"との進行方向から逆走しちゃったらしいのよ〜」
「?」
基本"洗脳"は本能をも従え、ガンダーラ軍のためだけに動くおもちゃの兵隊と化す…というのが共通見解だったはずだが。彼女は何を言っているのだろう。
「そしてしばらく歩いて、気づいたら意識を失っちゃってて…その拍子に洗脳も解けたみたいね」
「?」
本当にこの人は何を言っているのだろうか。いや、人ではなくてウサギであるけれども。まあ、一つ明らかになったことはこの方法はイレギュラーすぎるため基本当てにならないということか。
「ところで、まだ何か食べれるものはないかしら?」
「もうないっすよ……」
3日分は持つと思っていたはずの食糧が、全てルビーの胃袋の中に入ってしまった。しかも、恐ろしいことにまだルビーは満足していないようだ。非常にまずい、まずすぎる。
「これは…この街の攻略は、短期決戦で行かなきゃならないかもっす」
アルマはそう結論に辿り着いた。まあ…この時は知る由もなかったのだが、短期決戦でないとこのエリア5の攻略は不可能であったから、結果的にルビーのこの食欲がアルマたちを救ったのだった。
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あの後リヴァはラークと別れ、その後死の街に辿り着いた後は一旦ジョニーとも別れた。死の街の探索を本格的に始めたリヴァは、アイアンハチドリヘイ、オルタナリース、モノセラノイドを片手間に凍らせながら今後の方針で悩む。
まあ例の潜伏アイテムの十字架アクセサリーがあるから別に雑兵は無視してもいいのだが、強い自分が片付けてしまった方が後の者たちが楽になるだろう。
「‥ァ」
「シカリ…」
「やれやれ。ここまで数が多いと嫌になるなの」
あれから数時間後。リヴァは大量の雑兵たちを、根絶やしにしながら探索を続けていた。1体1体も決して弱くはないしむしろ強い方ではあるが…
あくまで世間一般からの認識がソレなだけでありリヴァなどの猛者からしたら別に大した脅威などにはならない。
辺りに氷塊が散乱し、これにてひとまず雑兵の処理は終わり、氷の竜は歩みを続けるのだった。
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「は?撒き餌が一人減った?」
「どうやらそのようでございます…問い合わせた結果、撒き餌一人減ったくらいで姿を現すわけにはいかないとのことでした。本来は洗脳が解けそうになったらザルドアが連れ戻す役割なのですが…あいにく彼女はエリア3で特別任務を果たしている最中。それにまさかグレイド様もあのウサギの洗脳が解けるとは思ってなかったみたいでして…」
この荒廃した街の大地に体をうねらす黄色い粘液の名はガルゼドール、この街の維持に欠かせない大幹部『四ノ厄災』の一人だ。
彼女は特級戦闘員隊長である鳳凰のアルベロから以下の報告を受け困惑する。もっとも、ガルゼドールの担当は街のパトロールであり撒き餌に関しては管轄外ではあるのだが。
「まあ、確かに彼はそう易々と姿を見せるわけにはいかない死の街最終兵器ではあるけどさ…うーーーん、まあ仕方ないか。それで?戦力の損傷具合は?」
各世界の英雄たちがこの街に集結しており、死の街側も割と損傷が激しい。ガルゼドールは強者たちの処理を頻繁に行なっているのだが、それでも処理が追いつかないのだから異常。生存者たちの抵抗も想像以上に激しいのだ。
「特級戦闘員が既に2体は陥落、弱い方のオルタナクラブも陥落しましたね。他は四ノ厄災はもちろんパチモンオーシャンにスカルミーネやメタル・シー・魚、中怪草などなどとくに問題はありません。それに、アレを利用した最強兵器の開発も順調なようです。そして特級戦闘員は2体ほど陥落しましたがクラゴア様の開発したフォルトナ様直伝終焉の加護を再現した汎用戦闘機『ロストナイト』もまだまだ残存しています」
ロストナイト。それはシャドウロイドがあまりにも蹴散らされまくっていることに危機感を覚えたグレイドが早急にクラゴアへ開発させた汎用量産機の一人。
フォルトナの技術がある程度搭載されており、一体一体がボス級の存在。それがロストナイトだ。街の至る所を闊歩している個体もいれば、洗脳した者を撒き餌集団の元へと輸送するための護衛として使われている個体もいる。そして何より…
「ふーん…ロストナイトは確か100体の集団で行動させてもいたよね。そっちは今どうなっているんだい?」
「この街の主戦力であるあれですが…今は動作テストなど諸々の途中ですね。まあそろそろそれらのチェックも終わる予定です、あれらは不具合を起こしたらまずいですからね」
それらを聞いたガルゼドールは満足そうに目を瞑りしばらく思案した後、少々体をうねらせながらアルベロに対してこう告げた。
「なるほどね…オッケー、大体わかったよ。それで、ボクはこれからどうすべきだって?」
「今グレイド様は本部の方にいらっしゃいます、なのでこれはバーディア様の指示なのですが…ガルゼドール様はオルタナクラブを打ち倒した者たちの処理と、この街に侵入してきたであろうアルマジロと脱走したウサギを探し処理してもらいたいそうです」
弱い方とはいえオルタナクラブを倒せる実力者が今この街の雑兵たちを蹴散らしている。あまりに暴れさせすぎるといくら雑兵とはいえ死の街幹部側の被害も大きくなるため、ここはとっとと蹴散らしておきたい。
そして、ガンダーラ軍に仇なすレジスタンス『クリフサイド』の一人がこの街にやってきているらしい。それらの処理をガルゼドールはしなければならないというわけだ。
「でも謎の氷使いも暗躍してるんだろ?そっちはどうするんだい?」
「そちらはハクジャ様を向かわせるつもりだそうです。トタラに氷の精度を確かめさせたところ実力は四ノ厄災級、撒き餌にするには勿体無いと申しておりました。その点でもハクジャ様が適任だとか…こちらは大体の位置特定も済んでいるので問題ないかと」
「なるほど、まあクラゴアも他エリアに行ってるしバーディアも臨時管轄者としてあそこから動くわけにはいかないだろうから妥当だね。ボクは氷使いあんま好きじゃないし。わかった、その方向でしばらく動いてみるよ」
死の街を制圧しようと動き始めた英雄たちだったが、死の街幹部側も黙っているわけにはいかない。死の街の魔の手が各々の命を脅かそうと伸びていたことに、生存者たちの彼らにはまだ知る由もない。
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「ケハハハハハハ!ネリンと言ったかぁ、お前さんも魂を喰らってるんだってぇ?俺っちとお揃じゃねえか!仲良くしようじゃーん?」
「…魂を不躾に貪り喰らう貴様と妾を一緒にするでない」
「ケハハハハハハ!!!」
「ゲギャギャw」
「おんどれは同調して笑ってんじゃねえよ」




