エリア五 13話『遭遇!レジスタンス』
ルビーは地べたに這いつくばり、彼女の顔色は悪く、呼吸は荒い。
「お前の仕業か…!?」
アルマがルビーに駆け寄り体を揺すぶり、ノアは剣を持ちがぶらにカマをかける。
口は悪いとはいえ話は全然通じていたとは思っていたが、忘れてはならないのが相手は妖怪であること…人間の価値観で推し量ってはならないというのか。
「ま、待てや!これについてはわれぁなんもやってないわ…あんまり勝手に言うとんちゃうぞ!」
しかし、がぶらはこれについては完全に否定。怒鳴り散らしながらも自分の身が潔白であることを主張、彼からしてもルビーの身に起こった異常事態は想定外なのである。では、何が原因だというのか。
「ノアさん、どうしようっす…」
「すー……すー」
アルマに揺すぶられているルビーの目は閉じ、静かに呼吸音が辺りに響く。声をかけても反応はもうなく、彼女は眠り姫のような状態に陥ってしまった。彼女は実はかつて病弱だったらしいが…持病が再発したとでも言うのか。
「そんなわけはないはずだ。思い当たる節は…………」
ルビーが突如高熱を出しうなされている原因について思案していると、ノアの脳裏にリヴァから言われたある言葉が頭によぎった。
『私は状態異常系何一つ効かないから大丈夫だったけど、ハクジャは病魔に関する攻撃もしてきた覚えあるから状態異常系に打たれ弱いアルマはちょっと心配だったんだけど大丈夫でよかったなの』
「…そういえばあのとき、ルビーはハクジャに噛まれていたな」
ハクジャ戦にて、ルビーは一度ハクジャに噛まれていた。紫色の猛毒の吐息には触れていなかったし、ルビーは一度ハクジャの攻撃を喰らって麻痺していただけでまた動けるようになったから大丈夫だとは思っていたのだが…
「遅効性の毒だった、ってわけっすか…?」
「としか考えられないな…!」
「われ抜きで話進めんでもうていいか」
冷や汗を掻きながらアルマとノアが昏睡状態に陥っているルビーを助けようと話しているが、彼らは別に医学に関する専門でもないので手の施しようがない。回復魔法による回復も流石に病気までは治せないので手詰まりである。
「少なくとも、ここからは移動したほうがいいな…またいつ雑兵が来るかわからない」
ここは危険地帯、死の街。汚染されひび割れた道路の上にいるわけで、いつまたガンダーラの者が来るかわからない。彼らを避けるためにも速やかな移動が必要だ。
「がぶらさん、ルビーさんのこと背負って欲しいっす!」
「は?何故われがそこまでしなきゃなら…」
「いいっすから!僕だと体格の関係で背負えないし、ノアさんがルビーさんを背負うとなんか嫌な予感するっす」
「お、おう…し、仕方ないわな」
アルマの圧に押されたがぶらは渋々人間形態へと戻った後ルビーを担ぎ、そして彼らはこの場から移動を始めた。といっても、そんな遠出するわけではない。
「ひとまず近くの民家に避難するぞ。薬も何もないが…とりあえず安全なところに寝かせよう」
「建物自体はいっぱいあるからありがたいっすね〜…ただ100%安全とは言えないから怖いっすけど」
「またいつ見つかるかわからんからのう」
民家の中にいたとしても必ずしも安全が保障されてるとは言えない、一時的な滞在ならまだしも長期的な滞在となると苦しいものがあるだろう。
アルマ、ノア、そしてルビーを背負ったがぶらは民家の中に入り中でルビーを…
「お前たち、いったい誰だ」
「く、今度はなんだ」
「また女か…わ、われは、が、がぶら。こ、ここで食い散らかしてやるわ」
「落ち着くっす!ええっと、僕はクリフサイドのアルマ。あなたは誰っすか?」
しかし、ある先客が既にこの民家にはいた。先客である紫髪の少女はがぶらたちに対して竜王刀の切先をこちらに向け、敵意を露わに。見た目こそ小柄であるが、握り締められるその刀と彼女の放つ殺気が非力なただの少女ではなく歴戦の猛者であることを示唆している。
焦りで冷や汗を落とすノアと女を背負わされて明らかに挙動不審になりつつあるがぶらも臨戦体制へと移るが…アルマが彼らを制止する。
雰囲気的にガンダーラの者ではない、しかしがぶらも知らないとなると捕虜でもないようだ。となると…?
「名前?あたしはライラ、この街で活動するレジスタンスの一人さ。その目、嘘はなさそうだな…そうか、お前たちがか」
竜王刀を携え、紫髪を揺らす少女はライラと名乗った。彼女はアルマのいっしょうけんめいな目を見ると、紫色の瞳を細めて剣をおろし、こう告げる。
「いやー、さっきは悪かったな。なにせクリフサイドと名乗って擬態して攻撃してくるヤツがこの街には何人かいるからね…油断も隙もあったもんじゃない」
「あー…そういうのもいるのか」
「姑息な手段とりやがるのぉ」
ライラの態度が軟化すると同時にノアと眠れる赤い宝石を背負うがぶらからも警戒が解ける。しかし、擬態して隙を見ては襲いかかる魔物もいると聞き…
「な、なんじゃ。われに何か言いたいことでもあるんかぁ!?」
「これ怒ってるのか焦ってるのかわかんなくなってきたっすね」
「まあ本当に敵ならわざわざ病持ちのルビーを背負ったりしてくれないだろう…多分」
その話を聞く限りついさっき出会った変身可能ながぶらが怪しくなってきたが、彼が本当に敵ならばルビーが眠り姫と化している時点で襲いかかってきていただろうし流石にその線は薄いだろう…そもそも、彼はそういうの得意じゃなさそうだし。
「失礼した。俺はノアでこっちはアルマ」
「え、えっと」
「この人はがぶらさんで背負られてるのがルビーさんっす」
「よろしくな…なあ、そのウサギの子は寝てる…わけではないよな」
女に対してちゃんと目を合わせて喋ることができない引きこもり妖怪をアルマがフォローし、ひとまず一旦それぞれの自己紹介を終えると…ライラの視線がルビーに向く。
この静かな民家に儚い呼吸音だけが響くが、それがただの寝息でないことは誰の目から見ても明らかであった。
「あ、そうなんすよ…ルビーさんがハクジャの毒にやられちゃったみたいで…何か薬とか持ってないっすか?」
「俺たちでは病を治す方法がない、だからどうしようか考えていたところだったんだが…イアンがいればどうにかできたんだが」
「な、なあ、そろそろこのウサギの幼子降ろしてええか?」
ハクジャの毒にやられ今はルビーは戦闘不能どころか起きることすらできない。ひとまず民家に寝かせておくしか手段を考えられなかったのだが、もしかしたらレジスタンスである彼女なら何かしら薬の類を持っているのではないか。
もっとも、それは希望的観測に過ぎずこれが外れたら今後の活動はかなり厳しくなるだろう…
「そうだね、卵はその状態だと食べれそうにないから…命の精霊のところに連れてったらなんとかなると思うぜ」
「本当っすか!?」
「そ、そその命の精霊とやらはどこにいるんじゃ」
しかし、神はまだ彼らを見捨てていなかったようだ。ライラ曰くルビーを治せる存在が一人この街にいるようで、その名は『命の精霊』。彼の手なら如何なる傷も病魔も治し切ることが可能である、しかし居場所が掴めていないなら彼を探す手間が生じるのだが…
「あいつはレジスタンスの一人、おそらく今アジトにいるはずだがどうする?そこまで案内しようか」
彼女は片目を閉じながら親指で後方に指差し、計四人が活動している本拠地のアジトへと案内をしようかと提案する。
「!!頼めるか」
「ありがたいっす!」
「な、なあ…誰か代わりに背負ってくれへんか?」
もちろんこれを断るメリットはない。正直、眠り姫と化したルビーを背負いながら死の街を探索するなどはっきり言って無茶…エリア攻略をリタイアする方向で考えていたため、この思わぬ救世主には感謝しかない。
「こっちだぜ、ついてきな」
こうして、ライラの案内でクリフサイドたちはレジスタンスたちのアジトへ向かうことになったのであった。
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「ここだぜ」
「?なんもないっすけど…」
ロザリオなども使いつつ身を隠しながらライラの案内通りやってきたが、ここには何もないように見えアルマは困惑する。そこにあるのは禍々しい物体とコンクリートと壊れて倒壊するビルだけである。
「こういうもんは普通地面の中にあるもんちゃうんか?」
「お、正解。そうだね、ここをこうするとな…」
結局ルビーをずっと背負わされているがぶらが地面を乱暴に蹴りながらそう話す。本当に気まずいから降ろしたいのだが、今のメンツだと一番力が有り余っているのががぶらなのでずっと力仕事をやらされている。まだクリフサイドに加入するなんて一言も言ってなかったはずなのに。
さて、がぶらの予想は正解。ライラが地面に竜王刀を突き刺すと…地面の中からワープホールのようなものが出てきた。
「ここから行けるってわけ」
「む、気づかなかったな。魔力…とはまた別のものな気はするが、これはどういう仕組みだ?」
「これは魔法と科学の二つから作られた最高級の逸品だぜ。このワープホールを持ってきたのはウル男、そしてそれをうまく改造したのは我らがリーダー、ゼリフってわけだ」
「へぇ〜…すごいっすね」
ふふんと自信満々な顔をしているが、ひとつ言っておくと彼女はこのワープホールの作成に何ひとつ関与していない。まあそこはいい、早速中に入ろうではないか。
「帰ってきたぜー!」
ライラは竜王刀を肩に担ぎながら同じレジスタンスのメンバーに帰還を告げる。少しご機嫌に見えるのは、多分気のせいだろう。
「…やっと帰ってきたか」
「ファーアー!」
ライラに応えるのは顰めっ面になりながら書類を眺めているウニ、ゼリフと彼の帽子の上に乗っかっている傷ある者を全て癒す命の精霊。そして…
「なんだ人間ちゃんかよぉ、仲良くしようぜ」
「は?なに?」
「やっぱりよ…人間ほど愚かで醜い生き物は存在しないからよォ、お前を見てると安心すんだよ」
「てめぇとはそろそろ決着をつける必要があるかもしれねえな」
人間…厳密には違う種族だが、少なくともそうとしか見えないライラにいきなり喧嘩を売り出すこの狼男の名前はウル男。生物兵器とされた彼は非常に人間を毛嫌いしており、人間の殺し方ならいくらでも知っている。
ライラとウル男がファイティングポーズを取り出すが、お互いに手を出すとリーダーによるキツい制裁が待ち構えているためグルルと睨み合うにとどまる。まあ、そんなことはいい…
「ここが例のアジトっすか」
「とっとと命の精霊ちゅうやつを探すんや、いい加減この娘を降ろしたいんじゃ!」
「わかってるさ。ええっと、お取り込み中すまない」
「あ?」
グルルとライラを睨んでいたウル男はノアに声をかけられ振り向いた。すると彼はさらにその顔を歪ませ…
「うるせぇ黙れ死ね!!今この状況が見てわからねえかよ、オレは今機嫌が悪いんだ、次そのしけたツラ見せたらブッ殺す!!」
「ご、ごめん………」
ウル男に畳み掛けられたノアは反射的に謝罪してしまい、一瞬でしゅんと凹んでしまった。ルビーの件といいウル男の件といい、異世界に人間の生きる場所などないというわけなのか?うごごごご……
「…」
「お、おい!あんまり落ち込むなって!」
ウル男に怒鳴られた結果ノアが明らかに落ち込み始め、それを見かねたライラが彼を励まし始めた。なんとなく自分か、いやそれ以上にこの世界で存在否定を受けたのだろう、可哀想に。
「まああっちはあとでいいか…ええっと、命の精霊って人知らないっすか?」
「お、ちっちゃいアルマジロちゃん、名前はなんて言うんだぁ?命の精霊ならあそこだぜぇ」
「ファー?」
アルマがウル男に尋ねると、命の精霊は自分の話題を出され頭の炎をハテナマークへと変える。まるで自分に何か用でもあるのか、と。
「ルビーさんが今病でうなされてて、それの治療を頼みたいんだけどいけるっすか?」
「ほんまたのむわ!」
「ファーハー!」
要件を告げられると、命の精霊はお安い御用だとばかりにがぶらによって丁寧に床に仰向けにさせられているルビーの元へとやってきて、そして頭の青い炎を彼女に翳す。神秘的でかつ万物をも癒す炎、それはたとえ相手がどんな病でも関係なく…
「ん、うーん…あら、アルマ」
「起きたっすか!!!」
ルビーが目を覚まし、アルマは心から安堵しほっとため息をつく。昏睡状態になった時はもう終わりかと思ったが、奇跡というものはやはりあるものなのか。さて、目覚めたルビーにはどうやら気になるものがあるらしく…
「俺は元の世界に帰るべきなのかもしれない」
「だ、大丈夫だから!人間同士仲良くしような…」
「……あそこは何があったの?」
「知らんでええわ」
「えーっと、どこから説明すればいいか…」
ルビーの朱色の瞳に映っていたのは、異様に落ち込んで項垂れるノアとそれを励ますライラ。一体、自分が昏睡状態に陥っている間に何があったというのだ。




