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葉子

作者: kumi


彼女は首をくくって死んだ。



母親が見つけたそうだ。


半狂乱になった母親は

空を掴むように

ぶらさがる彼女の足首を求めたんだって。


空気を何度も何度も

かき混ぜるように

掴もうとしたんだって。


人伝えに聞いた。


彼女

透き通るように綺麗な子でさ

勉強も出来て

サッカー部のマネージャーもしていて

男の子に人気で


でも

面白い子だから

女の子にもいつも囲まれていたんだ。


夏の日差しみたいに

弾ける笑顔が転がって


周りを明るく照らしていた。




でもね


彼女は

いつも泣いていた。


誰もそんなこと知らないよ。

私も

誰にも言わない。

いつの間にか

私達二人だけの秘密になっていた。



辺りが暗くなる頃

彼女は泣きじゃくることもあった。


子供じみた泣き方で

周りなんて気にしないで

しゃくりあげて泣いていた。


「誰も私のことをわかってくれない」


そう言って

飲みかけていたジュースを投げつけた。

つぶつぶオレンジが路上に散る。


「お母さんは私の話を聞いてくれない

お母さんは私を好きじゃない」


泣く。


「あのクソババア」


呟いては

泣いていた。


何があったのか

彼女は言わない。


でも


何かがあったということは

彼女が言葉にしなくても分かっていた。


だから私は

聞かないでいた。


夕暮れ時が近づくと

彼女は

私に電話をかけてきた。


暗がりに

制服のスカートが揺れる。


私を見つけると細い足が駆け出す。


彼女の泣き場所は私だった。


「ねえ クソババア どうしてる?」

私がそう聞くと

彼女はころころと笑った。


私はクソババアの味方じゃない。

でも

敵でもない。


彼女はつぶつぶオレンジを

一口飲む。

そして


「あんたがさ

クソババア なんて言うの 似合わないよ」


そう言った。


きっと 

自分の母親が 他の誰かに

クソババアと呼ばれることを

彼女は好まなかったのだと思う。


だってさ

彼女

母親を嫌えないんだもの。


クソババア クソババアって

何度も言いながら


最後は


「でも


私のお母さんなんだよね」


そう自分に言い聞かせるように呟く。


親を嫌う子供っていないのだと思う。

だから

苦しむ。


嫌えたら

きっと苦しまない。


大嫌いになれたなら

こんなに泣きやしない。


優しい子は 

親がどんなであっても 嫌えやしない。


その夜

彼女は珍しく泣かなかった。


風に吹かれていた彼女は

持ち手を失った風船の様に見えた。


ふと


どこかへ

飛んで行ってしまいそうで


私は思わず

彼女の右腕を掴んだ。


彼女は驚き振り向いた。


でも

私の手を振り解かなかった。




葉子っていう名前だったんだ 彼女。


葉の様に

太陽の光を受けて欲しいって

つけた名前なのかな。


葉の葉脈のように

筋の通る子になってほしい


周りへ

生きる活力を運ぶ子になってほしい


そんな想いを持って

つけた名なのかな。



私は

空を見上げた。


太陽が眩しい。

葉子のことを思い出す。



ああ

やっぱり


やっぱり

葉子は

太陽の様な女の子だった。


間違えない。

葉子は

太陽の様な子だった。



私は

そう思った。









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