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04 やり直し初投稿の作品。




 部活に参加した分、帰宅するのも遅くなる。

 でも昨日、一応食材を買っておいたので、夕食を作ることにした。

 すぐに作れるハヤシライスだ。


「お姉ちゃん、ハヤシライスが作れるんだね!」


 小学生の妹が目をキラキラさせた。


「そうだよ。簡単だから、奈緒にも教えてあげるから覚えてね」

「やったぁ~!」


 この時期の妹は、可愛いなぁ。将来借金ばかりしている金遣い荒いモンスターになるなんて、悲劇だ。悲しいねぇ、よしよし。


「次は、シチューを作ろうね」

「シチュー好き!」


 今夜はハヤシライスを作って、一緒に食べた。

 宿題や明日の授業の準備を終えた私は、日記ノートを開いて今日の出来事を書き記す。

 イラストデザイン部、イラデザに入ったこと。一度目と違い、早く出会った友人達と友だちになれたこと。

 そして、昨日投稿サイトを見て、ファンタジーの小説を投稿したくなったことも書いた。


 書くなら、異世界転移モノだろう。


 乙女ゲーム転生や悪役令嬢モノは、まだ早すぎる。乙女ゲームモノも流行していない時代だもの。

 ちゃんと見極めないとウケない可能性が大だ。


 異世界転移から始めていき、そのうち異世界転生モノを書いていこう。


 なんなら、私が異世界転生モノの流行りを作ってやる。その意気で挑んでいきたい。


 一度目は、流行りに乗った作品で書籍化デビューをしたが、自分で流行りを作るなんて最高じゃないか! これぞやり直しが成せる業よね! ワクワクしちゃう!


 まぁ、そのためには、時間を待たなくちゃいけないんだけれどね。


 でも、私には幸いやることが多い。中学生だもの。さらには複雑な家庭環境の長女である。

 日記ノートを振り返ると、いくらでも書くことがあるであろう現状の家庭環境について、一切書かれていなかった。


【気まぐれなあたしは日記を書くことにしたよ! ちょっと恥ずかしい!///】


 って書いてて、読んでいる私の方が恥ずかしかった。

 照れている記号、///はもうこの時期にはあったんだね……。一人称が”あたし”だった……。そんな時期が、私にもありました。


 この家庭環境について一切触れないのが、逆に痛々しい。目を背けていたかったのだろう。私だって思い出したくない記憶だった。ロクに覚えてもいないし。


 そもそも、荷が重いよね。愛してもくれない父親の元で、弟と妹の面倒を見て、中学生活をこなすなんて。中身が大人である今なら、なんとかいけるけれど、本来ならこんな余裕なんてなかった。


 朝は朝食を弟達の分も用意して登校。帰ったら、掃除して夕食の準備をして宿題。


 大変なシングルマザー並みの労働である。


 父親に嫌われていると知った思春期の女の子に課すべきではないだろうに。


 二度目だから客観的にそう思えるし、一度目の自分はよくこんな過酷な生活を乗り越えたものだと褒めたい。


 まぁ、学業は集中したくとも集中出来ず、家に寄り付かなずに遊び回って、それなりに発散、または現実逃避をしていたのだろうけれど。


 二度目の人生、遊び回ることは少なくなるだろう。一度目はどこで何していたっけ、と記憶を掘り起こしてみれば、古本屋やゲームセンターに入り浸っていた。お金も時間もあったのだ。そうなってしまうだろう。


 二度目の人生、ガラケーで小説を書くぞ!


 残念ながら、今現在PCを持っていない。二週間に一度にもらうお小遣いを貯めて、ノートパソコンでも買おうかな……。いや、このお小遣いは生活費だ。あまり余裕はない。


 幸いなことに、私はガラケーのボタンで執筆することに慣れていた。なんなら、書籍化デビューした作品は、ガラケーで書いていたからだ。世間がスマホに乗り換えて行っても、私はガラケーのボタン操作が好きで、高校卒業してもまだガラケーだった。スマホの二台持ちをしても、ガラケーは執筆用に使っていたくらいだ。いつでもどこでもガラケーで書いていたことを思い出すと、これまた懐かしい気持ちになる。


 だからPCがなくても、やっていける自信があった。


 未来でまだローンの残っているデスクトップパソコンを思うと、涙が出てきそうだけれどね。高かったハイスペックパソコン……トホホ。


(二回目の初投稿作品か……! 迷うな)


 実は、小説投稿サイト『小説家になりましょう』を見つけたのは、高校生の時。当時、ドハマりした海外のゾンビドラマの影響で、なんでもいいからゾンビモノを摂取したかった私は、小説でもいいからと検索をしていた。そして見つけたのが、『小説家になりましょう』だったのだ。そこにゾンビモノの小説を投稿している人がいた。それをちょこっと読んだだけだった私は、こういうサイトがあるのかぁ~、と見事に気が逸れて、自分も何か書きたくなって投稿を始めたのだ。


 ちなみに最初に書いて投稿した作品は、好みが分かれる内容だった。ヒロインが殺人鬼で殺し屋になるというダークファンタジー寄りで、恋愛要素もぶち込んだもの。好きだから書き上げた作品は、そこそこファンもいてくれた。


 今現在、その作品はない。この世にないのだ。それは悲しいことだと思う。


 けれども、もう一度書くには私の記憶力がやっぱり雑魚すぎて、シーンの漏れなく書く自信がなかった。

 でもいつかは書きたい。私の作品だ。書き直すつもりで、再び書こう。そして、一度目のファンの人達と巡り合って読んでもらたい。


 私の書籍化デビューを果たした作品は、乙女ゲームの中に転生した脇役の物語。

 乙女ゲームモノの作品も、流行らせていきたいな。

 そして、書籍化デビュー作品であるその作品も、私はまた書きたい。また世に出したい。


 書き始めたのは、私が二十歳になった頃だった。乙女ゲーム転生モノが流行り始めた真っ只中で、毎日更新していき、たくさん来る感想に返事をしていった。それから、出版社に打診をして、書籍化を勝ち取った作品だ。


 私の原点。待っててね、いつかまた書くから。


(書きたい小説がいっぱいだ)


 他にも、書籍化作品、コミカライズ作品もある。それらが再びオファーがもらえるタイミングもあるだろうから、タイミングは見計らっていかないといけないよな、と思う。


 忘れてしまう前に、今のうちに書き留めておこうかな。


 書籍化作品とコミカライズ作品のタイトルとそのあらすじを、日記ノートの最後のページにメモっておいた。


 時間がかかってしまったから、妹がいそいそと布団を敷き始めてしまう。まだ夜更かしすると謝っておいて、私は初投稿する作品の構想を書き留めた。


 中学生という若さがあるので、多少の遅寝は問題ないだろう。若いってすごい。


(初投稿作品は、異世界転移モノ!)


 異世界に呼ばれてしまう恋愛要素強めの作品を、短編で書いてみよう。

 一度目では書いていない、全くの新作。


(異世界に呼ばれた理由は、ヒロインが聖女だから! 異世界を救うために女神に召喚されて、帰るためには魔王を倒さないといけない王道ファンタジー。それに加えて、度に加わる最強王子と恋愛要素を書く!)


 その短編のプロットを短くまとめて書いたあとに、私は就寝した。

 頭の中は、その新作の聖女モノでいっぱいになりながら。



 翌朝、三人分の朝食を用意して食べて、弟達に忘れ物はないかとチェックをさせてから、先に登校をした。


 まだ他の生徒が朝の部活動をしている時間帯に、教室の隅っこでノートを広げて、小説を書き出す。

 家に帰ったら、ガラケーで入力しないといけない二度手間だけれど、こういう時間の有効活用で書く。


「おはよう、仁那。何書いてるの?」


 リカが部活を終えて教室にやってきたから、話しかけてきた。

 私はノートを閉じて、にっこりを笑う。


「小説書いてる」


 別に隠すことじゃない。

 まぁ、一度目の私は成人式に参加しなかったし、同窓会も引っ越してて連絡をもらえずだったので同級生に会えなかった。小説家だということは隠してはいないから、SNSで出版した小説を宣伝していた。

 だから、今も書いていることは隠さない。


「え~? どんなの? 見せて」

「だめぇ~」

「えぇ~?」


 私はプロだぞ。無料で見せるものか。いや、投稿サイトで無料掲載するけれども。

 流石に書きかけは見せられない。だめです。


 笑顔で断るから、リカも追及しなかった。


 授業はしっかり受けて、休み時間に入るなり、執筆をする。


(小説手書きしんどーい!!)


 流石に、手書きは疲れた。あと漢字書けない。困った時は、携帯電話の変換機能を使いたかった。けれど、中学は携帯電話を持ち込んではいけない。


 そもそも、この中学は少々規則に厳しいのだ。靴下は、絶対に白。髪型は、低い位置で一つか二つ縛り。肩につく長さは、必ず黒や茶色のゴムで結ぶ。もちろん、髪染めは禁止だ。制服の着崩しは、禁止。ガッチガチの校則なのよね。


 まぁ、ひっそりと漫画を持ち込んでいる生徒はいるけれどね。なんなら、私も二三年生になると、携帯電話をスクール鞄に忍ばせていたっけ。授業中、マナーモードのバイブ音が聞こえた気がして、スクール鞄をしまい込んだ後ろのロッカーを何度か振り返った記憶がある。


 私の髪が背中まで伸びているのは、美容室にも行かないからだってことに今気付いた。この頃は、母親に言われないと髪を切りに行かなかったんだっけ。おさげにした髪の先を摘まんで、見つめる。


 二十年後の私は、テンションを上げるために髪を明るくいていたけれど、今は黒。この黒髪が頑固なのよねぇ。高校生の時に叔母が染めてくれようとしたけれど、全く色が入らなかった。美容室でも全然色が抜けないと苦笑されたっけ。


 流石に在学中に髪を染めることは出来ないし、そもそもするつもりもないけれど、髪型は変えようかな。初めてショートヘアにしたのは、高校卒業前だっけ。


(……いや、ショートヘアは流石に嫌かな。ボブヘアは維持が大変。やめとこ)


 余計な出費になりかねないので、髪型はそのままにすることにして、今日も玉木さんと一緒にイラデザの部室に向かった。


 今日は、ヒロインの聖女ちゃんをイメージして、女の子を描いてみる。


「新田さんの描く女の子って可愛いよね」

「ありがとう」


 苗字呼びをしてくる友人に寂しさを覚えつつも、昨日会ったばかりだからしょうがないと割り切った。


 そこから、どの漫画家の絵柄に似ているかって話になる。


 私の絵柄は、多分今連載中のねぇ……。


 と話に花を咲かせたあとは、隅っこで黙々と小説の続きを書いた。



 すぐに部活動が終わったので、スーパーに寄って食材を買う。今日は唐揚げを作ってあげよう。

 献立を考えるのは大変だから、弟達に要望を聞いておこうかな。冷凍食品とかでもいいかも。


 私が運動部だったら、流石に泣いていただろうなぁ。疲れすぎて。文化部で、まだよかった。

 油の跳ねにビビりながら、唐揚げ粉をまぶした鶏肉を揚げる。小学生の兄妹に喜ばれた。



 人生やり直しで書き始めた初めての小説。

 異世界転移の聖女モノの恋愛ファンタジー。二万文字の短編を一週間で書き上げた。


 私は、初めての投稿したのだった。


 当然、フォロワーの一人もいない全く新しいスタート。すぐには読まれず、評価もつかない。

 二十年後ならフォロワー九千人いて、新作投稿するだけで、すぐに読んでくるファンがいたけれど。


 もう一度やり直すということは、そういうことだ。


 気長に待とう。そう思っていても気になってしまうもので、アクセス数を一時間置きに確認してしまった。

 そのうちに評価がついて、ガッツポーズをする。まだまだ少ないが、読まれたことに嬉しくて笑みが零れた。


 二十年後と比べると、天と地の差だけれども、満足して眠る。



 翌朝、なんとなくアクセス数と評価を確認してみると、感想もついていた。


(二十年後は感想を受け付けない設定したけれど、現在だと自動で受け付ける設定になっていたのか……)


 初投稿にして初の感想。どんなものが来るか、ドキドキした。

 正直、精神面に悪い感想が来るのが怖くて受け付けない設定に切り替えていたから、怖い。

 開くまでは、いい感想か悪い感想かなんてわからないんだもん。


(ええい、ままよ!!)


 投げやりにボタンを押して、感想を開く。薄目で見てみると。


【本好きのノア

 面白かったです。長編として読みたいです】


「……!!」


 鏡を見なくとも、ぱぁああっと顔が明るくなったと感じた。

 いい感想をもらえた。やり直しをしてからの初感想。


 嬉しくて、ガラケーを抱き締めて、噛み締めた。


 フォロワーも、1と表記されていたのだった。



 


もしも自分が中学生をやり直したら〜、の妄想を前々からしていたのですが、とあるドラマをキッカケに書いてみることにしました。

羞恥心との戦いでした。


カクヨム恋愛大賞参加用なので、カクヨム先行更新しています。


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