13 君の知らない物語の主人公。
『本好きのノア』である山塚遠矢には、気になる人がいた。
それは同じジムに通う女性。名前も知らない。けれど、年下であろう美人である彼女が気になっている。
しかし、そんな彼女と口を交わすことはついぞ来なかった。
ジム帰り。自動車事故が起きたのだ。彼女が被害者。車に轢かれて倒れている姿を見て、目の前が真っ暗になったかと思えば、遠矢は高校時代に戻っていた。
懐かしい高校時代の教室と友人達。
これが小説でよく見る、人生のやり直しだと理解は出来た。ただ、疑問は晴れない。
特にやり直したいことはないと思っていた。強いて言えば、気になっていたあの女性をジムで声をかけていれば、事故に遭わなかったかもしれないから、時が巻き戻してほしいとは思った。なのに、こんなにも昔に時間が巻き戻るとは。
だいたい二十年前だろう。
遠矢はその日、二十年前ぶりの高校の授業を受けて、その時代の家に帰った。
高校時代の自分の部屋を見て、真っ先に本棚を確認。引っ越して手放した漫画や小説が詰まっていた。
遠矢は、本が好きだ。物語が好きだ。未来でも、たくさんの小説や漫画を読んできた。
そんな本が好きなあまり、自分でも出版作品に関わりたいと願ったほどだ。
自分で書くより、読む方が好き。
だけれど、作品に関わってみたい。だから、生まれ変われるなら、出版社の編集者になる夢を見た。
原因が何かはさっぱりわからないが、せっかくこうしてやり直したのだ。だから、その夢を叶えることを決めた。
そして、この時代の『小説家になりましょう』の投稿サイトを覗いた。一度目の遠矢は、この投稿サイトを知ったのは、大学に入学した頃だった。
だからアクセスするのは、数年早いし、先ずは無料登録からだ。
アカウント名は、未来と同じ『本好きのノア』にした。
数日の間、やり直しの高校生活をこなしつつも、この時代の小説を読んでいたが、ある日の新作欄に見覚えのあるペンネームを見つけて読んだ。
それが『三日月にーな』だった。
(未来でコミカライズ作品も出している作家の名前だよな……小説も何作か読んだことがある)
恋愛を中心に書いている作家だと記憶していた。まさかこんな時期も投稿サイトで執筆活動をしていたのかと、驚きつつも読んでみた。
(こんな昔から、読みやすくて引き込まれる文章だったのか! すごい作家だ!)
すぐにでもプロデビューしてもおかしくない作品に感動。
感想を送って、フォローもした。なんと、最近サイトに登録したばかりで、初投稿作品だったことに驚き。
自分が『三日月にーな』の一番最初のフォロワーになった。
それから、長編でも読みたいという感想に応えて、長編バージョンを書いてくれた作品を毎日更新してくれるので、高校生活をこなしつつも毎日の楽しみとして読んだ。
本当なら、毎日のように感想を送りつけてしまいたいが、いつも返事を返してくれるので、悪いと思い二日に一回、または三日に一回のペースで感想を送り付けた。
夢は、編集者。
他の作品もじゃんじゃん読んでいく。投稿サイトに載っている小説もそうだが、書店に並んでいる小説もライトノベルも、小遣いで購入して買っていた。
特に、ラノベ作家として有名な西谷先生の小説を買って読んだ。一度目では、発売してすぐに読んでいなかったが、やはり人気作品だけあって面白い。
(当たり前だけれど、二十年後の流行りモノはないなぁ……)
昔の小説を読んでいるのは、懐かしく楽しくもあるが、物足りなさがあった。
(異世界転生モノも、まだブーム前だからな)
なんて思っていれば、『三日月にーな』の二作品目の長編が異世界転生モノ。
驚きつつも、また毎日更新で読めることに喜んだ。つい先日、長編を完結したばかりだというのに。もう新作を投稿してくれた。
毎日更新をしてくれるその連載を楽しみつつ、学業に励む。
高校時代の友人達と程よく遊びつつも、将来の夢のためにも勉強。大学は、東京に進学したいと考えていたからだ。一度目は上京なんて考えていなかった。けれども、東京の出版社に就職をすることを目指しだのだ。
そんな遠矢は、未だデビューをしない『三日月にーな』に疑問を持ちつつも、それならいつか『三日月にーな』の作品を出版する編集者になりたいという新たな目標も持った。
なんなら、『三日月にーな』を作家デビューさせようかとも、一人ニヤニヤしてしまったくらいだ。
そんな特別な作家だった。
しかし、密かな願いは、叶わなかった。
けれども、喜ばしいこと。
ついに『三日月にーな』が作家デビューをすることに。
完結したあの二作品目の長編が、書籍化することになったのだ。
しかもさらに嬉しいことに改稿をし、番外編エピソードも書き下ろしたという。
遠矢は初めて、『三日月にーな』にメッセージを送った。
自分の妄想だった夢も書いて、気持ち悪いと思われたらどうしようかとも不安な気持ちもあったが、返ってきた返事はいつもと同じ。
感謝がこもった丁寧な文章だった。
そしていつの日か、編集者になった遠矢からのオファーを待っていると返答をくれたのだ。
自然と緩む口元。
夢を叶えようと、決意を新たにした。
この時、遠矢は同一人物だということを、まだ知る由もなかったのだ。
二十年後の未来で気になっていた、名も知らぬ美人の女性と、『三日月にーな』が同一人物だと知るまで、あと――――。
実は回帰したのは、自分だけじゃなくて、他にもいるし、なんなら神様がやり直しを叶えたのはこっち。
未来で顔を合わせたとしたら、遠矢が「え!? ジムのあの人!?」と気付きます。恋愛フラグをスルーする仁那は気付きません、認識していないので。
今回はこういう形にして、終えます。
もうちょっと仁那が書いている小説を少し描写とかすればよかったかな、と反省つつ、完結の形にさせていただきます。
自分が中学時代に巻き戻ったら〜の妄想から始まったお話ですが、
楽しんでいただけたら、幸いです。




