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心配する小人

 目の前でパンに食らい付く小人、スカルブリンが忌々しい。折角稼いだなけなしのお金で何故奢らなければならないのか。

 買う時に店員に変な目で見られた。悪目立ちはしたくないのに、というかいつもならスカルブリンが言ってくる事だ。目立つなと。


 人が迷いやすい辻に立って道案内をする事を覚えてからは、露店で買うことはよくある。一部の店では顔を覚えてくれているようで、普段はにこやかに応対してくれている。

 落ちているお金を拾えた日にだけ恐る恐る買いにくる子達に比べれば、自分はすっかり慣れた。だから、見た目が薄汚れていても、人の目に止まることは少ない、と思う。

 しかしそれは、相応の小銭を手に、一人で食べる分を買いに行っているから自然なのだと思う。

 今回は山盛り買った。こんなに買ったのは初めてだ。そのせいか、何を疑われたのやら、ジロジロと不審なものを見る目で見られたのが辛かった。折角慣れてきた店員さんだったというのに、いや慣れた店員さんだからこそ量に違和感があったのかもしれない。

 自分が二人居ても食べきれなさそうな量のパンを尻目に、手元に残った小銭を確認すると泣けてくる。晩御飯も食べたいから、午後も辻に立つ必要がありそうだ。


「どうした。食べないのか。旨いぞ」


 遠慮を知らない小人が偉そうに言ってくるが、その勧めてくるパンは本来自分のものである。自分で稼いだお金で買ったのだから、そうであるべきだ。つい恨めしく思ってしまって睨んでしまう。

 寝床の樽まで戻ってきて、その蓋をテーブル代わりにして食べているのだが、スカルブリンは蓋の上に座ってもパンを沢山置くスペースが確保出来る程に小さい。パンはどこに入っているのだろう。

 そして、小人が見えない人達にはスカルブリンが持つパンはどのように見えているのだろうかと、きっと一生わからないことを考えつつパンに手を伸ばす。


「で、話したいことって何?」


 不満や謎について考えていても小人は居なくならない。さっさと用事を済ませてお帰り願いたい。


「早速だな。少しは無駄話をしてブランチを楽しめよ」

「朝の散歩を楽しんだろう?」


 露店まで寄り道せずに向かったあの時間は散歩で良いだろう。小人は頭の上で寝転がっていただけだが。


「それもそうだな。久しぶりに乗ったしな」


 この小人は一緒に行動する時は大概頭の上に居る。昔から変わらない。

 ふらりと居なくなって、気付くと居る。気儘な性質なのだろう。人から見えないと気楽で良いな、と羨ましくなる。

 小人は口の中の物をごくりと飲み込んでから、小さな体で身を乗り出してきた。小声で話したいらしい。こんなところに来る人などそう居ないのに警戒しているところを見ると、よほど誰にも聞かれたくないらしい。

 姿が見える人は居ないのに警戒する理由は、声だけ聞こえてしまう人が稀に居るとのことだ。小人とは不思議な存在だ。

 耳を小人に寄せて何を言うのかと身構えていたら、数年前から起きているちょっとした事件についてだった。


「また消えたぞ」


 もう何人も消えているので驚きもないが、まだ終わらないのかと思うと不気味でゾッとする。

 消えるのは年頃になった孤児だ。孤児なので年齢はわからない。でも、力が付いてきて知識は無くとも労働力として何かしらな仕事でもあるかも、と希望を抱く頃合いのようだ。


「そうか。またか。どこに行ったんだろうな」


 この事を知っている孤児は少ないと思う。情報源が無い。捨てられた新聞には書いてあるが大抵の孤児は文字が読めない。自分もその一人だ。スカルブリンは読めるので教えて貰いたいのだが、何故か教えてくれない。記事を読んではこうやって教える方が面倒だろうに。

 こういう世話焼きなスカルブリンのような存在でも居なければ、文字を知らない自分達は警戒のしようもない。無防備に拐われているんじゃないだろうか。

 いずれ成長したら自分も関係してくるのだろうが、イマイチ実感は湧かない。成長とはなかなか年月が掛かるものだな、と思うだけだ。

 そもそもこの件が本当に事件なのかもわからない。自分からどこかへ行っている可能性だってある。


「そうだ。まただ。今はまだある年頃になった奴らだけだが、いつお前も対象になるかわからないぞ。警戒はしておけ」


 まだ自分には関係ない、そう言いたいが言えない。口煩く感じるが、スカルブリンが真剣な顔で忠告してくれるのは心配してくれているからだとわかっている。なんだかんだで腐れ縁なのだ。自分もスカルブリンが拐われるかもしれないとなったら心配になるだろう。


「それと、そろそろ寝床を変えろ」

「それもまたか、だな。まだそんなに経っていないだろう?」


 樽から出ろ、なんていう話ではない。住む場所を移せと言ってきているのだ。

 移す先がこの近くでも良いのであれば、この誰も使っていない樽ごと移動すれば簡単な話だ。しかし、歩いて数時間はする場所へ移れと言われるのだ。寝床の確保をしなければならなくなる。


「いや、お前は最近人とよく接触しているだろう。目をつけられているかもしれない」

「誰に?」

「この消える孤児の犯人にさ」


 思わずポカンとしてしまう。スカルブリンの顔を見る。そして、通りを行く人達を見る。年配の大人の隣を歩く、大人と子供の境目にいるのだろう、大人より少し背の低い男の子が見えた。

 確かスカルブリンが教えてくれた消える孤児の年齢はあれくらい、だったろうか。


「何を言ってるの。そんなに大きくないよ。それにこの場所は気に入ってるんだ。もう少し居たいんだよ」


 まだ自分はそこまで大きくはない。せいぜいあの母親の胸辺りまでだろう。腕だって細い。まだまだ子供だ。

 なのに無駄に怯えて場所を移すなんてあんまりだ。体の節々が痛くはなってきたものの、まだまだ耐えられる。

 軽く笑って話を流そうとしたが、スカルブリンの目が吊り上がった。怖い。


「スカー、俺は本気だ。とにかく数日の内には場所を移せ。西区にでも行くと良い」


 自分の名前を知っている唯一の友人である彼が、名前を呼んでくれることは少ない。呼ばれた時はどんなに拒否しようとも言うことを聞くまで言い続けられる。本人も言ったが、本当に、本気の時だけなのだ。

 小人の年齢は知らないが、色んな事を教えてくれるので親が居たらこんな感じかもと思っている。そんな存在にこんな風に言われたら、まだ居たい、なんて我が儘を言う気持ちはあっさりと萎んでいった。

 そんな憂鬱な気分で俯いていると、パンを食べ尽くしたスカルブリンは次の住処にできる場所を探しに出掛けていった。

 素直に頷けなかったものの、言うことを聞くつもりだ。こうやって素直になれないのは、スカルブリン曰く反抗期らしい。よくわからないがそういう時期らしい。親しい人にやってしまうとのことで、それはそれで気恥ずかしい。

 そんなとても大事な存在が去り際に言ったこと。


「お前、臭いぞ」


 あんまりだ。

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