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A Spoonful of…【未来屋 環SS・掌編小説集】

カレンダーを買ってはじめにやったこと

作者: 未来屋 環

 昨日、来年の手帳を買った。

 早速年末の予定を書き写そうと今年の手帳を開くと、12月の見開きページに哀愁の影が漂う。

 ぴかぴかの姿を見せびらかす新人に対し、1年間駆け抜けた先輩はなんだかお疲れ気味だ。


 ならばせめて最終ページは楽しい予定でいっぱいにしてあげようと、次々と予定を書き込んでいく。


 ノリで入ったバレー部の練習、月曜日と木曜日。

 周りに合わせて英語だけ(かよ)ってる予備校、水曜日。

 友だちと遊ぶ日、なんとなく火曜日と金曜日をジグザグ週替わりで。


 カラフルな文字があふれ、終業式まで空白の日はあと少し。

 残りはどうしようか頭を悩ませていたその時


「うわ、予定ぎゅうぎゅう」


 背後から声が降ってきた。

 入学以来聴き慣れた声、振り返らなくたって誰かわかる。


「そう、私忙しいの。遊んでほしければお早めの予約をおすすめします」

「へぇ、人気者は大変だ」


 そして、背後から赤いペンを握った手が伸びてきて、終業式前の火曜日に印をつける。


「それじゃあここちょうだい」

「ちょっと、勝手に書かないでよ」

「早めの予約、おすすめなんでしょ?」


 彼はさっさと立ち去り――そして、親の都合だかなんだかで予約は無断キャンセル、そのまま海外に引越してしまった。



 日付と曜日が完全に一致するのは28年に一度だという。

 つまり、このカレンダーは28年前――私が高校生の頃と同じということだ。

 10年振りの同窓会があったのが去年の終わり、あの日も当時のことが懐かしくてたまらなかった。


 高校生の私は日々(せわ)しなく過ごしていたけれど、最近では余裕のある生活に(よろこ)びを見出(みいだ)している。

 バツイチで久々の独身生活なんて当時の私は驚くだろうな――手元にある余白の多いカレンダーを眺め、私は小さく笑った。


「うわ、予定ガラガラ」


 背後から響いたその声に、私は顔を上げず答える。


「そう、私余白のある生活がしたいの。遊んでほしければお早めの予約をおすすめします」


 すると、背後から赤いペンを握った手が伸びてきて――カレンダーの目前でぴたりと止まる。

 12月4週目の火曜日、そこには既に印がついていた。


「その日は誰かさんが予約したままだよ、丁度(ちょうど)28年前に」


 暫しの沈黙の(のち)、その声は静かに放たれる。


「……延滞料金、かかる?」


 間抜けな返しに思わず振り返ると、同窓会振りに見るその顔は確かに28年の歳月を重ねていた。


「そうね、いくらかな」


 今年のクリスマスイブは久々に楽しめそうだ。

 私は笑顔で席を立った。


(了)

最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。

なろラジの季節、折角なので一作くらい書けたらいいなとキーワードを眺めていて、ふっと思い付いたのが背後からカレンダーに書き込むというシチュエーションでした。

28年経たないとカレンダーが完全一致しないというのは今回初めて知りましたが、そう思うとなんだか感慨深いですね。

28年前、子どもだった頃の私が想像していた自分にすこしでも近付けていたらいいなぁと思います(´ω`*)


お忙しい中あとがきまでお読み頂きまして、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
∀・)すごい。なんて素敵な恋愛小説なんだろうって思ったんですが、でてくるのは名前のない主人公と彼だけなんですよね。だから文学作品としての存在感を持てる作品だと思うんですけども、もうそれを抜きにしても、…
面白かったです! 28年前と今の対比が良かった〜。 (*´∇`*)
1000文字とは思えない濃密さ! こんなに細かく描写できるのですねえ……。文字数制限とは、と唸りました。 お洒落でかっこいい言葉選び。彼もちょっとしか出てないのにかっこよくて、二人の未来ににっこりでし…
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