第四章 嵐の再会
朝の10時を過ぎたころ。
玄関の引き戸が荒々しく開き、ヒールの音が乱暴に廊下に響いた。
「たらいまー……っ」
呂律の回らない声。酒と香水の入り混じった匂いが一気に居間に流れ込む。
藤本幸が、酔いに頬を赤らめ、バッグを床に放り投げて現れた。
かすみは慌てて駆け寄る。
「藤本さん、大丈夫ですか?足元、危ないですよ」
「うるさいなぁ……放っといてよ」
幸は手を振り払うようにして、ふらつきながら座布団に腰を下ろした。
居間の奥から、幸子の低い声が飛ぶ。
「……あんた、また酒くさい。何時だと思ってるの」
「母さんには関係ないでしょ!」
幸は苛立ちを隠さず叫ぶ。
「私は私の仕事してんの!夜働いて稼いでんだから、何が悪いのよ!」
幸子は眉をひそめ、吐き捨てるように言った。
「女が夜の店なんかで酒飲ませて、何が仕事だ。親の顔に泥を塗って、恥ずかしくないのかい」
幸は机を叩いて立ち上がる。
「母さんは何もわかってない!私は真剣にやってるの!キャバ嬢がどうとか言うけど、私には私のプライドがあるんだよ!No.1になるために、毎日必死でやってんのに!」
「必死?酔っ払って帰ってくるのが必死だっていうのかい!」
幸子の声は怒りに震えていた。
「……あんたの稼ぎなんか、私はいらない。アンタの世話にもならないよ!」
その言葉に、空気が凍りついた。
幸は目を見開き、震える声で笑った。
「……あぁ、そう。結局それか。母さんは私が何やっても認めないんだね」
涙で滲む瞳をかすみに向け、叫ぶ。
「じゃあ、・・・契約も今日で終わりにして・・・、私の施しはいらないんだよね!」
「藤本さん!」
かすみが慌てて制止するも、幸はドアを乱暴に閉めて出て行った。
残された幸子は肩を震わせ、口元を押さえていた。
その背を見て、かすみは胸を痛める。
このままでは、本当に契約が終わってしまう。
けれど、それ以上に、母と娘の心が離れきってしまうことが恐ろしかった。
第五章は9月2日更新予定