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The Memoirs 30th (回顧録 第30部)「反逆の魔術師、あるいは彼と私と『わたし』の物語」  作者: 語り人@Teller@++
第一章「序章、怪人:黒仮面編」
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怪人:黒仮面編②『夜からの目覚め』

真白先輩の電撃を操る異能の力によって、陽は焼け焦げた服と荷物、髪留めを残して消えてしまった。

先輩の正体と、その真実を知った連夜。

自らも命の危機に瀕するが……。

怪人:黒仮面編②『夜からの目覚め』

 白亜の空間には、依然として白檀の香りが漂っている。

 右手を構えた真白先輩……もとい『萌衣』の動きを見た俺は、即座に横に跳躍する。刹那、俺がいたところに水色の電撃が飛来する。大気を裂く音が響く。

「まぁ、今のはそりゃ避けるよね。んじゃこれならどうかな!」

 再度電撃が走る。それを俺は避けた……と思った。だが。

「ぐあっ!」

 雷鳴と共に目の前の景色がおかしくなり、筋肉が自分の意志に反して痙攣する。何が起こったのかが分からない。そして激痛が身体に走り、俺は白亜の床にうずくまった。

「よっしゃ当たった! あれ? まだ死んでないのかな?」

 頭上から声が聞こえる。

「まぁこれで終わらせるよ。……ごめんね?」


 やめろ。

 その声でそんなこと言うのをやめろ。

 その声色が、好きだったのに。


 やめてくれ。

 その声で優しく語り掛けるな。

 そんな風に優しく語り掛けつつ、俺を殺そうとするな。


(……やめてくれ!)

 俺は身を震わせ、身体をちぢこめた。

 直後、うずくまる俺の視界の隙間から閃光が走り、轟音が響く。

 同時に背中に痛みが走る。だが……。

(……ん?)

 思っていたより、痛みが無い。先ほどの痛みは正直うずくまらずにはいられないほどであったが、今の痛みは我慢できないほどではなかった。

「え……?」

 頭上の声、おそらく『萌衣』が発しているのだと思われる声は、動揺の色がにじみ出ている。

(え……)

 俺は自分の身体を見る。

 身体の表面に、青いオーラのようなものが現れている。

(なんだよ……これ……)

 動揺した俺は、つい身体に力が入ってしまう。

 すると今度は白く輝く靄のようなものが体の表面から現れる。

 それと同時に、先ほどから続いていた痛みが引いていく。

「ちょっと! なんなのこれ!? ……っ!」

 視界の隙間から再度閃光、再び背中に激痛が走る。だがそれはまたしても我慢できる範疇であり、白い光と共にその痛みは引いていく。

「このっ! なんで死なないのよ!?」

 『萌衣』の苛立つような言葉と共に視界に閃光が走り、轟音と共に背中に激痛が走る。

(っ……)

 俺は終始うずくまりながら必死に力をこめる。どうやら白い光は力をこめると現れるようだ。

 身動きを取ろうとすると間髪を入れずに閃光が降り注ぎ、激痛が走る。

「こんのーっ!」

「ひっ!」

 『萌衣』のひときわ大きな叫びを至近距離で聞いた俺の身体に、ひときわ大きな力がこもったその時であった。


 突如真っ暗な視界の中、ごうごうと非常に強い風が吹くのを感じた。

 とても、とても寒い風だった。

「ぐうっ!」

「っ!」

 そして同時に、2人の強いうめき声が響き……直後物がぶつかるような音が部屋に響いた。

(……?)

 間髪入れずに響いていた閃光と雷鳴がやみ、俺はようやく体を起こすことが出来る。

 するとそこには、地面に倒れる『萌衣』の姿があった。

「真白、先輩」

 『萌衣』はうずくまっている。

「真白先輩!」

 俺は思わずその呼び名で、先輩に駆け寄る。


「ぐぁっ!!!」

 だが直後、視界の外、横と思われる方向から閃光が放たれる。

 俺は転倒し、床に倒れ込んでしまう。

「さんきゅーモエ」

 横を見ると、俺に対し右手をかざす『モエ』の姿があった。

 『モエ』と目が合う。すると彼女は視線を俺から逸らした。

 前に視線を戻すと、『萌衣』が立ち上がっている。

「まさかあんな力を隠し持っていたなんて。油断した」

 あんな力? 何を言って……。

「モエ、あんたも一緒にやって?」

「……」

「モエ!」

「っ!……分かった」

 『モエ』は『萌衣』の隣に移動すると、『萌衣』と一緒に右手を俺に向ける。

「や、やめろ……!」

 俺はうつ伏せの状態のまま、頭をかばうように両腕を構えた。すると……。

「なっ!」

 俺の両腕から、突如冷気が噴き出す!

 冷気は俺と『萌衣』達の間に集まっていき、そして両者を遮るように巨大な氷柱が現れる。

 そして同時に閃光と雷鳴が炸裂!

 閃光と共に氷柱の表面が削れるが、彼女達の一撃は俺に当たることはなかった。

「何これ! このっ!」

「……」

 『萌衣』と『モエ』は再度電撃を放つ。電撃は氷柱に命中し、氷柱にクラックが入る。

(やばい!)

 その様子を見て俺は両腕に力をこめる。すると冷気が噴き出し、氷柱のクラックを修復する。

「このっ! このっ! このっ!」

 電撃攻撃が連射される。氷柱にクラックが入る。

 俺は必死に力をこめ、冷気でクラックを修復する。

「ちっ! こうなったら!」

 『萌衣』は苛立ちの声色と共に、右手ではなく両手を氷柱に向ける。

 すると、ブォン!という変な音と共に彼女の腕から丸い、フィクションで出てくるようなサークル……魔術陣のようなものが現れる。サークルは緑色と青色が複雑に組み合わさっている。

「はぁーっ!」

 刹那、サークルから巨大な電撃、というより太いビームのようなものが発射される。

 極太ビームは氷柱に命中し、それを粉々に打ち砕いた。

「ぐわーっ!」

 氷柱が砕け散り、その破片が俺の顔面に斜めに降り注ぐ。

 力を込めていたのを押し返される姿勢となり、俺はうつぶせの姿勢のままのけぞり、後方へ押された。

「はぁ、はぁ……やっと壊れた」

 『萌衣』は荒い息遣いをしている。

「さて、行くよ! モエ!」

 『萌衣』の言葉に『モエ』は無言で頷くと、再度2人がかりで手を構える。

「ちいっ!」

 俺は右手を構えて力をこめる。

 すると右手から氷塊交じりの吹雪が飛び出す。

 吹雪はほぼ同時に発射された電撃にぶつかり、その勢いを相殺する。

「まだ抵抗するつもりなの!? はぁーっ!」

 2人の電撃が合わさって一つの大きな電撃となり、俺が放った吹雪を押し返そうとしてくる。

 吹雪と電撃が互いに押し合い、一進一退の状況が生まれる。

(これが押し切られたらまずい!)

 電撃の威力は、さっきの比ではない。この威力で押し切られたら、おそらく死ぬ。

 そう確信した俺は、右腕を左腕で支え、あらん限りの力をこめた。

「ハァァァァァァァ!」

「はぁーっ!」

 思わず声が出る。『萌衣』もシャウトしている。

「「ハァァァァァァァ!」」

 俺と『萌衣』のシャウトが重なり、シンクロした時だった。


 突如、さっきと同じ変な音と共に、俺の右腕から青いサークルが現れる。

 そしてそこからは吹雪と共に、巨大な氷柱……さっき出したものとは比べ物にならないほど大きい氷柱が出現し、吹雪と共に直進していく!

「何っ!」

「っ!」

 氷柱はそのまま2人の電撃を押し返し……。

「「ぐあああっ!」」

 2人にクリーンヒット! そのまま爆発四散!

 同時に、すさまじい勢いの地吹雪が発生した。

「うわっ!」

 地吹雪が顔に直撃し、視界が真っ白に染まっていく……。


 気が付くと、周囲の風景は白い部屋から、元の雑居ビルの屋上に戻っていた。空は真っ暗になっており、すでに日は沈んでいる。

(うう……)

 俺は何とか立ち上がり、周囲を見回す。

 屋上全体が、氷で覆われている。さっきの……俺が放った氷の影響だろうか。

 さっきまで漂っていた白檀の香りは、冬の外のような匂いに置き換わっていた。

「「うぅ……」」

 そして『萌衣』と『モエ』は、屋上の手摺りに揃ってもたれかかっていた。

(先輩……)

 そのとき、『萌衣』が右腕に付けていた腕輪が次第に凍っていき……直後、黒い瘴気のようなものを発しながら、それは粉々に砕け散った。

(腕輪が……砕けた!?)

 俺はふと『モエ』の方も見る。こちらの右腕に付けていた腕輪も、いつの間にか無くなっていた。

「う……ぐぅ……」

「……」

 『萌衣』と『モエ』は互いに支え合いながら立ち上がる。2人は荒い息遣いをしている。声色からも疲労が伝わってくる。

「先輩……もうやめましょう。やめてください」

 今ので、おそらく決着はついたはずだ。というか、何とか立ち上がったものの、俺も満身創痍であった。

「先輩……自首してください。お願いします」

 俺が2人の方に駆け寄ろうとする。

 だが……。

 突如、『萌衣』は無言で俺に右腕を向ける。同時に彼女の右腕から突風が発生する!

「なっ!」

 俺は吹き飛ばされないよう踏ん張ろうとしたが、足元が凍っていたせいで滑ってしまい、そのまま吹き飛ばされる!

「ぐっ!」

 かろうじて手摺りにつかまり、最悪の事態は脱する。

 だが風がやむ気配はなく、手摺りも凍っており、手が滑る。

「先輩! 何で!」

「……る訳にはいかないのよ」

「え?」

「私は……っ! 止まる訳にはいかないのよ! あいつを……ゆうやを死に追いやり、そしてあいつをいじめていた奴に手を下した時から、もう私は止まれないのよ!」

 『萌衣』の声は怒りと憎しみに満ちていた。

「こんなところで終わる訳にはいかない! ……死ね!」

 さっきの調子とはまるで異なる、怒気に満ちた声。

 突風は止まらない。体が宙に浮いており、手摺りだけでかろうじてビルから離れていない状態。

 俺は手が離れることを覚悟した。

 だが……。

「なっ!」

 『萌衣』の怒号と共に、風向きが変わる。

 風が、俺の方から逸れていく。

 俺は勢いよくビルにぶつかるも、かろうじて手摺りの内側に身体を動かすことに成功した。

「何すんのモエ! 放しなさい!」

「先輩……?」

 見ると、『モエ』が『萌衣』を押さえつけ、俺の方に手が向かないように妨げている。

「もう終わりよ、萌衣。……私達はもうおしまい。……始めた時から、決めてたでしょ?」

 『モエ』は諭すような声で『萌衣』に語り掛ける。

「あんた、私の邪魔すんの!? 邪魔しないでよ! 消えろ!」

 『萌衣』は右手の指を鳴らす。

 だが、何も起こらない。

「なっ……なんで、なんで消えない!?」

 『萌衣』は動揺している。しきりに指を鳴らしている。

「このっ! 放せ!」

 『萌衣』は『モエ』から離れようとじたばたする。それを『モエ』はがっしりと押さえつけ、放そうとしない。『萌衣』の右手からは突風が絶えず吹き出し、あちこちに風が流れていく。

「このっ! このっ! 放せ!」

「……碧君」

 『萌衣』ともみくちゃになりながら、『モエ』が俺に声をかけてきた。

「先輩……じゃなくて、モエ……さん?」

「君は、私のようになっちゃだめ」

「え?」

 『モエ』は身体をそらし、『萌衣』と共に手摺りから身を乗り出す。

「なっ! やめろ! そんなことしたら、お前も!」

 抵抗する『萌衣』を押さえつけながら、『モエ』はこう続けた。

「私のようになっちゃだめだよ、碧君。……さよなら」

 そして直後、『モエ』と『萌衣』の身体は手摺りの向こう側に倒れていく。

「っ! 先輩……!」

 俺は走った。走ろうとした。

「がっ!」

 だが凍結した床に足を取られ、そのままうつぶせに倒れ、顎を強打した。

「ウワァァァァァァーー」

 目前から2人の姿が消え、『萌衣』の叫びが響く。

 そしてその叫びは、何かがぶつかる音と共に、途絶えた。


(う、ぐ……)

 滑る床に足を取られながら、何とか立ち上がった俺は、おぼつかない足取りで目の前の手摺りまで進み……そして手摺りから下をのぞき込んだ。

(あ……)

 そこには、ローブを着た少女が倒れていた。少女の頭はひしゃげ、血とピンク色の何かがこぼれている。

(ああ……)

 光が無い目玉は、虚空を見つめている。

(あぁぁ……っ!)

 そしてその隣には……何もなかった。下に見えたのは、ローブの少女の身体だけ。

 一緒に落ちたはずの同じ顔の少女の身体は、どこにも見当たらなかった……。


 ……次に気が付いたとき、俺は自分の家の布団の中で震えていた。

(あ……あ……)

 あの後、どうやってここまで帰ったか、思い出せない。……記憶が飛んでいる。

(う、ううぅ……)

 体の震えが止まらない。身体に力が入る。

 俺は見知った2人がどうなったかを思い出し、ただただ震えるしかなかった。

(う……うああ……)

 プルプルと体が震える。それと同時に身体から白い光が発せられ、身体の痛みが消えていくような気がしたが、同時に強い寒気を感じた。

(さむ……い……)

 布団と毛布でくるまっているはずなのに、寒気が止まらない。夏がまだ終わったばかりで外は暑く、冷房はかけているが、設定温度以上に寒く感じる。

「うううぅぅぅ……」

 目から雫が溢れ出す。寒気が止まらない。

「あぁぁぁぁぁ……!」

 雫が止まらない。

 部屋全体が、まるで真冬のように寒くなっていた。

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