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The Memoirs 30th (回顧録 第30部)「反逆の魔術師、あるいは彼と私と『わたし』の物語」  作者: 語り人@Teller@++
第一章「序章、怪人:黒仮面編」
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怪人:黒仮面編①『真白先輩』

楽しかった交流の帰り道。

連夜と陽は、真白先輩が路地裏に入っていくところを目撃する。

……これは、冒険譚の始まりだ。

怪人:黒仮面編①『真白先輩』

「真白せんぱーい!」

 真白先輩の姿を見た葵さんは呼びかける。だが俺達がいる場所と真白先輩がいる場所は少し離れており、また自動車の騒音もあってか、気付いていない様だった。

 すると、真白先輩はどこかへ向かって歩き出す。

「追いかけましょう」

「え?」

「今日は色んな人と会えました。ここで会えたのも、何かの縁だと思います」

「……そうですね! 追いかけましょう」

 彼女の声色は明るい。今日の出会いを楽しんでいることが分かった俺は、彼女の提案に乗ることにした。

 かくして、俺達は歩き去っていく真白先輩を追いかけることにしたのだった。


 俺達が歩き出すと、真白先輩は街の外れ、建物と建物の間へ入っていく。

「先輩、何でこんなところに?」

「……行ってみましょう、碧君」

 俺達も裏に入っていく。先輩が建物の角を曲がっていくのを見た後、その後を付けていくが、角を曲がると、誰も居なかった。

「あれ? 先輩?」

「居なくなっちゃいましたね? 確かに、入っていったはず」

 俺達が訝しんでいると……。


「ひぃっ! や、止めろ! 来るな! 来るなぁーッ!」

 突如、更に奥の角から悲鳴が聞こえた。

「え!?」

「っ!」

 俺達は慌てて奥へと駆け寄る。だが直後、角から眩いばかりの閃光があふれ出た。

「……っ!」

「……うわっ、何だこりゃ!?」

 俺達は目を手で押さえながら、角を曲がった。すると……。


 そこには一人の人物と、倒れている男の姿があった。倒れている男の身体をピクリとも動いていない。そしてそれを見下ろすように傍に立っている人物は、全身を黒いローブで覆っていた。ローブは頭まですっぽりと覆っており、髪型などははうかがい知れない。

「っ! あぁ……」

 葵さんが思わず声を上げる。するとその人物は俺達に気付いたのか、後ろ……つまり俺達の方を見た。

 人物の顔には、黒い仮面が付けられていた。

「怪人:黒仮面……」

 ようやく実物を見た。こういう奴だったのか、と思った。

「……」

 葵さんは沈黙している。

 すると、黒仮面は右手を自分達の方へと向け出した。

「……っ!」

 俺は嫌な予感を感じ、葵さんの腕を掴み、角に走って逃げようとした。

 だがその直後であった。


 突如響いたのは爆音だった。破裂音と言っていいだろう。そしてさっきと同じ、閃光。

 俺は葵さんの腕を掴んだはずだった。

 だが……掴んだはずの腕の感触が、突然すっと消えた。腕の感触が消え、そして握られる拳。

 拳は何かを握りしめる。

 それは……先ほどまで葵さんが着ていたブラウスの袖であった。

「葵さん?」

 真横を見ると、葵さんが着ていたスカートや靴、眼鏡……そして持っていた荷物が地面に広がっている。葵さんの姿はどこにもない。まるで服と荷物だけ残して着ていた中身が消えてしまったかのように。

 そして、俺の顔に何かが飛んできて……貼りつく。握っていた拳を離し、手でつまむとそれは、葵さんが三つ編みを束ねるのに使っていた白いリボンだった。リボンの端は……茶色く焦げていた。

「え……あ……?」

 全身がぶるぶると震える。俺がゆっくりと後ろを振り向くと、そこには右手を葵さんが居た方にかざす黒仮面の姿があった。黒仮面の手は、ゆっくりと俺の方に向いていく。

「っ……!!!」

 何が何だか分からない。何が起こっているのか理解できない。

 だが、1つだけ分かることがある。

 自分にかざされた手を見た俺は、咄嗟に走って角を曲がる。直後、後方から凄まじい破裂音が再び響く。

 俺は後ろを見ることなく……そのまま必死に走り出した。

 

(何だよこれ何だよこれ何だよこれ!)

 訳が分からない。目の前で、あってはならないことが起きていた。

 葵さんが……消えた?

 俺は逃げながら、思考を巡らす。あの閃光は、黒仮面の噂にあった奴だろう。つまりあれは……電撃か何かだ。そして葵さんは、それを食らった。そして消えた。

(え? 消えた? 葵さん、消えちまったんだが……消えちまったんだが……)

 目の前の現実が理解できない。人が突然消えるなど、あるのだろうか。

 俺は右手に握りしめたリボンの焦げ目を見つめる。これはつまりそういうことなのではないか。

(電撃を食らって……葵さんは、死んだ? 跡形もなく、消し飛ばされたのか……?)

 人を消し飛ばすほどの電撃が実在するとは思えない。電撃で人が黒焦げになるという表現がフィクションではあるが、実際はそんなことはなくて、あの倒れていた男のようになるはずだ。まして跡形もなく消えるなんて……。

(でも、この焦げ目は……)

 焦げ目は、彼女が電撃を受けた、という事実を如実に示していた。

(一歩間違っていれば、俺も……)

 俺の方に電気が通らなかったのは、本当にたまたまだろう。運が悪ければ、あの男のようになっていたに違いない。

(ちくしょう何なんだよ!)

 今日は楽しい一日のはずだった。

 楽しく終われるはずだったのに。

 たった1人の友達が……どういうことが起きたのかは理解できていないが、多分ダメだろう。

(何なんだよ何なんだよ何なんだよーッ!)

 やり場のない思いが募る。同時に先ほどの光景が頭によぎり、走りながらも身体のこわばりが止まらない。


「うわっ!」

 余り前を見れずに走っていた俺は、目の前の存在に気付けなかった。

 高い声が響き、腕が一瞬、柔らかいものに当たる。

「あっ!」

 俺はこの時、人にぶつかったことに気付いた。

「大丈夫ですか!?」

 俺は慌ててのけぞった人物に駆けよる。すると。

「危ないなぁ……ってあれ? 碧君じゃん、どうしたの?」

「……え?」

 そこにいたのは、先ほど見かけたはずの黒髪二つ結びの女の子……真白先輩だった。

「え? じゃないよ。前を見ずに走るなんて、危ないぞ~?」

「何で……」

 さっき路地裏に入っていったはずだ。

「え?」

「何で、何でここに……!」

 いるはずがない。あれは確かに先輩だった。

「何でって、そりゃ今ここに来たばかりだし?」

「今ここに来たばかりって、そんな訳……なっ!?」

 俺は後ろの方を見る。そしてそれを目にしてしまう。


 ……そこには、先ほどと同じ姿の、黒い仮面を着たローブ姿の人物がいた。

 ローブ姿の人物は俺の存在に気付いたのか、ゆっくりこちらに向かって歩いてくる。

「あ……あ……せ、先輩! あれ! あれ!」

「あれって……っ!」

 先輩も黒仮面の存在に気付いたようだ。

「あれに、追われてて……!」

 このままではやばい! だが真白先輩が……。

「先輩早く逃げてください! 早く!」

 俺は先輩に逃げるように伝えるが、真白先輩は突然俺の左腕を掴んだ。

「……こっち!」

 そしてそのまま俺の手を掴んだまま、どこかへ走り出した。

「先輩……?」

「逃げるんでしょ!? いいから付いてきて!」

「あ……ああっ!」

 俺は先輩に連れられ、街の中を駆け抜けた。


 おそらく10分ほど全力疾走しただろうか。

 気が付くと俺と真白先輩は、どこかの雑居ビルの屋上まで走っていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 喉の奥から血の匂いがする。日頃余り運動しないため、俺は四つん這いになって息を切らした。

「大丈夫?」

 そんな俺を真白先輩は見下ろし、心配そうな声色で声を掛けた。

「な……なんとか……」

「そう……」

 ……先輩の声色に、少し違和感を覚えた。

 そして直後、俺はその違和感の正体に気付くことになる。

「おつかれさま、モエ。逃げないようにしてくれてありがとね」

 突如、後ろから声がする。

(……は?)

 おかしい。だってその声色は。

 今自分の目の前にいる人物のそれと、全く同じだったから。

 俺は四つん這いのまま後ろを振り返る。

 するとそこには、黒いローブを着た黒い仮面の姿があった。

 怪人:黒仮面は、屋上への扉をガチャリと閉める。

「……本当にやるつもりなの? 萌衣」

 真白先輩が、何やら言っている。

「ええ。こいつ……私の事を付けてた。多分正体バレてる。そうでなくとも、バレる可能性があるなら消さないといけない。まぁもう連れの女の子は始末したんで、こいつだけ逃がすわけにはいかないんだけど……」

 黒仮面は真白先輩の声で、彼女なら絶対に言わないであろうことを言っている。

「連れの子ってもしかして、葵さんの事!? そんな……」

 そしてそれに対し、全く同じ声で真白先輩が言葉を返す。

「あの子、あんたと同じだった」

「え?」

「私の力を食らったとき、あんたが死ぬときと同じように消えた。……多分オリジナルが、別にいる」

「まさか、葵さんが……」

「おそらくまだ気づいてはいないとは思うけど、こいつやったら、消しに行くよ」

「っ……」

 訳の分からない会話が、四つん這いの俺の頭上を通り過ぎていく。

 俺のことを消す? 葵さんは、同じ? オリジナル? 消しに行く?

 一体何を言ってるんだ? 訳が分からない。

 ふと真白先輩の方を見る。俺と目が合う。すると彼女は、俺を見て申し訳なさそうなしぐさをしたような気がした。

「……んなんだよ」

「ん?」

「……」

 俺が抑えきれずに出した声に、黒仮面が真白先輩の声で反応する。真白先輩の方は、何も答えない。

「何なんだよ! お前! お前は一体何なんだよ! なんで俺のことを!」

 やり場のない怒りが止まらない。

「先輩も先輩だ! なんすかこれ……先輩もこいつとグルだったんすか!」

 どう考えてもグルだろう。

「お前ら! 何なんだよ!?」

 混乱のままに叫び散らかす。すると……。

「……そうね。ホントならここで一思いにって行きたいところだけど、あんたはモエのお気にいりみたいだから? 何も知らないまま死んじゃうのは、ちょっと可哀想よね?」

「なっ……」

 こいつ……俺のことを殺す気だ! さっきの男のように……葵さんのように……!

「うあーっ!」

 俺は黒仮面めがけ、右こぶしを振りかざす。

 だが黒仮面は一切動じることなく、右手で自らの仮面を外す。

「……っ!」

 その素顔を見た俺の拳は、そいつの眼前で、静止する。


 仮面の下にあったのは……真白先輩と全く同じ顔、髪型であった。

「は……?」

 目の前の事実を理解できずに硬直する俺。

 だが目の前のそれは、その隙を見逃さなかった。

「ふんっ!」

「がっ……!」

 真白先輩の顔をしたそれは俺の腹部に回し蹴りを繰り出す。

 俺は反応できずにそれを食らい、激痛を感じながらその場にうずくまった。

「君さぁ、さっきからモエのこと真白先輩真白先輩って言ってるけど、真白 萌衣は『私』だから。私が……オリジナル」

 黒ローブの女はうずくまる俺を見下ろすように腰を下ろして、そう告げる。

「なんなんだよ、それ……! じゃああっちの、あっちの先輩は!?」

「そうね……まぁ教えるって言ったし、昔話でもしよっか」

「は……?」

 本当にこいつが、真白 萌衣なのか?

「モエ。こいつが逃げられないように、あれ使うから!」

「……」

「モエ?」

「……わかった」

 俺が疑問を口に出す間もなく、黒ローブ……彼女曰く『萌衣』が、真白先輩……『モエ』と呼ばれている方にそう声を掛け、右腕を天に掲げる。

 よく見ると、右腕に銀色の腕輪のようなものを付けている。腕輪には金色の宝石みたいなものがはめられている。『モエ』の右腕にも、全く同じ腕輪が付いている。

「はぁーっ!」

 そして『萌衣』はシャウトする。右腕の腕輪の宝石が、キラリと光る。

 すると直後、周囲の風景がうねうねと歪みだす。まるで陽炎のように。

 そして風景は、次第に真っ白に染まっていく。

(何だよこれ……っ!)

 風景が歪み、白に染まっていく。空も、床も……何もかも。


 そして気が付いたときには、自分は真っ白な部屋のような空間に立っていた。部屋の大きさはさっきまでいた雑居ビルの屋上と同じくらいで、床や壁、天井には正方形の模様が入っている。

「これでよし。……んじゃ、話すね」

 『萌衣』はローブから顔を出す。よく見るとローブの下の服装も、目の前の『モエ』と全く同じだ。

 姿も、声も……寸分の狂いもなく全く同じ人物が、2人存在している。


「昔々、1人の女の子が居ました」

 『萌衣』が語り始める。

「女の子には、1人の幼馴染の男の子が居ました。女の子と男の子はすぐ隣に住んでいて、幼稚園に入る前からの仲でした」

 五感を働かせる。白い部屋には白檀のような香りが漂っている。

「女の子と男の子は同じ小学校、中学校に通い、毎朝女の子が男の子の家に行って、男の子を叩き起こして一緒に学校に通うという日々を送っていました」

 幼馴染の話。……俺には幼馴染が居なかったので、良く分からない。

「ある日、男の子は学校に行きたくない、と言い出します。女の子はまじめな性格だったので、男の子は勉強が嫌で休もうとしていると考え、無理やり叩き起こして、一緒に学校に通いました」

 ……。

「しかし、男の子は次第に学校に行くのを嫌がるようになり、何度も何度も何度も何度も学校を休もうとするようになります。女の子はそれを見る度に無理やり学校に連れて行こうとします。そして女の子はこう言いました。『がんばれ、ゆうや』と」

 ……嫌な予感がする。

「その日は何とか男の子は学校に通いました」

 ……これって、そういうことじゃねえのか?

「次の日、女の子はいつものように男の子の家に向かい、男の子の部屋をノックします。……返事がありません」

 ……。

「女の子が扉を開けると、そこには」

「っ!」

 ……もう、分かっちまった。先の展開が、何となく読めちまった。

「そこには……首を吊った男の子の姿がありました」

 ……最後まで聞こう。

「女の子はここにきて知ります。男の子が、学校でいじめを受けていたことを。それゆえ、学校に行きたがっていなかったということを……」

 白い部屋に漂う白檀の香りは、その男の子の死を悼んでいるかのようであった。

「女の子はこう思いました。自分が無理やり学校に連れて行こうとしなければ、彼は死ななかったのではないか。自分が彼を、追い詰めてしまったのではないかと」

 『萌衣』の語りは淡々と続く。だがその声色に、哀しみの色が混ざっている気がする。

「女の子は後悔しました。絶望しました。深く深く深く深く絶望しました。……そのときでした」

「……」

「女の子は、力に目覚めました。自分そっくりのもう1人の自分を生み出したり消したりする力を」

 『萌衣』は『モエ』の方を見る。『モエ』はうつむいているように見える。

「もう1人の自分を生み出す、力……」

「そしてもう1つ、手に入れました。この……力を!」

 『萌衣』は右腕を前にやる。すると右手からバチバチと火花が散った。

 空気が絶縁破壊され、天井に電撃が当たって大きな音を鳴らす。

「その日から女の子は決めた。この力で、悪を裁くと!」

 パンッ! と破裂音が響き、雷撃が壁に着弾する。壁面が少し焦げ、焦げ臭い匂いが漂った。

「女の子は男の子をいじめていた奴らをこの力で消し、それ以来、同じようないじめっ子達を、消して消して消して消して……消しまくった。ざっと12人は消した!」

 『萌衣』の声色に怒りが混ざる。雷鳴が響いているような気がする。

「それが怪人:黒仮面の正体、か……」


 真白 萌衣は幼馴染の自殺を機に2つの力……もう1人の自分を生み出す力と、電撃を操る力を手に入れ、それを使って怪人:黒仮面となり、いじめ加害者達を殺して回っていた。

 言葉が出ない。変な力を手に入れて、それで復讐の代行者に……。いざ実際に耳にすると、余りに荒唐無稽すぎた。

「さて。昔話はこれでおしまい。そこにいるもう1人の自分が『モエ』で、そのオリジナルが、私。理解できた?」

「……」

 理解することができても、納得することはできていない。

「その顔だと、分かっているみたいね。さて、あなたには、13人目の犠牲者になってもらうよ。さっきの子は……14番目で」

「……」

 『萌衣』の言葉を聞いた『モエ』は、ただ俯いているだけのようだ。

「ごめんね。でも大丈夫、一瞬で終わらせてあげるから」

 『萌衣』は優しげな声色……俺が好きだった先輩の声色と共に、俺に対し右手を構えた。

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