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少女と影編⑥『少女と影』

襲撃者達を退け、昴の家へたどり着いた連夜達。

そこにいたのは、オリジナルになり替わらんとする『影』であった。

少女と影編⑥『少女と影』

 謎の襲撃者達を魔術で退け、程なくして俺達は空星さんの家にたどり着いた。空星さんの家は2階建ての一軒家だが、将軍の家の2倍くらいの敷地があり、そこそこ広い、瓦屋根の和風の家だった。正面玄関は木の枠にガラスをはめた横開きの扉で、おそらく将軍の家より築年数がかなりいってそうだ。

「ごめんくださーい……」

 将軍が玄関のチャイムを鳴らすも、返事がない。更に言えば夜なのに明かり一つついておらず、不気味だ。

「ごめんくださーい!」

 将軍が玄関のガラス戸を軽く叩くも、やはり返事がない。

「留守なのか?」

「いや、そんなはずは……」

 将軍は困惑の声をあげる。

 だがその直後、風が大きなガラス戸に勢いよくぶつかったときのような……ぶわんともがたんとも取れるような大きな音が突然聞こえた。

『何だ!? 今の音は!?』

 突如聞こえた異音は、陽さんの声色に動揺をもたらす。

「横の方、というか外の方から聞こえました」

「これは……裏庭の方かっ!」

 将軍は正面扉から離れると、そのまま右手の方へと走り出す。

「あっ、将軍!」

 俺達も続いた。


 花壇や植木がある家の敷地をぐるりと回ると、そこそこ広い庭のような場所にたどり着く。そこには小さな砂利が広々と敷き詰められ、端のほうには芝生があった。

「なっ……」

 家の中の方を見た将軍は、その場で固まった。

「どうした将軍……っ!?」

 将軍の視線の先、家の方を見ると大きな縁側があり、そこの大きなガラス戸の扉が割れている。

 そして縁側と家の中のちょうど境目に1人、そしてその奥、居間と思しき場所に2人、人が倒れている。

「手前の人は見覚えがあります。昴さん……ですよね?」

 縁側に倒れているのが空星さんで、居間の方に倒れている2人はおそらく空星さんの両親だろう。

『一橋君! 炎は、3人の命の炎はどうなってる?!』

 陽さんは呆然と立ち尽くす将軍に呼びかけるように叫ぶ。

「っ、……炎は、ある。生きては、いるはずだ!」

 将軍は我に返ったように、陽さんの問いに答えた。確かに目を凝らしてよく見てみると、3人はいずれも肩がわずかに動いており、息はしているようだった。

「連君」

「ああ!」

 俺とよーちゃんは3人を助けるべく、家の中に向かおうとした。

「うおあっ!?」

「っ!」

 だが、縁側の縁に触れた刹那、突然家の中から外に向かって台風が来たときのような強い風が吹き出した。細かく割れたガラスの破片がこちらに飛んできたので、咄嗟に両腕で顔を庇った。

「ぐうっ! なんだこの風は!」

「近寄れ、ません!」

 吹き飛ばされはしなかったものの、目に見えない壁に阻まれる。風速はおそらく20メートル毎秒はあるだろう。

『これは……魔術の力か!?』

 風に押し戻されてしまった俺とよーちゃんが縁側を離れると、風は嘘のようにピタリと止んだ。

「やっぱり来たね……晴斗。それに、ミドリ君!」

 刹那、真上の方から声が聞こえる。

「「キララさん!」」

 即座に声がする方を見ると、瓦屋根にはキララさんが立っており、俺たちを高みから見下ろしていた。

「キララ! っ、お前……」

『あの腕輪は……』

 そして彼女の右腕には、見覚えのある腕輪が。それは月の光に照らされ、不気味に光っている。

「キララ……何でこんなことを!?」

 将軍は困惑した様子で問いかける。

「キララじゃねぇ! アタシは……空星 昴だ!」

 するとキララさんは、将軍の呼びかけを認めないかのような声色で返した。

「何言ってんだよ! てか空星さん達に、何したんだよ?!」

「そいつが逃げ出そうとしたんで、ちょっとおねんねしてもらった。お……親の方も」

 キララさんは空星さんの方をちらっと見やると、そのまま屋根の上から何の躊躇いもなく飛び降りた。

「あっ! キララ! ……うわっ!」

 将軍は即座にキララさんが落ちていくであろう所に駆け寄ろうとするも、直後凄まじい風が吹き出し、彼女の身体は風に支えられるような形で空中にふわふわと浮遊する。そしてそのまま縁側……空星さんが倒れているそばにゆっくりと着地した。

「あの風……キララさんが起こしてたんですね」

「これがキララさんの魔術の力か」

 俺達の侵入を阻んだ風、そして今浮遊のために使ったであろう風。この風がキララさんの力に違いない。

「ぐ、あ……」

「っ、空星さん!」

「ぁ……晴斗、くん……」

 キララさんが着地した直後、空星さんが意識を取り戻したのか、苦しそうな声を発した。

「っ……」

「ぐうっ!」

 だが、その様子に気付いたのか、キララさんは足元に倒れている空星さんの上半身を迷うことなくガシッと踏みつけた。

「なっ! キララ! 何やってんだよ!?」 

「ぐぁ……」

 キララさんの踏みつけが若干強まり、空星さんは苦しそうに呻き、そのまま沈黙した。

「待ったキララさん! それ以上空星さんを傷つけないでくれ!」

「昴さんの身に何かあれば……あなたも!」

「碧……ヨウさん……」

 俺達も制止に加わる。だが……。

「……知ってるよ」

「「あ?」」

『「え?」』

 俺達の呼びかけに対し、意外なほど冷静な態度で返事をするキララさん。その声色は見知ったキララさんとは違う低い声で、俺達は呆気に取られる。

「オリジナルの存在に、アタシのような『影』は依存している。もしオリジナルが死ねば、影は存在できなくなる。だから殺さず生かさず、閉じ込めておくつもりだったのに。はぁ……」

 キララさんは空星さんを押さえつけていた足を離し、ため息をついた。。

「キララさん。あんた、どこまで知ってんだ?」

「自分がどういう存在なのか、アンタ達の魔術の力、この腕輪のこと……全部、全部知ってるよ」

「……そうか」

 俺の問いかけに淡々とした様子で答えるキララさん。多分、キララさんにそのことを教えたのは『腕輪の持ち主』だろう。俺達や将軍も知っている……奴だ。

「なぁキララ教えてくれ。何でこんな事したんだよ? こんな事したって、キララはキララだ。空星さんに何てなりゃしねぇ。現に姿はまんまじゃねぇかっ……!」

 俺の問いを引き継ぐように将軍は困惑した様子で問いかけた。てっきり姿を空星さんに似せて成り代わったのかと思いきや、キララさんの姿は俺たちが見知ったギャルのまま変わっていない。これで成り代わるなど不可能のはずだが……。

「やっぱり、晴斗には『そう』見えてるんだ。……アイツの言った通り、本当に『魔術の力』を持ってるんだね」

 早速、疑問の答えが出てきそうなワードがキララさんの口から飛び出す。

「キララさ、っ! ……」

 俺は思わずキララさんに尋ねようとしたが、将軍が言葉を発しそうだったので気まずい気持ちになり、黙った。隣を見るとよーちゃんも黙ってキララさんと将軍のやり取りを見つめていた。

「『そう』見えてるってどういうことだよ!?」

「アタシの姿は、お父さんお母さん……それだけじゃない。こいつが見知った奴全員からは、昴の姿に見えてるってコト。いや姿だけじゃない……今のアタシは『空星 昴』として周囲から認識されるようになってる。……アイツの力によって」

 足元の空星さんの方と将軍の方を何度も見比べるように、キララさんは目線を動かしている。

「キララが、空星さんとして!?」

「そう。そのうえで、昴の方は周囲から姿声を認識されないようにしてもらってたんだけど……アイツの力、『魔術の素養を持つ者や、そういう奴の影相手には、効果が無い』らしいんだよね」

 キララさんは目線を空星さんの方で止めた。

「それに、まさか電話越しに外部に連絡すると認識されるなんて、アイツの力、思ったより抜け穴あるなぁ……ちっ!」

 キララさんは苛立ちの声をあげると、右腕を宙にかざす。腕輪が目立つ。

「……その腕輪」

 将軍はぽつりと呟く。

「晴斗は知ってるよね? そうだよ。アタシもアイツ……黒仮面からこの力を貰った」

 キララさんは右拳を握る。するとキララさんの方から風が吹く音が轟々と聞こえ始めた。

「お前はその力で空星さんに成り代わったのか?」

 将軍はキララさんに問いかけるも、彼女は首を横に振った。

「いーや。この腕輪で手に入れたのは、この風を操る力だけ。もっと言えば、この力自体は元々アタシ……いや正確に言うなら昴にあったものらしくてさ、腕輪でできるのは潜在していたそれを目覚めさせることと、その効果を強めることくらいだったよ。……認識を書き換えてるのはさっきも言ったように黒仮面の力のおかげ。アタシはアイツと契約したんだよ」

 まるでフィクションの悪役のように、キララさんは自分の力についてペラペラと話している。これはきっと、将軍が相手だからだろう。

「契約……碧を抹殺することと引き換えにか?」

「御名答。なるほど。晴斗にもそう言ってたんだアイツ。ふーん……」

 互いに『分かっている』者同士のやり取りが淡々と続く。

(……)

 殺伐とした雰囲気の中でも気さくに色々話す2人の様子を見ていると、どうしてこんな事になってしまったのかと、却ってやるせない気持ちになった。

「あ、そうだ晴斗。答えがまだだったよね? どうしてこんな事したのかって、さ」

「あ、あぁ……」

「答えは単純明快で、アタシという存在の確立。アタシの居場所を得るため」

「存在の、確立……」

 ここでようやく、キララさんが自分の動機を語り始める。黙ってじっと見守る俺とよーちゃんの身体に冷たい夜風が当たる。

「姿を変えた、振る舞いも変えた。昴がアタシを消したいと思っても、それに抵抗することだってできる。でも結局アタシは昴がいなきゃ存在できない! 家族も家も友達も、生活基盤も、ぜんーっぶ昴のもの! 結局アタシは単なる影でしかない。アタシは何物にもなれねぇんだよ!」

 キララさんは喉から絞り出すように声を上げる。その声色から、俺は彼女の悲哀を感じた。

「オリジナルの役に立ちたいと思っても消えてくれと存在を否定され、さりとてオリジナルから脱却した存在にもなれない」

「……」

 将軍は、無言でキララさんの話を聞いている。その目つきは、いつになくキッとしており、何かを考え込んでいるように見えた。

「昴から否定されるのなら、居場所がどこにもないのなら、もう消えてしまいたい……そう思ってた。海の泡、もしくはタカアシガニの餌にでもなってしまいたい……そう思ってた」

「そうか、それであのとき、海に……」

「でも晴斗……あんたに出会ってから、何もかも変わっちゃった」

「えっ……?」

 突然自分の話題が出てきたためか、将軍は疑問を呈するも、キララさんはその問いに意を介することなく、まくしたてるような口調で喋り続ける。

「オリジナルたる昴がいる限り、アタシの居場所はない。でもオリジナルを消してしまったら、アタシも消えてしまう。だからこうして生かさず殺さずの状態にして、奪ってやろうと思った」

 キララさんは右腕を大きく横に振るう。すると彼女を中心に放射状に突風が発生し、その風は将軍と俺達に景気よくぶち当たる。俺とよーちゃんは思わず両腕で体を覆った。

『大丈夫か!? 2人とも!』

「私は……大丈夫です」

「俺も大丈夫だ」

 台風の真っ只中のような、されど凍える冷たさを含んだ突風が吹くなか、必死に身体を支えて前を見据えると、将軍は強風の中微動だにせず仁王立ちしていた。

「この力とアイツの後ろ盾で……アタシはアタシとして確立して見せる! アタシは空星昴になり替わり、『影』ではない『人間』として……自分の居場所を作って見せる!」

 ひときわ大きくぶわっと風が吹き……そしてそれは不意に止んだ。周囲に静寂が戻る。

 そしてそれとともに、将軍は再度口を開いた。

「……お前の言い分は分かったよ」

「そう? なら……」

 キララさんの声色が、不意に柔らかく……将軍とデートしてたときのような嬉しそうな色になる。

「そのうえでもう一度言うぜ。やっぱりこんなの駄目だ。間違ってる。キララはキララのままでいい」

「なっ……」

 しかし、将軍は毅然とした態度で、己の考えを口にする。

「それによ、別にこんなことしなくたって、居場所なんか」

「そ……。結局晴斗も、アタシの邪魔をするんだね」

 将軍は諭すようにキララさんに呼びかけるも、彼女はその声を拒んだ。

「っ、待ってくれよキララ、おれはまだ」

「うるさいばかっ! 全部、アンタのせいだよ! だから……邪魔しないでよ! 晴斗!」

 キララさんは両腕で頭を抱え、頭をくねらせながら叫ぶ。すると腕輪が発光し、彼女の叫びと共に再度放射状に突風が発生、加えて周囲の景色が歪んでいく。

 これは……やるしかなさそうだ。

「ぐわぁぁっ!」

 先程の風でも立っていた将軍であったが、今回の風は先程よりもぐっと強く、加えて彼女の至近にいたためか堪えきれずに体勢を崩し、地に膝をつける。

 凍える風が吹きすさぶ中、視界が真っ白に染まっていった……。

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