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少女と影編⑤『襲撃者達、再び』

キララが暴走し、昴を襲い監禁している。

信じられない情報を晴香から伝えられた晴斗は、連夜達と共に昴の家へと急行する。

だがその道中、バットで武装した襲撃者達が現れる。

少女と影編⑤『襲撃者達、再び』

「はぁ、はぁ……」

 普段あまり運動してないせいか、走ると息が切れる。

 俺達は走りながら、岡宮(おかのみや)の住宅街を北へ北へと向かっていた。

 空星さんの家は、将軍の家よりさらに北側にある。前は将軍の家までタクシーで行ったが、平日に制服姿でタクシーに乗るわけにはいかず、またちょうどいい直通のバスもなかったため、途中までバスを使い、そこからは徒歩で行く羽目になったのである。

「ちっく……まだかよ……」

 喉の奥が痛くなり、ほのかに鉄の匂いを感じる。

「後5分くらい、走れば着く!」

「私はまだまだいけます!」

 俺の前をよーちゃんと将軍が駆ける。辺りは既に真っ暗で、バスを降りてからかなりの時間走っているような気がする。息を切らす様子の無い2人と違い、俺は身体に治癒魔術を掛けながらであるが、正直しんどい。走っているおかげで身体が温まり、冬の夜の寒さを感じていないのは良かったが……。

『彼女は空星昴の影、か。影と言うと何というか、最近やったゲームの事を思い出すな』

 俺が苦労して2人を追いかけていると、左耳から陽さんの声が聞こえた。

「はぁ、はぁ……ゲーム?」

 息を切らしながら、声に返答する。俺とよーちゃんは5メートルくらい離れているが、先日の将軍との戦いの後、よーちゃんからの提案で陽さんから小型マイクを新たにもらっており、このようによーちゃんから離れていても陽さんと会話ができる。なお会話の内容はよーちゃんにも聞こえている。

『ああ。そのゲーム、というかRPGなんだが、人間の抑圧された……目を逸らしている内面・感情が自分と瓜二つの姿をした「影」として実体化するって話があってな?』

 陽さんは面白そうな、あるいは興味深そうな様子の声色で話を続ける。

「瓜二つの自分って、分身体、みたいな?」

『いや……分身体とは違うなあれは。ただ、その影は瓜二つの姿をしながら、オリジナルにとって否定したい、認めたくない姿・態度・言動を取って現れるんだ』

「否定したい、認めたくない姿……」

 空星さんにとって、キララさんは認めたくない、受け入れがたい自分みたいなものなのだろうかと、ふと思った。

『それでだ。影はオリジナルからしてみれば到底受け容れられない自分の姿で、そんな影の存在をオリジナルが否定してしまうと……』

「すると……どうなる……?」

『存在を否定された影は暴走し、オリジナルを殺してしまうんだ』

「まじか……」

 分身が原因で死ぬって言うと、よくあるドッペルゲンガーみたいなもんか。今の空星さんとキララさんの間に起きていることを考えると、何というか洒落にならない気がした。

『まぁ、これはあくまでそのゲームの設定の話だし、仮にオリジナルたる昴さんを殺してしまうとキララさんも消えてしまうので、そういうことにはならないと思うが、彼女の話を聞いて何というか、ふと思い出したんだ』

「そうか……。よっぽど印象に残るゲームだったんだな」

『ああ。もう1人の自分っていうのがどうしても心に残っててな。わたしももう1人の自分がいるから他人事じゃない気がして……』

「なるほど。……そのRPG、今度教えてよ。俺も遊んでみるから」

 たまにはPCゲームだけでなく、コンシューマーゲームをやるのも悪くないか。

『分かった。今度教える。もし遊んだら感想を聞かせてくれ』

「おうよ!」

 陽さんと話をした結果、若干胸の苦痛が和らいだ気がした。


「もうすぐだ! あそこを曲がって100mくらい!」

「連君、頑張って! あとちょっとです!」

「あぁ……!」

 丘の上の方、愛鷹山(あしたかやま)の方へ進むにつれて、家の密度が次第にまばらになっていく。どうやらあと少しのようだ。

 それを聞いて安堵しながら角を曲がろうとしたときだった。

「「っ!!」」

 突如、前を走っていた将軍とよーちゃんの動きが止まる。

「うおっと! 何だよ二人ともっ!」

 急に止まる羽目になり、胸がバクバクする。

 だがそんな俺の目前に入ってきたのは、バットを携え、黒い目出し帽を被った男達であった。

「っ! こいつら……あのときのっ!」

「何だ? 知ってんのか碧?」

「以前、私達を襲った連中に似ています」

 忘れはしない。以前頭をバットで殴られて、危うく死にかけたのだ。そのときはよーちゃんが魔術に目覚めて難を逃れたのであるが……。

『あれが件の襲撃者とやらか。……穏やかな雰囲気じゃないな』

 陽さんが所感を述べたタイミングで、男の一人が俺の姿を見て気付いたように叫ぶ。

「あの顔! 間違いない、碧 連夜でっせ!」

 男は隣の少し背が高い男にそう伝えた。

「ふっ、あのお方の情報通りだな」

 伝えられた男はまるでにやりと笑ったときのような声色を発する。

「あん?」

『あのお方って誰だ……?』

 そんな風に疑問を感じる間もなく。

「おい! 行くぞおめーら!」

「死ねやコラーッ!」

 男達は俺達に襲い掛かってきた。


「何だよこいつら!」

 男の1人が振り下ろしたバットを、将軍は両手で受け止めている。

「分からん! とにかく、こいつらどうにかしないと……うおあっ!」

 殺意を込めて振り下ろされた一撃を、俺は何とか避ける。アスファルトから鈍い音が響いた。

『完全に殺る気だな……魔術で撃退しろ、連夜! ヨウ!』

「了解、ってぁ!」

 俺は氷柱を生成してバットの一撃を受け止める。

「てぁーっ!」

 そしてそのまま後ろに飛び跳ね、迫る男達に吹雪をぶつけた。

「ぐわっ!」

 雹交じりの吹雪を真正面からぶつけられた男達は、苦悶の声を上げながら顔に手を当て仰け反る。

「戦闘を開始します! いやーっ!」

「ぐおあーっ!」

 よーちゃんはシャウトと共に両手から石弾を発射、浜辺の石のような丸い石弾は、マシンガンのような軽快な射撃音と共によーちゃんに迫るバットを弾き返すと、そのまま男達に襲い掛かった。

「例の力か……! 怯むな! 数で押し切れ!」

 吹雪と石弾の直撃を食らった男達数人は堪え切れず地に倒れ伏したものの、別の男達が角から次々と現れて襲い掛かってくる。

「ちっ!」

 俺は右腕を新たに出現した男達に向けて強く力を込める。右手から青いサークルが現れる。

『よし今だ! 撃て!』

「はぁーっ!」

 そして陽さんの掛け声とともに、込めた力を解き放つ。

 巨大な氷柱と吹雪が発射され、男たちの眼前で炸裂した。

「グワーッ!」

 周囲の地面は白い氷で覆われ、バットを振りかざそうとした男達は地面に倒れた。

 だが、男達は次から次へと現れる。

『っ、数が多いな……大丈夫か?』

「あぁ。それにしてもこいつら、何人いんだよ!」

「それは分かりませんが、さっきの話を聞くに、私達を待ち伏せしていたようですね?」

 さっき倒した数を含めると、ざっと数えて20人は居るようだった。こんな人数で閑静な夜の住宅街にぞろぞろと出待ちしているとか、悪夢以外の何物でもない。

「ちっ、おれもやるぜ! ウォーッ!」

 将軍は炎をまとった拳を振り回す。

「ふんっ! ふんっ!」

「ぐわっ!」

「あっち!」

 凍った地面が瞬時に溶解し、アスファルトがところどころ焦げて煙が上がる。

 目の前でオレンジ色の高温を振り回された男達は熱で怯み、動きが止まる。

「てやーっ!」

「「「グワーッ! ぐふっ!」」」

 更に炎の熱で怯んだところに、よーちゃんの決断的石柱による一撃が横から薙ぎ払うように炸裂! 男達はボーリングのピンの如く弾き飛ばされ、道路脇のブロック塀にまとめて激突した。

『今だ、連夜!』

「てやーっ!」

 残る男達も、俺が雹交じりの吹雪をブチ当て、まとめて吹き飛ばした。


「ぐぉぁ……」

 かくして、20人近く居た男達は、数分足らずで全員のされて路上に倒れ伏していた。襲われた当初はどうしたもんかと思ったが、3人がかりで力を使えばあっという間だった。

「おい……」

「っ! ひぃっ……」

 将軍は起き上がろうとしている1人の男に近寄ると、拳を鳴らしながら、ものすごい剣幕で睨みつける。

「てめえらが誰だかは知らねぇが、こちとら急いでんだ! これ以上やるってんなら……加減、できねぇぞ……?」

 将軍の背後からオーラのようにオレンジ色の炎がものすごい勢いで立ち上がり、アスファルトを焦がす。

「おめえらの相手なんてしてる場合じゃねえんだよ……!」

 轟々と燃える炎によって周囲を明るく照らし出され、瞬く間に冬らしからぬ熱気が漂い始める。炎は将軍にまとわりつくように立ち上っているものの、このままにしていたら周囲の空き地の原っぱやら民家やらに燃え移って大惨事になるんじゃないかというくらい、勢いよく噴き出していた。

「うぉあっ!」

 睨まれた男達の内、将軍の間近にいた男は熱気に耐え切れなくなったのか、情けない声を上げながら飛び退くと、そのままゴロゴロと地面を転がった。

「こいつ、まさか『炎の魔人』か!?」

 仲間を肩に抱えて立ち上がった男の1人が、将軍を見て叫んだ。

 炎の魔人。奇しくも俺が魔術を振るう将軍に抱いた第一印象もそれだった気がする。

「『炎の魔人』って……あの!?」

「裏路地のヤンキー達を一晩で一網打尽にしたとかいう、『人体発火男』か!?」

「都市伝説じゃなかったのか!?」

 将軍を見て口々に叫ぶ男達の声色からは、動揺と困惑、そして恐怖が感じ取れた。

「碧 連夜と岩使いの娘だけならまだしも、『炎の魔人』が居るなんて聞いてねぇぞ!」

 ……どうやら将軍は色々と変な評判を持っていたようだ。魔術の力を手に入れたときは不良少年だったというし、その力で逆境を切り抜けた経験があったのかもしれない。前に俺達と戦ったとき、妙に力の扱いに慣れていたのもそのためだろうか。

「……」

「ひっ!」

「うわぁぁぁ!」

 体中からオレンジ色の炎を吹き出しながら、無言でジリジリと近寄ってくる将軍を見て、男達は慌てふためいた。まさしくこの様子は「炎の魔人」だし、「人体発火男」だ。

「畜生!」

「ど、どうしやすか!」

 リーダー格であろう、後方に陣取る1人に対応を仰ぐ男達。

「こうなったら……カシラとオヤジに報告だ! 撤退! 撤退!」

 リーダーは即座に状況判断した。

「退避! 退避!」

「おい、逃げるぞ!」

「うぉあっ!」

「ひぃぃぃぁぁぁぁ!」

 男達は倒れた仲間を抱え起こすと、そのまま足を引きずりながら悲鳴と共に逃げ去っていった。


 男達の姿が見えなくなったところで将軍の身体の炎が消え、瞬く間に冷たい北風が勢いよく流れ込む。熱気が冷気に上書きされていく。

「ったく! 余計な手間取らせやがって……さっさと行くぞ!」

「あっ、待てよ将軍!」

「一橋君!」

 苛立つ将軍は再度走り出す。俺とよーちゃんはそれを追いかけた。

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