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少女と影編④『影煩い』

キララの正体は、空星昴の分身体であった。

昨日のことを学校で話しあっていた連夜達は、昴本人に確認してみることに。

だが昴と通話した直後、晴斗の姉、晴香から電話がかかってくる。

少女と影編④『影煩い』

『さて。一旦状況を整理したい』

 衝撃の出来事があった翌日の放課後。俺達は自習室に集まっていた。キララさんのことについて話し合うために。

「あの後、キララさんから連絡は?」

 陽さんの言葉に続くように、よーちゃんは将軍に問いかける。

「……来てねえ。こっちから連絡を取ろうにも、あいつは電話を持ってねえからしようがねえよ」

 うなだれた様子の将軍の言葉を聞いた俺は、違和感を覚えた。

「あれ? 俺、キララさんに電話で連絡取ったぞ? 電話が無いことはねぇと思うんだが……」

「何!? どういうことだ碧!」

「えーっと、ほら、この番号」

 前に将軍の様子がおかしいってんで、キララさんに調べるよう頼まれたとき、夜10時以降ここに掛けるよう言われた番号があったはずだ。俺は携帯端末の電話帳から、該当の番号を将軍に見せた。すると……。

「この番号……空星さんちの番号だ!」

『何!? それは本当なのか?』

「ああ。昔、姉ちゃんに代わって空星さんに何度も連絡を取ったことがよくあったから頭に入ってる。まぁ最近は携帯あるんで使わなくなって久しいんだが……間違いねえよ」

 俺の家も、最近は携帯でしかやり取りしていない。個人情報の登録も携帯の番号で済ませている。固定電話に掛かってくるのは大体胡散臭い勧誘の類ばかりなので、もはや電話が鳴っても誰も受話器を取ることは無い。それはおそらく空星さんの家も同じで、それゆえキララさんは俺との連絡に利用したのかもしれない。

「ということは、キララさんは空星さんの家に自由に入れる立場ということになりますね。空星さんに、姉や妹は?」

「いねえ。空星さんは一人っ子、両親との3人暮らしだったはずだ」

 電話に関する矛盾から、一気に核心に至りそうな情報が揃ってきた。

「うーん、そこまで聞くと確定っぽいなぁ。陽さんはどう思う?」

『わたしも確定ではと感じるんだが、空星さん本人に聞かない限り、断定はできないな』

「確かにそうだな」

 ここまでキララさんが空星さんの分身体であるという仮定で話を進めてきたが、それを確定することができる決定的な証拠はない。

「一橋君、部活時間が終わったら、空星さんに電話して確認していただけますか?」

 学校内での通話は校則違反だ。部活終了後、帰宅途中に掛けて聞くしかあるまい。

「分かった」


 そして部活動の時間が終わり、帰る時間がやってくる。

「おや、君達は……」

 3人で校門を出ようとすると、声を掛けられる。

 そこに居たのは若い女性というか、八雲先生だった。

「先生、お疲れ様です」

 よーちゃんがぺこりと一礼する。俺と将軍も、続くように一礼した。

「はいはい。あ、君達には言うまでもないことなんだけど、真っ直ぐ家に帰ってよ? もう日が沈んでるし、最近は色々物騒だからね……」

 八雲先生は手元のメモ帳を見ながら、俺達に注意を促した。

「分かってます、先生。それでは、また明日」

「また明日ねー」

 俺達は校門を後にした。


「ふい〜、緊張した……」

 校門から少し離れたところで、将軍はほっと一息する。なお、普段将軍と俺達は帰る方向が逆なのだが、今日は確認のため将軍にはある程度同行してもらっていた。

「緊張するんですか? 八雲先生と話すの。担任の先生ですよね?」

「緊張するに決まってんだろ。あの人生活指導の先生でもあるんだぞ?」

 俺達が八雲先生と話しているとき、将軍は裏で気まずい顔をしながら縮こまっていたようだ。

「この学校の先生なんて、全員生活指導みたいなもんだろ。それに八雲先生は優しくて親切だから大丈夫だよ」

「そうかねえ……おれは慣れねえわ」

 俺とよーちゃんはよく八雲先生と話すことに慣れてるが、将軍はそうでも無かったようだ。

「さて。そろそろいいですかね。……オリジナル」

 よーちゃんが通信機のスイッチを入れ、陽さんを呼び出す。

『ああ。問題ない。一橋君、電話を頼む』

「了解。……あ」

 将軍は携帯端末を持ったまま固まった。

「どうしましたか?」

「最近、というか長らくやり取りして無かったんで、空星さんの携帯番号分かんねぇ! 多分持ってるとは思うんだが……」

「ちょっ! どうすんだよ!?」

 予期せぬ事態に、思わず身体がびくっとなってしまった。

『固定電話の番号に掛けるのは?』

「今どき多分出ねぇと思う……。いや待てよ……確か」

 将軍は携帯端末をポチポチと操作する。

「あった! おばさんの番号なら、ある! 自治会の連絡のために、前に姉ちゃんに教えてもらったやつ! これなら……」

 将軍は即座に電話を掛け始める。

 少し待つと、電話が繋がったようだ。

「あ、もしもし。……俺です、一橋陽斗です。……はい。あの、昴さんいますか?」 

 どうやら空星さんの母親に繋いだようだ。

「……はい。ちょっと、昴さんに確認したいことがあって。……あ、分かりました。ありがとうございます、えーっと……」

 しばらくした後、将軍は何やらメモを取り、程なくして通話が終わった。

「空星さん、今外にいるらしい。おばさんから携帯の番号教えてもらったんで、今からそっちに掛ける」

「了解。頼むわ」

 将軍は再度携帯端末に番号を入れ、耳に当てた。しばらくすると、再び将軍が話し始める。

「あっ、空星さん。こんばんは。俺です。晴斗です。あの、昨日の件で聞きたいことがあるんすけど……」

 どうやら本人に繋がったらしい。

「はい。空星さんと、キララは……どういう関係なんすか?」

 核心に入った。

「……影。……そうなんですね。キララは、これからどうなるんすか? ……そっすか。その! お願いがあるんすけど、あいつのこと……。あっ! そうですか! ……ありがとうございます。……よろしくお願いします」

 再び電話が切れる。

『一橋君、空星さんはなんと言っていた?』

 早速陽さんは尋ねる。

「空星さん……キララのことをこう言ってた。……あいつはわたくしの『影』だって」

『影!?』

「あ、はい。ある日突然目の前に現れた自分と瓜二つの存在で、存在そのものが忌々しい影だと」

「影。空星さんはそう呼んでいるということでしょうか」

「多分?」

 前に陽さんと話をしたが、人によって呼び方が違うのはある程度仕方ないと思われる。

『これでおそらく確定とみて良いと思う。キララさんは、空星さんの『分身体』だ。空星さんは、わたしと同じ力を持った存在だったんだ』

 モエさん、よーちゃんに続く3人目か。思ったより『いる』もんなんだな、と俺は思った。

「空星さんは、キララのことを消そうと試みたようだが、できなかったらしい。……仕方なく家から追い出したとも言ってた」

「消せない? そりゃつまり、空星さんはキララさんのことを出したり引っ込めたりできないってことか?」

 以前陽さんの家で見たメモにあった、特記事項に該当する存在ということだろうか。

「多分、そういうことじゃねぇかな。なぁ陽さん、分身体ってのは、オリジナルの意思で自由に出したり消したりできるって前話してたよな? もし消せるんなら空星さんが悩んだりはしねぇはずだよな?」

 将軍は確認するように陽さんに問いかける。

『そうだな、一橋君。おそらく、キララさん……空星さんの分身体は一種の暴走状態で、彼女の制御下にないということだろう。わたしと違って』

 分身体がオリジナルの制御を受け付けなくなった事例は、真白先輩の最期のときがそうだったが、他にも事例があったということか。

「それで……空星さん、昴さんは、キララさんをどうするつもりなのでしょうか? 昴さんはキララさんのことを嫌ってるんですよね?」

 よーちゃんは不安そうな様子で将軍に尋ねる。自分と同じような存在の処遇が気になるのは当然だと思う。

「それが……キララのこと、どうにか認めてあげてくれねえかって頼もうとしたら、どうも空星さんはおれがあいつを大事にしていることを知ってるらしくて、それで、もう一度話し合ってみるって言ってた」

「っ、そうですか。それは良かった、ですね」

「あぁ……。空星さん、分かってくれたみたいで良かったよ」

 将軍の言葉を聞いて、よーちゃんはほっとしたようだ。

「当人達が話し合って、納得のいく形で解決してくれるなら、それがベストだと俺は思う」

『わたしも同感だ。もしキララさんが困っているようなら、わたし達で助け舟を出せるようにしておく……それが今のわたし達にできることだな』

 正直、話し合いで解決すれば一番だろう。無論そう安安とはいかないと思うが、そんなときこそ仲間の出番だ。

「それでは、この件は一旦保留ということで」

「だな。ありがとう碧、陽さん、ヨウさん」

「「『どういたしまして』」」

 俺達はひとまず事態を見守っておくこととし、家に帰ろうとした。


「……あれ? 姉ちゃんから電話だ」

 だが、ここで将軍の携帯端末に、晴香さんから電話が掛かってくる。端末を耳に当てる将軍。

「あ、もしもし姉ちゃん? どうしたんだ? ……え? 空星さんから俺に? うん……うん…え? それって、マジ?」

 将軍の声色が、険しくなっていく。

「……分かった。教えてくれてありがとう、姉ちゃん。……うん。……俺に任せて。……うん。それじゃまた」

 電話を切った将軍は、何やら戸惑っている様子だった。

「その……陽さん……」

『何だ?』

 将軍のいつになく言いづらそうな雰囲気に、陽さんは疑問を感じている様子であることが左耳から伝わる。

「姉ちゃんにさっき空星さんから電話があって、それで『晴斗君に伝えてほしい』って、伝言が」

『何っ!?』

「え……? 空星さんって、さっき携帯で連絡取ってたよな?」

 空星さんと将軍が通話してから、まだ数分も経ってない。嫌な予感がした。

「何て、言ってました?」

 食い入るような声色のよーちゃん。

「……『キララが突然襲いかかってきて、それで今は、家に監禁されてる。助けて欲しい』って伝えてくれって」

「え?」

 それって……。

「『晴斗くんにそのまま伝えて。晴斗くんなら分かるから』って、空星さんちの電話から掛かってきたって。……それで姉ちゃんは訝しんで空星さんの携帯に掛けたらしいんだが、空星さん、普通に出てきたらしくて、伝言の件聞いてみたら、そのまま電話が切れたって。……んで、俺にどういうことのかって、姉ちゃんが」

 ……晴香さんの話は、多分本当だろう。というかここで嘘つく理由がない。

「さっき将軍と通話してた『空星さん』ってのは、まさか」

『十中八九、キララさんだろうな』

「っ!」

「っ……。昴さんのふりをして、一橋君の電話に応じたということですね……」

 よーちゃんの口から、驚きが漏れ出る。

 分身体とオリジナルは声も瓜二つ。電話越しならば成りすますことは難しくないだろう。

「まじかよ。ってか、仮にその、空星さんの話がマジだとして、おれへの伝言の件、姉ちゃんはキララに伝えちまった、ってことだよな? これってやべえんじゃねえのか!?」

『そうだな。一刻も早く、昴さんの家に向かわないと!』

「ですよね? 何でそんなことを。キララ……」

 もし監禁の話が本当だとしたら、空星さんはそこから逃れようと、隙を見て家の電話を使って晴香さんに連絡したことになる。そしてそのことがキララさんにバレてしまった、ということにもなる。順当に考えて、キララさんが空星さんをこのままにしておく訳がない。空星さんの身が危ない!

(ん……?)

 と、ここまで考えたところで、俺はふと、ここまでの流れに違和感を覚えた。

「なぁ、ちょっといいか?」

「どうしました連君」

『どうしたんだ連夜。手短に頼むぞ』

「陽さんの言う通りだ碧」

 陽さんと将軍は、急いで向かいたいようだ。

「空星さんの件、なんか引っかかるんだよな」

「引っかかるって、どういうことですか?」

『引っかかるも何も、携帯の番号を案内したのを見るに、空星さんのお母さんは、キララさんのことを空星さんと認識していると考えられる。キララさんが空星さんを監禁して空星さんとして振る舞い、立ち位置を乗っ取ったと考えるのが妥当だろう』

「確かにそうなんだろうと思ったんだが、昨日の今日で、そんな簡単に成り変われるもんなのか?」

 昨日の出来事が切っ掛けでキララさんがそんなことを企んでしまったとして、そんな簡単にできるだろうか。

「髪の色を変えればいけるんじゃないでしょうか? 私とオリジナルとで叔母さんを騙せてますし、容易かと」

「髪の色とか元に戻したって、髪型とかは簡単に再現できないだろ。……服装だってそうだ。それにさ将軍、キララさんと初めて会ったのは?」

「……確か、1年前の8月だ」

「1年前の夏……それからずっと消されずそのままってことは、記憶もオリジナルの空星さんとは大分乖離してるはず。なのに違和感を覚えることなく、キララさんを空星さんとして認識してるって、空星さんの母親って、将軍の両親みたいな感じなのかよ?」

 毎日こまめに記憶の同期を取ってるよーちゃんと陽さんの場合とは、勝手が違うように思えた。

「空星さんの両親は何というか、教育熱心な感じだな。おれは姉ちゃんの弟だからまぁ大目に見てもらっている感があるが、素行の悪い奴は、まぁ近づけないだろうな普通は」

「……そんな教育熱心で娘に関わりたがるような親が、娘の違和感に気づかないなんて、やっぱり何か、引っかかるんだよな……」

 話を聞けば聞くほど、俺の中で違和感が膨れ上がっていく。正真正銘のドッペルゲンガーめいたキララさんのムーブもそうだが、動機も気掛かりだ。何でいきなりオリジナルを襲ったんだ?

『確かに、君にそう言われてみると違和感がないとは言えないが、まずは空星さん本人の無事を確認したい。それから考えても遅くはないだろう』

「オリジナルの言う通りです連君。事の動機とかは気になるところですが、ここであれこれ考えるよりも、キララさん本人に直接確認するのが確実ですよ」

「……そうだな。わりぃ、行こう!」

 とはいえ、彼女達の言う通りでもある。まずは空星さんの安否確認が先決だ。

 俺達は、昴さんの家に向かうことにした。

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