少女と影編②『キララの正体』
晴斗は連夜達に、キララともっと仲良くなりたいと相談する。
そして当日、晴斗は彼らに見守られながらキララとデートするが、そこで姉の親友、昴と遭遇するのだった。
少女と影編②『キララの正体』
「アドバイスが欲しい!?」
「そ、そうなんだよ碧、ヨウさん! なんかいいデートスポット、教えてくれねえか!?」
2008年も霜月に入り、冬の空気が港町に漂ってきたある日の放課後。自習室にやってきた将軍に、俺とよーちゃんは頼まれた。
何でも、先の件でキララさんに迷惑をかけてしまったので、その埋め合わせのためにデートをすることになったらしい。
「一橋君とキララさんは普段も2人で遊んでいるんですよね? キララさんが気に入りそうな場所は、私達よりあなたのほうが詳しいのでは?」
『わたしもヨウと同意見なんだが……普段とは違う体験を、彼女にさせてあげたいのか?』
「そう! そうっすよ陽さん! 普段通りに遊ぶ、だと何というか……特別な感じがないじゃん! だから、おれの知らねえ良い穴場スポット、知らねえかなって」
「うーん……。将軍の言わんとしたい気持ち、分からなくもないんだがなぁ」
正直、俺は将軍ほど女子と遊んだ経験は無い。というか前一緒によーちゃんとゲーセンで遊んで、あの水が流れる喫茶店で食べた経験くらいしかない。それ以外は陽さんを交えての勉強会で、将軍の想像するようなデートといったものにはとんと疎かった。
『多分この2人に聞いても、一橋君が期待しているような回答は返ってこないと思うぞ?』
「オリジナルの言い方に、今ちょっと心に棘を感じましたが……事実ではあるので反論し難いですね……」
「まったくもって、面目ない。すまねぇ将軍! これから一緒に探すってのはどうだ?」
思いつかないので、これから探すことを提案する。すると。
「いや、それはいい。流石におれから一方的に頼んでおいて、更に時間まで使ってもらうなんてその、わりぃからな」
将軍は申し訳無さそうに頭を下げる。
「一緒に助け合うのも、友達だと思いますよ?」
「その心遣いはありがてぇんだが、やっぱこれは俺が撒いた種な訳で、さ。やっぱ自力で片付けなきゃならねえって、お前達と話して気付いた」
よーちゃんの助け舟も、将軍は固辞した。
『……そうか。分かった。ただ本当に二進も三進も行かなくなったときはデート中でも遠慮なく連絡してくれ。わたし達でフォローする。2人共、異論はないな?』
「俺は問題ない」
「私もオリジナルに同意します」
「ありがてぇ……それじゃデートの日程決まったら連絡すっから、よろしく頼む!」
そんな訳で、俺達は将軍とキララさんのデートをサポートすることになった。
そしてデートの当日……。
「よ……よう、キララ!」
「おはよ晴斗! 今日もよろしくね!」
晴斗、もとい将軍とキララさんは、沼津駅の南口で落ち合っていた。
「あ、あぁ……」
「……? 何かぎこちないね? どしたの?」
「い、いや……なんか緊張するっつうか、その……」
遠目から耳に入ってくる将軍の声色は、どことなく余所余所しいというか、違和感バリバリだった。
「えー? アタシと遊ぶのはいつものことじゃん。別にアタシはいつも通りで良いと思ってるから、晴斗もヘンな気は遣わなくていいよ。その方が、きっと楽しいよ!」
「わ、分かった……そうだな。いつも通りだよな、うん」
訝しむキララさんをよそに、将軍はコホンと咳払いをしたようだった。
「大丈夫でしょうか? 一橋君」
『一橋君は困っているようだが、キララさんは楽しそうに見える。問題ないと、わたしは思う』
「今のところはなんともいえんな……って、ちょっと待った」
2人が出会う姿を、俺とよーちゃんは物陰から覗いている。陽さんもカメラ越しに見ている。
「『どうしました(どうした)? 連君(連夜)』」
「なんつーかこれ、ストーカーやん。人のデートをこっそり覗き見るなんて……」
デートの様子を遠目から覗き見るというのは、どこかで聞いたことがあるシチュエーションだ。フィクションの中だけだと思っていたが、まさか実際に体験することになるとは思わなかった。
『デート中にサポートするとなれば、こうもなろう。実際の様子を把握していなければ、的確なアドバイスなんて不可能だからな』
「オリジナルの言う通りです。それに事前に近くにいることは、一橋君に連絡済みでしょう?」
「そ、そうだけどよ……」
理屈では正しくても、釈然としない気持ちがあるのは否定できない。
「あっ、2人が動き出しましたよ!」
俺が逡巡している内に将軍とキララさんのやり取りは終わり、どこかへ向かうようだ。
『2人共、見失わないよう、そして気づかれないよう追ってくれ』
「了解」
「お、おう」
俺とよーちゃんは、将軍とキララさんの後を追った。
結論から言うと、2人のデートはつつがなく進行した。沼津港近くの水族館に行ったり、お昼に魚市場で海鮮料理を食べたり、千本浜海岸で海を眺めたり……と、沼津駅南口近くでどうして良いか分からずに時間を浪費していた俺とよーちゃんとは比べ物にならないくらいアグレッシブにあちこち歩き回り、その場その場でスポットを堪能していた。おそらく、普段から行き慣れているのだろう。経路選択に迷いがなく、沼津港周辺の地理に熟知していることが後ろからつけていて分かった。
加えて2人の様子だ。当初は自分がエスコートしなければと気を張り、ぎこちない様子の将軍であったが、水族館を観に行くあたりになるとすっかり落ち着きを取り戻し、キララさんと一緒に展示物を楽しんでいるようだった。そしてキララさんの方も、楽しそうな将軍の姿を見て、何というか……優しい笑みを浮かべているように俺は感じた。
「本当に仲が良いんですね。あの2人」
『まさに阿吽の呼吸、といったところだな。若干一橋君がキララさんの尻に敷かれている感が否めない気もするが、一橋君自体、そのことをまんざらでもない感じだし、ギクシャクしている様子はまるで見受けられないな』
「俺達の出る幕は無さそうだな……っと、また移動するみたいだ」
2人が海岸から離れる。日が傾き始めており、そろそろお開きといったところだろう。俺達も海岸を後にした。
「今日は楽しかった! ありがとね晴斗」
「どういたしまして。その……俺のせいで色々心配かけさせちまったからな。碧達にも協力してくれるよう頼んだんだろ? その埋め合わせをしたくてさ」
「なるほどね。おっけーおっけー! これでチャラってことで。気にしなくていいよ!」
「分かった」
沼津駅南口に戻ってきた将軍とキララさんは、再び話をしている。その様子を、俺達は無言で見守る。
「晴斗、今日は楽しかった! また、遊ぼうね!」
「ああ! また遊ぼう!」
「約束だよ?」
「約束する!」
強い絆で結ばれた2人の間には、何人たりとも入り込めそうにない。そんなオーラが漂っている彼らを眺めた俺達は、何もしていないにも関わらず、思わずほっこりとした気持ちになっていた。
だが、その雰囲気は、予期せぬ事態によって破壊されることとなる。
「なっ、あなた……!」
2人の目の前に、突如1人の少女が現れる。少女は黒髪のポニーテールで、袖の長いTシャツにズボンを履いている。
「っ! 昴……」
その姿を見たキララさんの様子がおかしい。これがいわゆる目の色が変わるというやつだろうか。
「えっ、そ、空星さん……?」
将軍も少女の姿を見て驚く。名前を呼んでいるのを見るに、面識があるようだ。
……というか、「そらほし」さん?
確か前に、キララさんの家に電話をかけたとき、「そらほし」って最初名乗っていたような……。
「晴斗くん……。っと、そんなことより!」
空星さんと呼ばれた少女は、キララさんを見るなり一言こう言い放った。
「わたくし言いましたわよね? 今すぐわたくしの前から消えてと。……いい加減にして」
空星さんの口から飛び出したのは、キララさんに対する嫌悪の言葉だった。その声色は明らかに怒っており、加えて苛立ちを強く感じた。
「なっ! ちょ、どういうことだよ空星さん! キララを悪く言うなら、いくら空星さんでも許さねぇぞ!」
自分の大切な友達に酷いことを言われた将軍は動揺し、怒りに満ちた声色で返すが、そんな彼に対し、空星さんは落ち着き払った様子で向き合う。
「晴斗くん。貴方には話すしか無さそうね。いい? そこにいる『キララ』っていうのはね――」
「っ!」
「ぐうっ!」
空星さんが将軍に何か話そうとしたその刹那、突如キララさんはそれを遮るように空星さんにタックルを仕掛け、そのまま突き飛ばした。突き飛ばされた空星さんは、駅前の石畳にうつ伏せの姿勢で勢いよく叩きつけられた。
「『「あっ!!!」』」
その様子を見た俺達は、あっけにとられる。
「なっ、キララ! おいキララ!」
そしてそのままキララさんは一目散に遠くへと走り去ってしまった。
「キララ……」
「う、ぐぅ……」
地面に顔を強打した空星さんは、苦悶の声色を発していたが、突如力が抜けたように動かなくなった。
「あ、そ、空星さん!」
将軍は空星さんを抱き起こす。顔のあちこちに傷ができ、血が流れていた。よく見ると鼻の形が歪んでいるように見えた。鼻血も出ていた。
『連夜!』
「あ、あぁ!」
俺は物陰から飛び出して将軍に近寄り、抱きかかえられている空星さんに治癒魔術をかける。すると白い光とともにみるみる内に出血は消えていき、顔の傷もあっという間に元通りに修復された。
「空星さん! 空星さん!」
「う、うう……はっ!」
意識を取り戻した空星さんは、いきなり身体を捻って立ち上がった。
「うおあっ! ……ぐぁっ!」
彼女を抱き起こしていた将軍はその動作に突き飛ばされる形になり、後方に尻餅をついてしまう。
「あ、あいつ……っ!」
「ててて……。あっ、空星さん!」
そして空星さんはさっきのキララさんの如く、キララさんが走っていった方向とは正反対の方向に、一目散に走っていってしまった。
「待ってくれ空星さん、っ! いてててて……」
将軍は立ち上がろうとしたが、腰を打ったためか悶絶し、動くことができないようだった。
「将軍! 大丈夫か!?」
今度は将軍に対し治癒魔術をかける。
将軍が回復して立ち上がったあたりで、よーちゃんも合流した。
「すまねぇ碧……ありがとう」
「どういたしまして」
俺と将軍は互いに一礼する。
『わたし達がついてて正解だったな』
「それにしても、あの空星さん、というのは何者でしょうか? キララさんの様子を見るに、穏やかな関係ではないようですが……」
よーちゃんは顎に手を当てて考え込むような仕草をしている。
「そのことなんだが……」
よーちゃんが呈した疑問に対し、将軍は何かを悟ったような面持ちでこう続けた。
「多分キララの正体は、ヨウさんと同じだと思う」
「『っ!?』」
左耳と右耳から、ぴったりとシンクロした動揺の声が流れ込む。
「将軍、それって」
「ああ、つまりキララは空星さんの、『分身体』だと思う。……炎の形が全く同じだったんだよ」
「っ……」
南口に、ひときわ寒い風がぶわりと吹いた。
――――――――。
炎の形が同じ存在。
キララを初めてみたときは、そういうこともあるもんだと思っていた。世の中には自分と似た人間が3人いると言うし、力の性質について、まだよく分かっていなかったから。
だが姉ちゃんの件でヨウさんと陽さんのことを知った今、それが何を意味しているのかは流石のおれでも分かる。
少女キララの正体は、少女空星昴の分身体だ。




