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インタールード『母のまごころ冷食弁当vs学食の大盛りラーメン』

ある日のお昼時。連夜はヨウが食堂で1人ぽつんとラーメンを食べているのを見かける。

彼女のお食事事情を知った連夜は、唐突にある提案をする。

そして行動を起こす中で、在りし日の想いに触れるのだった。

インタールード『母のまごころ冷食弁当vs学食の大盛りラーメン』

――――――――――――

 ……不思議な夢を見た。

 真っ白な空間。

 真っ白な空間。

 お仏壇の匂い。

 お仏壇の匂い。

 どこかで見覚えのあるその場所で。

「……夜。……連夜」

 ……懐かしい声が聞こえたような気がした。

――――――――――――


 将軍の件が一段落してから数日後のお昼どき。俺はいつものように◯ロリーメイトを食べるべく、学食へと足を運ぶ。

(腹減ったな……)

 そんな気持ちで頭を一杯にしながら学食の門をくぐると、無言でテーブルにごとんとドンブリを置き、そしてスッと椅子に座るよーちゃんの姿が目に入った。

「……」

 よーちゃんは綺麗な人形の目つきをしながら、無言で湯気が立っているドンブリの中を凝視している。ドンブリの中には黄色い麺がたっぷりと入っており、それは茶色く澄み、ところどころ油が浮いたスープに浸されている。スープの上には麺の他に、黄緑と緑が混ざった、一部刻み損ないがあるネギと、安っぽいチャーシュー、そして半分に切られた白い硬ゆで卵が麺に支えられるように浮いていた。湯気の香り……そこら辺のスーパーで買える生麺タイプのラーメンについてくるスープと大差ない香りはこちらにまで漂っており、俺は率直に美味そうだな、と思った。

 彼女が頼んでいたのはうちの学食の、特に何もついていないラーメンの大盛りだった。俺は素早く自販機で◯ロリーメイトを買って、よーちゃんの座っている席の真正面に向かった。

「こんにちは、よーちゃん」

 ひと声かけて席に座ると、彼女は箸に掛けた一塊の麺を啜り切り、口元に手を当てて、もぐもぐと動かしながら返事をしてきた。

「こんにちは、連君。……お昼ですか?」

「ああ」

 俺が言葉を1.5往復したタイミングで、よーちゃんは口の中に入っていた麺を飲み干したようで、次の言葉はより鮮明に聞こえた。

「こうしてここで一緒に食事するのは初めてですね。……ほんとに食べてるんですね。◯ロリーメイト」

 前によーちゃん(そのときは陽さんだと思っていた)と、そして真白先輩と話をしたときに話していたことだ。

「まぁな。よーちゃんはラーメンを?」

「はい」

 そう言いながらよーちゃんは麺の塊を箸で大きく取り出し、そのままレンゲを使ってこれまた大きく口の中に放り込み、もぐもぐと美味しそうに味わっている。

「飽きたりしない?」

 思わず聞いてしまう。

「飽きませんね。というか、連君も毎日ずっと◯ロリーメイト食べてるじゃないですか」

「あっ……ま、まぁそうだな」

 思わず言い淀んでしまう。俺も人のことを言えた口ではない。

「私も初めは他のメニューもちょくちょく食べていたのですが、最終的にはこれに落ち着きました。毎日食べても飽きませんしね。連君もそうでしょう?」

 俺が右手でつまんで口に運んでいる◯ロリ―メイトを目で追いながら、よーちゃんは見透かしたような声色を発した。

「全くもって、御明察の通りです。……ラーメンは、やっぱり醤油ラーメンが好きなの? 好物もラーメン系?」

 ここで俺はラーメンについて話題を膨らませようとした。

 すると彼女は言い淀むような様子でこのように返してきた。

「うーん……考えたことがなかったですね。好物は強いて言うなら……このラーメン?」

「このラーメン?」

 いかにも安っぽい量産型的な学食のラーメンは、されど侮れない芳醇な香りを俺の鼻腔にひたすら流し込んで来る。金を使いたくなる欲求に駆られるが、何とか押しとどめた。

「はい。この『学食』のラーメンです」

「……他に何か食べたりはしてないの?」

 そりゃまた随分と、限定的だなと思った。

「うーん、食べてないですねぇ。私はオリジナルが朝食を食べた後に呼び出されて、夕食前に消されるので。休日も、連君に会うまではずっと消されてたので、どっかで何か食べるってのも実は連君に会ってからが初めてで」

「そ、そうか……」

 言い淀んだ理由が分かった。よーちゃん特有の事情だった。確かに陽さんならそのようにするだろう。朝食と夕食の量がいきなり2倍に増えたらどう考えても誤魔化せないだろうし、食べ盛り2人分の食費は馬鹿にならないのだ。かといってよーちゃんに何も食べさせないわけにはいかない訳で……自分が食べた後に呼び出し、食べる前に消すのが妥当な落とし所だろう。むべなるかな。

「そういう連君の好物は?」

「俺は……肉かなぁ。鶏肉、豚肉、牛肉。焼肉とか好きだな」

 逆質問を食らうも、難なく返すことが出来た。だが実質「肉」しか言っていない。焼肉以外にも肉を使った料理とか、もっと具体的な料理名で答えればよかったなと後で後悔した。

「肉ばかり食べるんですね。というか、てっきりカ◯リーメイトがお好きなのかと」

 ぐさっ。

 「肉しか言ってないじゃないですか」という俺が薄っすら想定していた返事よりも、俺の胸に深く突き刺さる言葉がよーちゃんから放たれた。

「いやいや確かに! まぁ確かにおいしいよカ◯リーメイト。飽きないし、学食よりかはお金の節約にもなるし。ただ……家じゃ普通に他のものも食べるよ。まぁ毎日食えるわけじゃなくて、たまに御馳走的な感じでだけど」

「そうなのですね……。ふむふむ」

 先ほど俺の胸に刺さった一言と同じ声色の、素朴な返事がよーちゃんから帰ってきた。

「それにしても、何でいきなりそのような質問を?」

「いや、何か他に食べたいものとかあるのかなって、気になってさ」

「そうでしたか。まぁ私は先ほどお伝えした通りですねぇ。……あ」

「ん?」

 よーちゃんは、何か引っかかることがあったようだ。

「あぁ。ふと、オリジナルの好物について考えてました。記憶を見る限り……うーん……唐揚げ、と、卵焼き? が強く印象に残ってるみたいですね」

 どうやら好物についての話を切っ掛けに、陽さんの好物について思い出したようだ。

「なるほどな。陽さんの好物はそんなとこなのか。俺もまぁ好きだなそれは」

 卵焼きと唐揚げ。鶏と卵。変に作らない限り、まずくないわけがない。俺も大好物だ。

「そうなのですね。まぁでも私は食べられないですからね。平日に道中で買い食いするのは校則違反ですし、お金の無駄遣いをするわけにはいきませんし?」

(……)

 飄々とした様子で、まるで自分の現状について何の疑問も感じず、まるで他人事のように話をするよーちゃんの姿を見た俺は何というか、胸に何かが引っかかったような気分になる。

 そして、ついこう聞いてしまったのである。

「……羨ましくならない? 陽さんのこと」

「うーん、それも、連君にこうして言われるまで考えたことなかったですね。何というか、私にとっては毎日このラーメンを食べることが『当たり前』で、そこに何の不満も疑問も感じていなかったので」

「……そうか」

 だが、そんな俺の問いに対してもよーちゃんはどこかのほほんとしていた。

 その答えを聞いて、よーちゃんが納得してるなら仕方ねえかなと思っていたそのときだった。

「あっでも……連君に言われて気付きましたが、確かに具体的に指摘されると、羨ましいような気もしてきました。帰ったら、オリジナルに相談してみようと思います」

「っ……」

 あ、これやっちまったか?

 もしかして俺、やっちまったか?

 知らないままで済んだ方が良かった感情を、俺は目覚めさせてしまったんじゃないか?

 だが自分のやってしまったことに後悔しかける一方で、俺はこうも思っていた。

(いやでも……正しいよな? よーちゃんが陽さんと対等な立場になるには、必要な感情だよな)

 今の状態は合理的ではあるけど、それに対してよーちゃんが文句を言う権利はままあると思う。ここから先は、二人の問題だろう。

 ……と、ここまで考えたところで、俺はどうしたことか、咄嗟にこんなことを口走ってしまった。

「あっ! そ、そうだ! 俺、明日弁当作って持ってくるんで、食べる? その……卵焼きと唐揚げ入れて、作るわ!」

「え? 連君、お弁当作れるんですか? 初めて聞きましたよ?」

「自炊はできる!」

 嘘はついていない。母が亡くなって以来、家で普段料理係になっているのは妹の朝香(あさか)だが、俺も全く何も作れないわけではない。自分で食いたいと思ったものを作ることはよくある……家族に食べさせたりはしていないが。

「そうですか。……じゃあ、それ食べます。楽しみにしてみますね」

「お、おう!」

 女の子に期待されて、俺は浮かれた様子で返事する。

「……まぁ忌憚なく言えば、私のために、無理しなくても大丈夫ですからね? お金は十分ありますし、いつも通りでも私……問題ないので」

 ぐさっ。

「そ、そうか……まぁ、期待しててよ」

「分かりました」

 何というか、このやり取りに限らず、彼女の声色はマイナスの感情を感じられない。さっきの羨ましいのくだりと言い、まるで初めて知ったことについて感心しているかのような口調だった。俺の心に刺さっているのは、俺が勝手に彼女の言葉に負のイメージを無意識に捉えているだけだ。全くもって情けない。

 まぁともあれ、俺にはやらなければならないタスクが追加されたのだった。


「あっ、そういや、食べれないものとかって、ある? その……アレルギー的な」

 やべっ、忘れてた。人に食わせる以上、これは聞いとかなきゃヤバい。

「……? 特にないですよ。オリジナルに食物アレルギーはないので、私も問題ないと思います」

「分かった。教えてくれてありがとう」

「どういたしまして」

 ……問題なかった。俺はほっとした。


 その日の夜、岩波駅に着いた俺は迎えに来た父の車に乗るなり、父にこう伝えた。

「これからちょっと買い物したいんだけどできる?」

「いいけど、何買うんだ?」

「弁当箱と、後いくつかの食材」

「弁当って、弁当食べたくなった?」

「うん」

「じゃ自分で作って」

「うん」

 父はぶっきらぼうに応じるも、そのままショッピングモールへ足を運んでくれた。俺はそこで金属製の弁当箱を2つ買い、更に食材もいくつか買った。

「弁当箱、2つ買ってどうすんだ?」

「もう1つ必要な用事が出来たんだよ」

「あっそ」

 弁当箱を余計に買った件について、父は深く追及してくることはなかった。

「理由、聞かないの?」

「自分の金で買うんでしょ? 好きにしてください」

「……分かった」

 ……父はこういう人だ。俺が何かすることに対して、あまり言ってくることはない。昔はあれこれ何かにつけてあれはだめだこれはだめだ、ああしろこうしろと言い、時折拳骨が飛んでくるので、とにかく恐怖の対象であった。俺自身、昔は勉強がとにかく嫌いでサボりがちだったので、今思うとむべなるかなと思う部分もあるのだが、朝香に対してそうしているのをとんと見たことがないため、単に男の子だから厳しく躾けていたのだと思う。

 だが、朝香が不登校になり、加えて母が癌で入院した辺りから、そちらに手が掛かるようになったためか、俺の方は完全に放任主義と化した。俺自身が母の倒れた中学3年辺りから一念発起して優等生になったことも相まって、その傾向はますます強くなった。

 俺としてはしつこく干渉してくる存在がいなくなり、自己責任でやってる分には自由に色々できるため気楽な気持ちになったものの、程なくして母が亡くなり、気軽に悩みを打ち明けられる存在も同時にいなくなってしまった。

 以来、俺は困ったことがあっても何かにつけて自分で調べて解決するようになった。実際それで今までうまく行っていたので気にならなかったが……。

 今の俺の状況、初恋の人の死をきっかけに悪夢を見るようになったこと、不思議な女の子と関わりを持つようになったこと、そして友達を作るようになったことについて、母はそれぞれ俺に対し、どうアドバイスをしてくれたのだろうか。

(なぁ、母さん。こういうとき、俺はどうすりゃいいんだ?)

 今となっては、知る由もない。


 その後、家に帰った俺は夕食を食べて風呂に入り、弁当箱を洗い、そして……寝た。

 翌朝。目覚ましによって普段より早く起きた俺は、肌寒い中我慢しながら1階に降りる。1階は暖房が効いており父のいびきの音が聞こえる。俺はキッチンに向かうと手を洗い、そして作業を始めた。

(確か、粗熱を取るんだったな)

 準備していた広い容器に炊飯器のご飯を詰め、そのまま冷ましておく。

 それと並行して、具を準備する。冷凍食品をレンチンしながら、卵焼きを作る。どちらも母が作っていたものの見様見真似だ。

(……)

 具材を準備しながら、俺はふと、母のことを思い出していた。


 それから二十数分後。粗熱が取れた食材を詰め込み、具材の並び方まで全く瓜二つの2つの弁当が完成した。

(ふぅ……できたーっ!)

 弁当は2段構成で、上段には鶏の唐揚げとハンバーグ、そしてウインナーと卵焼きが入っている。唐揚げとハンバーグは冷凍食品で、ウインナーは買ったのをフライパンで焼いたやつ、卵焼きは自作だ。下段には鰹節と卵と海苔が入ったふりかけをまぶした白飯が入っている。

(母さんが作ってくれてた弁当を再現してみたが……上手くいったな。作れたな)

 茶色い具材ばかりの弁当。これこそまさしく母が必要に応じて作ってくれていた弁当であり、俺にとって「当たり前」の弁当だ。味も含め、そっくりそのまま再現することに成功した。なお卵焼きは表面に黒い焦げ目が多数ついているが、中まできちんと火が通っていて、母が作っていたのとおおよそ同じ見た目で、味もまさにまんまだったのでこれで良しとした。

(懐かしいな……)

 弁当の蓋を締めながら、再び思いに馳せる。冷食だらけの弁当で、お世辞にも母は料理が上手とも言えない人だった。母亡き後、母が作った料理を自分で再現してみたことがあるが、母は既製品を活用するのが上手く、自分でもあっさり母の味を再現できたことに驚くことが多かった。……だからといって、母の料理を貶すつもりは毛頭ない。既製品と知りつつも、俺はそれを美味しいと感じて食べていたし、その料理には母なりのまごころがこもっていたと思っているからだ。

(あぁ……そうか。そういうことか)

 ここで自分は、なぜよーちゃんに弁当を作ろうと思ったのか気付いた。多分俺は唐揚げと卵焼きというワードを聞いて、母の弁当を久しぶりに食べたくなったのだ。そして自分が愛したその味を、彼女に共有し、理解して欲しいと思ったからに違いない。

(傲慢だな……)

 相手のことを考えず、自分のエゴで弁当を作っている。これを傲慢と呼ばずして何というのか。

 でも、仮にこれで彼女に拒絶されても問題ないとこのときは感じてしまっていた。最悪1人で2つ食べればいいし、何よりそのときはそれよりも、「懐かしの母の味」を独力で再現できたことの喜びの方が勝っていたから。


「……茶色い弁当ですね」

 ぐさり。

「卵焼き、焦げてますね」

 ぐさぐさぐさり。

 鋭利な針のようなものが、俺の心臓に突き刺さる。

 お昼どき、学食で合流したよーちゃんにお弁当を渡し、その中を見てもらったときに彼女の口から飛び出てきた所感だった。

「か、母さんが作ってくれてた弁当を、再現してみた!」

 どうやら弁当というのは世間一般には彩りや栄養バランスを気にして作るものらしい。よーちゃんの反応も、そういう常識的な知識と照らし合わせての率直な感想で、悪気はないのだろうということは、彼女の素朴な、無垢な調子の声色から推測できた。

「っ、連君のお母様の。確かお母様は……」

「……ああ」

 だが目の前の弁当が、俺の母の作ったものの再現だと知ったよーちゃんは、息を呑んだようだった。陽さんの記憶から、おそらく俺の家庭環境については把握しているはずだ。

「なるほど。じゃあ食べてみますね。いただきます」

 よーちゃんは備え付けられたプラスチック製の箸を使って、黙々と弁当を食べ始める。

「いただきます」

 俺もそれに合わせるように自分の分の弁当を食べ始めた。

(うーん、やっぱりうまい! 作って正解だったな)

 卵焼き以外は普段食べ慣れている冷食ベースで統一したので味見はしていなかったが、案の定湿ったふりかけご飯との相性が抜群で美味かった。卵焼きについても味見をしていたため分かっていたが、時間をおいて味が馴染んだためか、作りたてとは別の美味しさを感じた。

 少なくとも失敗ではない。俺が食べる分には大成功だろう。問題はよーちゃんの反応だ。

 しばらく無言で弁当を食べ進めていたよーちゃんであるが、あるところで箸を止めた。

「美味しい。美味しいですよ、連君」

「そうか。お口に合うようで、何よりだよ」

 肩の荷が下りたような気がした。

「連君のお母様の想い、しかと受け取りました」

「えあっ? お、大袈裟だよ……」

「大袈裟じゃないです。こんなに美味しい弁当を、朝早く起きて作ってくださっていたのでしょう? そこにどんな想いが込められていたのか。その一端を知れた気がして良かったです」

 真面目な声色でよーちゃんが話すのを見て、再び肩に何か重い物が乗ったような気がした。だがその重みは、かつて俺を支えてくれていたもので、それは両肩に優しく手を添えてくれるかのような、悪くない重みだった。

「正直、美味しいって言ってくれるか不安だった。ご指摘の通り茶色ばっかだし、卵焼きは焦げてるし、具材も……冷食ばっかだし。俺は好きな弁当だけど、手抜きだって言われたら反論できないし」

「冷食は別にいいと私は思いますよ? オリジナルは言ってました。冷凍食品は、食品メーカーの努力の結晶で、それを軽んずる者は作る者へのリスペクトに欠けていると。手軽に美味しくて衛生面的に安心だし、積極的に活用すべきだとも」

「そ、そうか。陽さんらしいな」

 よーちゃん越しの陽さんの言葉に俺は膝を打つと同時に、彼女の言葉に救われたような気がした。

「それに……実はオリジナルも好きだったんですよ? 冷食だらけの茶色い弁当。……忙しい中、父親が作ってくれてた弁当が」

「っ! そ、そうか……。唐揚げが好きってそういうことか……」

 唐揚げは、一から自分で作ろうとするとそこそこ手間がかかる料理で、弁当に入れるなら冷食を使った方が圧倒的に楽だというのは、自分で作ってみて感じていた。おそらく陽さんの家の……お父さんが作っていた弁当も俺の母が作った弁当と同じような理屈で作られたものだったのだろう。

「だからこの弁当は、問題ないと私は考えます。むしろ何というか、オリジナルの記憶の奥底にある懐かしいものが呼び起こされて、心がぽかぽかと暖かくなりました。ありがとうございました、連君。ごちそうさまです」

 よーちゃんは両手を合わせたポーズをとると、空になった弁当箱を畳んで手渡してきた。俺はそれを受け取る。

「どういたしまして。こちらこそ、ごちそうさまでした」

 俺もよーちゃんに対し、両手を合わせ返す。

 よーちゃんが一礼して立ち去った後、俺は目を閉じる。……弁当一つで色んな事を考えさせられた1日だった。よーちゃんと弁当についてあれこれ話し合えただけでも、早く起きて弁当を作った甲斐があったと感じる。

 ……瞼の裏に映った在りし日の母の顔は、にっこりと笑っていたような気がした。


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